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先見創意の会

DX成功の秘訣は、「リスキリング」の充実だ

河合雅司 ジャーナリスト

21世紀を代表するトピックスとして、何世紀も語り継がれるであろう〝悪夢の2020年〟が終わった。「今年こそコロナ禍を脱したい」と、年頭に願った人が多かっただろう。

残念ながら、新型コロナウイルスの感染は広がり続けている。各国でワクチン接種が始まったが、どれぐらいの成果をもたらすのかはっきりしない。いつかは収束するにしても撲滅に至るわけではないので、時折小さな感染拡大が起きるという状態が延々と続くのだろう。

だが、コロナ禍も悪いことばかりではない。副産物も少なくないからだ。その一つが、デジタル改革の機運の高まりだ。菅義偉政権がデジタル庁の創設を目玉政策としたこともあって、いまやメディアで「デジタルトランスフォーメーション」(DX)という言葉を見ない日はなくなった。

DXをかいつまんで説明するならば、データやデジタル技術を活用して組織やビジネスモデルを根底から変革し、新たな価値を創出する製品やサービスを生み出すことだ。それによって競争上の優位性を得ようということである。人間が担ってきた仕事を単純に機械に置き換え、業務の効率化を図る「IT化」と誤解している人もいるが、根本的に異なる。

DXが本格化すれば、産業構造自体が大きく塗り替えられるだろう。異分野の企業が連携し、全く想定をしていなかったビジネスへの転換を迫られることにもなる。これまで畑違いだと思い込んでいた業種の企業が、突如ライバルとなって登場するかもしれない。すべての企業が何らかの形で巻き込まれていくことだろう。

DX自体は、コロナ禍がもたらしたわけではない。「コロナ前」からの日本の課題であり、積極的に取り組みを進めてきた企業も少なくなかった。その一方で、必要性を認識しながらも出遅れていたところもあった。行政機関なとはその典型例だが、コロナ禍が積年の宿題を一気に加速させようとしていることは間違いない。

多くの人が「DX時代」の到来を強く認識したのは、三大メガバンクが大規模リストラ計画を相次いで表明した2017年であろう。翌2018年には、経済産業省が「DXを推進しなければ2025年以降、年間最大12兆円の経済損失が生じる可能性がある」との報告書をまとめた。いわゆる「2025年の崖」だ。

これを受けて、2019年にはデジタル改革に対応できない中高年の社員を中心とした「黒字リストラ」が急増したことも記憶に新しい。

コロナ禍となって以降、上場企業には早期・希望退職を募集する動きが広がっている。この中には本当に業績が悪化して「赤字リストラ」をせざるを得なくなった企業もあるが、コロナ禍の「赤字」に便乗する形で組織の新陳代謝を図ろうという「黒字リストラ」の流れを受け継ぐところも少なくないはずだ。

すべてが即座に早期・希望退職者を募集せざるを得ないほど経営的に追い詰められているとは思えないからである。いずれにせよ、コロナ禍をきっかけとしてDXが飛躍的に広がる結果となるだろう。

DXが期待されるのは、経済成長につながるだけでなく、人口減少対策としても有効だからだ。産業構造を変え、成長分野を創造し得るDXは、人口減少対策の「切り札」と言ってもよい。

少子化に伴って若き働き手は年々減り続け、終身雇用や年功序列といった日本型労働慣行を維持することが難しくなってきている。他方、総人口の減少は国内マーケットの縮小に直結する。若手社員の減少による組織のマンネリを打破し、内需依存から脱却するには、生産性の向上と高付加価値の製品・サービスへのビジネスモデルへの転換が不可欠だからだ。

一方で、DXには大きな課題もある。過渡期における失業者の増大が懸念されることである。

経済産業省の資料によれば、米国ではデジタル改革によって機械に代替しやすい「中スキルの職業」が減少した。反対にで、デジタル化するにはコストが高くつく「低スキルの職業」や、デジタル化自体が難しい「高スキルの職業」が増加するという労働市場の両極化が進んだ。日本においても、DXが進むにつれて同様の傾向が見られることだろう。

DXが先行する三大メガバンクがすでに証明している。支店の統廃合や窓口業務の見直しによって事務職などの配置転換が行われているのだ。みずほフィナンシャルグループにおいては、希望する社員に「週休3日」や「週休4日」を認めた。各社とも大がかりな組織改革を迫られている。

これについては、厚生労働省の「労働経済の分析」が興味深い試算を紹介している。AIの進展による2030年までの就業者への影響として、製造業は161万人減る一方、非製造業は1万人減にとどまるとの分析だ。その上で、少子高齢化に伴って働き手世代(20~64歳)それ以上に激減するため、むしろ約64万人もの人手不足になると推計したのだ。しかも、技術が飛躍的に進んだ局面では、それに応じて新たな職業や業務が生まれるとしている。

2015年には、野村総合研究所がオックスフォード大学の研究者との共同研究が、デジタル化によって10~20年後には日本の労働力人口の49%が人工知能(AI)やロボットなどで代替可能になるとの推計を発表し、大きな反響を呼んだ。失業者の増大に備えてベイシックインカムの導入が必要といった声も挙がったが、どうやら失業者が街に溢れかえるような状況にはなりそうもない。

むしろ、われわれが急ぐべきは64万人の人手不足の手当てと、過渡期に仕事を奪われる人が出てくることへの対応だ。雇用の流動化が起きる中で職を奪われた人が、スムーズに次の仕事を見つけられるようサポート態勢を強化することである。

もう1つの課題は、各企業ともDX向けの人材の不足が深刻なことだ。経産省の委託調査は、2030年には〝従来型のIT人材〟が9万6500人ほど余るが、〝先端IT人材〟は54万5000人ほど足りなくなると試算している。現状、各企業が抱えているIT人材では対応し切れないということである。

不足するのは、先端IT人材だけではない。仕事の在り方を根底から変革するDXが、「新たな業務」を生み出すことはすでに述べた通りだ。新たな業務に就く人たちには、「リスキリング」(再訓練)が不可欠である。

各企業とも、〝従来型のIT人材〟はもとより、仕事を奪われる職種の人々を一刻も早く「新たな業務」の戦力として育成することが求められる。

というのも、少子高齢化で働き手世代が減っていくからだ。DXで仕事を奪われる人たちをすべてリストラしてしまうのは、大きなリスクである。多くの企業がDXに乗り出すのだから、新たに人材を採用することは簡単ではない。自社社員にリスキリングを行うことで新たな「適材」として再生し、「適所」にコンバートさせたほうが現実的なのである。

とはいえ、リスキリングのプログラムを各企業が用意し、実施するのはコスト面からしても困難である。DXがかなりの数の人々に仕事を変わることを迫る以上、政府主導で基盤を作るしかないだろう。企業間協力や官民連携によってコストの引き下げや受け入れ規模の拡大を図ることである。

いまや国際間競争に望むにあたってDXは必須である。だが、形だけを整えても機能するわけではない。同時に、人口減少に伴って少なくなる働き手世代がやりがいをもって働き続けられるようにしなければならない。リスキリングの成否は、人口が減り行く日本の浮沈のカギを握っている。

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河合雅司(ジャーナリスト)

◇◇河合雅司氏の掲載済コラム◇◇
◆「コロナへの”過剰な恐怖心”が、日本を破綻に追い込む」【2020.9.22掲載】
◆「コロナばかりに目を奪われるな」【2020.5.19掲載】
◆「少子化対策へ20代の母親の所得税を生涯免除せよ」【2020年1月7日掲載】

☞それ以前のコラムはこちらから

2021.01.12