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遅い!「コロナ病床確保料」検証

楢原多計志 (福祉ジャーナリスト)

新型コロナウイルス患者向けの病床を確保した医療機関に交付される「新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金」(コロナ病床確保料)が適切に交付されているかどうか、厚生労働省が実態調査を始めた。コロナ病床確保料の交付額は20年度と21年度を合わせて約3兆3848億円にも達したが、早い段階から一部医療機関が看護師不足でコロナ患者を受け入れできないのにコロナ病床確保料を受け取っている─と指摘されていた。実態調査の「出遅れ感」は否めない。

▽会計検査院の指摘と提言

1月23日、厚労省は都道府県にコロナ病床確保料の適正な執行と調査を要請した。回答締め切りは2月10日。これに先立つ同月13日、会計検査院から不適切な運用を指摘され、改善を提言されていた。

会計検査院の指摘は大まかに言って2つある。国公立病院や地域の中核病院など496機関(交付額合計約1兆4057億円)を抽出して調べたところ、コロナ病床確保料を受け取っていた医療機関の利用率が低く、コロナ病床料の設定が不適切だったという。

利用率については、「21年1月、同年8月、22年2月の感染拡大時でも利用率は平均6割程度だった」「利用率50%以下の医療機関の9割弱が受け入れ要請自体が少なかったと回答」「1割程度が空床があったが、受け入れを断ったと答え、医師や看護師が不足を理由に挙げたところがあった」などとして厚労省に交付の対象を絞り込むよう制度の見直しを提言した。

コロナ病床確保料は医療機関の役割や病床などに応じて1床1日あたり1万6000円から43万6000円までが交付されるが、会計検査院は上限額を問題にした。例えば、一般病院のICUの場合、コロナ病床確保料の上限額は30万1000円で設定され、診療報酬平均36万3821円より6万2821円低い。「これでは逸失利益の十分な補償にならないのではないか」と指摘した。

一方、特定機能病院のICUは、上限額が43万6000円で設定され、診療報酬平均36万9130円より6万6870円高い。「補償額が高すぎないか」としてコロナ病床確保料の算定方法や上限額の見直しを提言した。

▽「幽霊病床」をチェック

会計検査院の指摘や提言を受けて、厚労省は都道府県に交付されている医療機関が必要な看護師数などが確保されていないことを理由にコロナ患者の入院受け要請を断った事例があったかどうか調べるとともに、適切に患者を受け入れなかった場合、交付金の返還や執行停止などの対応を取ったかどうか、厚労省に報告するよう要請した。

また同日、厚労省はコロナ病床確保料に関する「Q&A」(第9版)を都道府県に通知して点切な交付を要請した。

その中で「一時的に看護師などが配置できず、コロナ患者を受け入れられない病床は対象にならない」「コロナ病床を確保するため休止している病床も対象にならない」ことを改めて強調し、徹底を求めている。

看護師や医師などの医療スタッフが揃っていないにもかかわらず、「コロナ病床を確保した」とコロナ病床確保料を申請して受け取っていた医療機関(いわゆる「幽霊病床」)が存在していることは確か。

患者家族や患者搬送に携わっている消防職員だけではなく、地方自治体職員からも実態が伝えられているからだ。厚労省の実態把握は明らかに遅れている。

▽机上の制度

個人的には、「雇用調整交付金」の詐取のように、人の弱みに付け込んで交付金詐取を目論むような悪質な医療機関や経営者は存在しない(と信じたい)。医療機関はコロナ患者の受け入れを目指して専用病床とスタッフを用意している(そう信じたい)。

この問題の背景には曖昧で分かりにくい制度の仕組みにあるように思う。要綱を読んでもコロナ病床確保料の設定金額(上限額を含め)が理解できない。例えば、会計検査院が指摘しているように診療報酬との関係やバランスが分からない。医療現場の声を聞かずに急場しのぎで設計した「机上の制度」のように思える。実態にそぐわない制度設計のため、結果としてQ&Aを9回も出して説明するハメになったのではないか。

一方、利用率が低いことをどう受け止めるのか。「空室は交付金(税金)の無駄」と一刀両断するのはどうかと思う。緊急事態下、「空きベッドがあって安心だ」と考える意見もある。ここは医療スタッフの「生の声」が聞きたい。

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楢原多計志(福祉ジャーナリスト)

◇◇楢原多計志氏の掲載済コラム◇◇
◆「最低賃金改定」【2022.10.4掲載】
◆「改めて「かかりつけ医ってなんだ?」【2022.6.14掲載】
◆「増収増益というが」【2022.3.1掲載】
◆「『幽霊病床』のレッテル」【2021.10.26掲載】

☞それ以前のコラムはこちらからご覧ください。

2023.01.31