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先見創意の会

改めて「かかりつけ医ってなんだ?」

楢原多計志 (福祉ジャーナリスト)

ことし5月、財政制度等審議会(財政審・財務相の諮問機関)の建議に「かかりつけ医登録制導入」が盛り込まれた。財政再建のため社会保障抑制策が必須で、その施策の1つとして導入を提案した。しかし、「かかりつけ医」の定義さえ定まらないうえ、どうして、かかりつけ医を登録制にすれば医療費が減るのか、その論理が分からない。死語だが、まさに、ナンセンス!

▽登録制を導入

建議書の中から医療に関して際立った項目を抜き出すと、こうなる。①新型コロナ対策で16兆円かかった。病床確保料の仕組みを改めるなどして、診療報酬を感染拡大前の水準になるよう見直すべき②「かかりつけ医」を明確にして「かかりつけ医を持つ医療機関」を認定する仕組みを設け、事前登録などを段階的に進めるべき③リフィル処方箋は保険者へのインセンティブで評価すべき④薬価制度は毎年改定を完全実施し、薬剤費総額に「マクロ経済スライド」(公的年金のように経済指標をベースに給付額を自動調整(実際には抑制)する手法)を導入すべきだ─。

最も気になったのは、➁「かかりつけ医」の登録制導入だ。分からない。そもそも「かかりつけ医」ってなんだ? いつから定義ができたのか? 国民(患者・家族)の間で定着している言葉なのか? 都合よく、「かかりつけ医」なんて言葉を使っていいのか。

▽「家庭医」を意識

想像するに、「かかりつけ医」という言葉には、英国やフランスが制度化している「家庭医」(地域登録制)を多分に意識されているようだが、英国もフランスも財政だけではなく、保健医療や文化、生活などにまで踏み込んで長い議論の結果、ようやくたどり着いた結果だ。しかし、いまなお両国内では患者・家族からの不満や批判が絶えないことを知っているのだろうか。

「カネが足りないから、かかりつけ医登録制度だ」という論理だけで、「導入すべき」は早急すぎるというより、あまりに杜撰かつ場当たり的ではないか。

財政審は経済財政の専門家の集まりだ(素人もいるが)と自負するなら、「かかりつけ医」事前登録制を導入すれば、年間●●円くらい節約できる」くらいの財政効果を示すべきではないか。言うだけなら政党の公約と変わらない。

興味深い調査結果が出た。日本医師会のシンクタンクである日本医師会総合政策研究機構(日医総研)が5月24日に公表した「日本の医療に関する意識調査」(3月実施、回答者1152人)だ。この中に「かかりつけ医」に関する調査が載っている。かかりつけ医の調査は8回目だという。

コロナ禍に実施されたにもかかわらず、「かかりつけ医がいる」と答えた人は全体の55.7%で「過去の割合からほとんど変化がなかった」という。約2年前の第7回は55.2%。さらに2年さかのぼる第6回は55.9%だったから0.2㌽下落していた。

なぜ、「かかりつけ医」が定着しないのだろうか。病気になりにくい若い世代なら「必要を感じない」と答えても理解できる。しかし、この調査で分かることは、「かかりつけ医がいない」と答えた人の53.6%が「どういう医師がかかりつけ医なのか分からなかった」と回答し、「かかりつけ医」の意味が充分理解されていないことだ。

また「かかりつけ医がいないが、いるとよい」と答えた人の71.1%が「かかりつけ医に関する情報が不足している」と回答。日医総研は「普及に向けた情報提供が必要だ」と結んでいるが、「かかりつけ医」は本当に必要なのだろうか。

▽誰の「かかりつけ医」

日医が「かかりつけ医」普及のためパンフレットなどを使って説明しているが、正直、分かりにくい。以下、パンフレットの一部。

「まず、お近くのお医者さんに診てもらってください。あなたやあなたの家族の健康のことをいつでも相談できるお医者さん、それがかかりつけ医です。病気の状況に応じて病院を紹介してくれるので安心です」とある。

医師に聞きたい。あなたは、24時間、365日、いつでも、どこからでも、相談を受けられますか? あなたはカルテ以外の情報として患者や家族の健康状態をどのくらい知っていますか? あなたは誰の「かかりつけ医」ですか?

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楢原 多計志(福祉ジャーナリスト)

◇◇楢原多計志氏の掲載済コラム◇◇
◆「増収増益というが」【2022.3.1掲載】
◆「『幽霊病床』のレッテル」【2021.10.26掲載】
◆「離職の隠れた要因ハラスメント」【2021.7.6掲載】
◆「どこが”科学的”なのか」【2021.3.16掲載】

☞それ以前のコラムはこちらからご覧ください。

2022.06.14