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外国人と1人暮らしの激増で変わる国のカタチ

河合雅司 (ジャーナリスト、人口減少対策総合研究所 理事長)

5年に1度の国勢調査の結果が公表された。外国人を含む総人口は2020年10月1日現在1億2614万6099人となった。前回2015年の調査から94万8646人、率にして0.7%のマイナスである。国勢調査で人口減少が確認されたのは2回連続だ。

減少幅で比較すると、前回調査の96万2607人減より1万4000人ほど縮小しており、減少スピードに鈍化が見られる。国立社会保障・人口問題研究所(社人研)は2020年の総人口を1億2532万5000人と推計していたので、想定よりは緩やかに減っているということである。

だからといって、総人口の減少にブレーキがかかってきたというわけではない。スピードが鈍化した理由は、外国人人口が想定より増えたためである。
詳細を確認してみよう。日本人人口だけを取り出してカウントすると1億2339万8962人であり、前回調査より178万3253人減った。減少幅で見ると、前回調査は107万4953人減だったので、70万8300人も拡大したということだ。

ちなみに、社人研は2020年の日本人人口が1億2321万9000人になると推計しており、ほぼ見通し通りの結果であった。

これに対して外国人人口がどうだったかといえば、前回調査より83万4607人増えて、過去最多の274万7137人となった。率にして43.6%もの激増である。増加幅で比較すると、前回は10万4331人増だったので実に8倍近い驚異的な伸びである。要するに、日本人人口の減少分178万3253人の半数近くを、外国人人口の増加分が穴埋めしたということだ。

外国人人口がこの5年間で急増したことは今回の国勢調査の大きな特徴の1つだが、背景には人手不足がある。

生産年齢人口(15~64歳)は7508万7865 人で前回調査より226万6232人も減った。先述した通り、総人口の減り幅は94万8646人なので、生産年齢人口の減少ペースがいかに速いかが分かる。

各産業の要請を受けて、安倍晋三政権以降、政府は外国人労働者の在留要件を次々に緩和し、単純労働者に永住権の道まで開くなどして積極的に受け入れてきた。これが外国人人口を押し上げる大きな要因になったのである。

外国人人口の増加に関しては、受け入れの拡大が人口減少問題の解決策になるとの意見もある。だが、話はそれほど単純ではない。

中国や韓国をはじめとする多くの国で少子高齢化や人口減少が加速し始めている。各国とも受け入れを拡大するだろうから、日本が安定的に外国人労働者を集められる保証はない。

仮に安定的に来日した場合には、異なる課題が出てくる。日本のような人口が減少する国における外国人人口の増加は、人口が増えている国とは事情が異なる。現状では総人口の2.2%と少数派だが、これから日本人は急減していくのだから、現行のペースで増えたとしても総人口に占める割合は急速に大きくなる。

「外国に由来する人口」という用語がある。在留外国人に帰化人口、国際児(外国籍の親を持つ子供)を加えた人口のことだ。外国人人口とはカテゴリーが一致するわけではないが、その推計値を国土交通省の資料が紹介している。それによれば、2065年には総人口の12.2%にあたる1076万人ほどになるというのだ。年齢別では、0~19歳で16.0%、20~44歳では17.9%を占める。若い働き手の5~6人に1人が該当する計算だ。

外国人人口の急増が続けば、これらの数字はさらに大きくなる。日本社会はあと半世紀もしないうちに現在とは相当異なる姿になるだろう。日本人人口が増えていた時代ならば兎も角、日本人が激減する状況下で外国人を大規模に受け入れるということは、短期間で社会文化や生活習慣が変わることを許容することでもあるのだ。

岸田文雄政権はさらなる拡大を検討しているようだが、短期間での社会の変化は国民に大きなストレスを与える。国民のコンセンサスを得ずして推進したならば、欧米諸国で見られるような社会の分断が懸念される。

今回の国勢調査では、外国人人口以外にも大きく増加したことがもう1つあった。1人暮らし世帯だ。前回調査よりも14.8%増え、2115万1042世帯となったのだ。世帯全体の38.1%を占めるに至った。

「夫婦と子供からなる世帯」が25.1%、「夫婦のみの世帯」が20.1%、「ひとり親と子供からなる世帯」が9.0%なので突出している。

1世帯あたりの人員を見ると、平均2.21人だ。1人暮らしが激増する一方で、3人以上の世帯はいずれもマイナスとなったためであるが、これはこれまで当然のこととしてきた「家族の支え合い」があてにできない社会の到来を意味する。

1人暮らし世帯の中でも、65歳以上の高齢者が占める割合が大きくなっている。男性高齢者は24.0%、女性高齢者は48.2%だ。

実数で見ると、1人暮らしの高齢者は671万6806人(男性230万8171人、女性440万8635人)に上っており、65歳以上人口の19.0%(男性高齢者は15.0%、女性高齢者は22.1%)を占めている。内閣府の高齢社会白書(2021年版)によれば、2040年にはさらに上昇し男性20.8%、女性24.5%となる見込みである。

1人暮らし世帯を10歳年齢階級別に見ると、男性は25~34歳の28.8%がトップだ。女性は75~84歳の26.0%が最多で、85歳以上も25.6%とこれに次ぐ水準だ。

女性において75歳以上での割合が大きくなっているのは、長寿化の影響である。平均寿命は女性のほうが長く、夫と死別・離別したり、未婚のまま高齢になったりした人の老後期は、かつての高齢者とは比較にならないほど長くなっている。

しかも、三世代同居は昔と比べて大きく減った。子供がいても同居しない、あるいは少子化で子供そのものがいないといったケースも多くなっている。今後はますますこうした傾向が強まるものとみられる。

75歳を超えた1人暮らしは、地方だけでなく大都市でも買い物難民や通院難民を生みやすい。認知機能が低下したり、大きな病を患ったりしたらなおさらだ。

いまや年金収入だけでは老後の生活を賄いきれないが、光熱水費や家賃というのは複数人いる世帯よりも1人暮らしのほうが割高となる傾向にある。

今後さらに懸念される点は、就職氷河期世代に代表されるような非正規雇用のまま老後期を迎える人の増大だ。こうした働き方を余儀なくされてきた人たちは収入が少なかったり、退職金もなかったりする。年金の加入期間が短かったり、未納期間が長かったりすれば無年金や低年金となる。働き続けようにも、年齢を重ねるとともに雇用条件が厳しくなるのが現実だ。このまま高齢期を迎えて1人暮らしとなれば、従来の社会保障政策の枠組みの中ではカバーしきれない新たな課題が持ち上がる可能性が大きい。

外国人人口の増大と1人暮らしの増加は無関係ではない。安易な受け入れ拡大によって低賃金で働く外国人労働者が増加したならば、正規雇用を含む日本人全体の賃金を押し下げる方向へと作用することになりかねないからだ。収入の少ない日本人が増えれば、人生設計が立てづらく、未婚者を増やすことにつながる。社会コストも大きくなっていく。

前回調査からの5年間で激増した外国人と1人暮らし世帯というのは、今後の日本社会に与えるインパクトが極めて大きい。繰り返すが、人口減少に伴ってこれから激変期を迎える日本にとって、これら2つの要素が加味されることで国家の骨組みはより大きくひずむことになるだろう。今回の国勢調査の結果は、対策を急ぐよう求めるシグナルなのだ。

これら2つの要素が加わった20年後、30年後の人口減少日本はどんな姿になっているのだろうか。政府には早急にシミュレーションを行い、先手もって対策を講じていくことが求められる。

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河合雅司(ジャーナリスト、人口減少対策総合研究所 理事長)

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2022.01.04