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先見創意の会

令和4年度税制改正要望

竹原将人 (税理士)

1.はじめに

令和4年度税制改正要望が8月31日に各省庁から公表された。改正要望の主なものとしては「基金拠出型医療法人における負担軽減措置の創設」が挙げられるが、コロナ禍の影響で「感染症有事に備える取組に伴う税制上の所要の措置」も内容が明確に定まっていないながらも取り上げられている。税制改正要望の内容を検討等した上で税制改正大綱が12月に公表されると考えられるため、税制改正要望の内容を把握することは税制改正法案の参考になると考えられる。本稿では令和4年度税制改正要望について解説する。

2.解説

(1)税制改正要望の概要
医療機関に関連した税制改正要望の主な項目は以下の通りである。前述の2点のほか、令和3年度税制改正で新設された税制の拡充として、「地域医療構想実現に向けた税制上の優遇措置の拡充」が要望されている。

【令和4年度税制改正要望項目】

(2)基金拠出型医療法人における負担軽減措置の創設
①要望内容・趣旨
持分なし医療法人への移行を促進するため、持分の払い戻しが経営に与えるリスクの高い医療法人について、持分あり医療法人(認定医療法人)から基金拠出型医療法人へ移行する際に、当初出資金を超える部分に課税されるみなし配当課税(所得税・住民税(※))が、基金が払い戻しされるまで納税猶予される。さらに、基金拠出型医療法人への移行後、相続・贈与発生時の基金にかかる相続税・贈与税が猶予される。
※厚生労働省の令和4年度地方税制改正(税負担軽減措置等)要望事項より

【制度イメージ】
 

②背景
平成18年の医療法改正により医療法人の非営利性の徹底と地域医療の安定性の確保のため、平成19年4月以後は持分なし医療法人しか設立できなくなったが、持分あり医療法人は当分の間従来どおりの形態で継続できることとなった。

しかしながら、令和3年3月末時点において、医療法人の総数56,303に対し持分あり医療法人数が38,083と約67%を占め、持分なし医療法人へ移行が十分に進んでいるとはいえない状況であったため、その促進策が講じられることとなった。

③留意点
本制度は持分あり医療法人が認定医療法人の認定を取得していることが前提となっていると考えられるため、認定要件を充足する必要がある。また、認定医療法人制度は現状令和5年9月末が認定期限となっている。認定医療法人制度は、医療法において規定されているため、別途医療法の改正も制度運用上必要になると考えられる。

【認定要件】

(3)感染症有事に備える取組に伴う税制上の所要の措置
①要望内容
経済財政運営と改革の基本方針2021に基づき、感染症有事に備える取組について、医療機関への支援等を含め、より実効性のある対策を講じることができるよう検討を行い、この検討結果等を踏まえ 税制上の所要の措置を講じることとされている。

②経済財政運営と改革の基本方針2021(令和3年6月18日閣議決定)
本制度に関連する方針内容として下記2点があり、この方針に基づいた税制改正が検討されることとなる。

ア 感染症を巡る状況を踏まえつつ、個々の医療機関の経営リスクに配慮しながら、病床や医療人材の確保に関する協力を国や地方自治体が迅速に要請・指示できるようにするための仕組みや、平時からの開発支援を含め治療薬やワクチンについて安全性や有効性を適切に評価しつつ、より早期の実用化を可能とするための仕組み、ワクチンの接種体制の確保など、感染症有事に備える取組について、より実効性のある対策を講ずることができるよう法的措置を速やかに検討する。あわせて、行政の体制強化に取り組む。

イ 今回の感染症対応で明らかとなった医療提供体制の広域的対応の遅れ、特に大都市圏における広域的対応の未進捗に対処する必要がある。このため、厚生労働省は、大都市圏における第3次医療圏を超えた医療機関・保健所サービスの提供等について、広域的なマネジメントや地方自治体間の役割分担の明確化を図る。

(4)地域医療構想実現に向けた税制上の優遇措置の拡充
①要望内容
地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律における認定再編計画(地域医療構想調整会議において合意されていることが条件)に基づき取得した資産(用地・建物)について、令和3年度税制改正で創設した登録免許税の軽減措置に加え、不動産取得税、固定資産税の課税標準が現行の2分の1に軽減される。

②背景・趣旨
経済 財政運営と改革の基本方針2019(令和元年6月21日閣議決定)において、民間医療機関を含めて地域医療構想調整会議における議論を促すこととされており、税負担のない公立 ・公的医療機関のみならず、民間医療機関にも再編が求められている中、税負担において可能な限り公平性を確保することが必要であるとされている。

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竹原 将人(税理士)

◇◇竹原将人氏の掲載済コラム◇◇
◆「認定医療法人制度の実務上の留意点」【2021年8月17日掲載】
◆「医療法人の第三者承継」【2021年4月13日掲載】
◆「コロナ禍における補助金制度と税制について」【2020年11月3日掲載】
◆「出資持分の評価に対する新型コロナウイルスの影響」【2020年8月11日掲載】

☞さらに以前の記事はこちらからご覧ください。

2021.11.16