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先見創意の会

コロナへの〝過剰な恐怖心〟が、日本を破綻に追い込む

河合雅司 ジャーナリスト

コロナ禍による日本経済の落ち込みは予想されていたこととはいえ、具体的な数字を突き付けられると、その深刻さに改めて驚愕する。

内閣府が発表した2020年4~6月期のGDP(国内総生産)の速報値は、物価変動の影響を除いた実質で前期比マイナス7・9%である。このペースが1年続くと仮定した年率換算ではマイナス28・1%だ。リーマン・ショック直後(2009年1~3月期)の年率17・8%を大きく上回る戦後最悪の落ち込みとなりそうである。

4~6月期で業績はいったん底打ちしたとの見方も強く、民間エコノミストには7~9月期に高い伸びを見込む声もある。だが、感染症の完全収束は見通せておらず、本当に回復となるかは分からない。

ここまで数値が悪化したのは、昨年10月の消費税率引き上げで内需が失速したタイミングと重なったことも影響しているが、注目すべきはその内容だ。GDPの過半数を占める個人消費が、外出自粛や移動制限によって大きく落ち込んだため、自動車などの「モノ消費」から外食やレジャーといった「コト消費」に至るまで幅広い分野において低迷してしまっているのだ。

企業は先行きの不安感から設備投資に躊躇し、輸出も落した。外国人観光客もコロナ前の水準に戻るにはかなりの時間を要するだろう。まさに八方塞の状況であるが、日本にとってとりわけ大きな痛手は内需の縮小だ。日本企業の多くは内需にウエートを置いてきたためである。

日本経済を回復させるには景気刺激策もいいが、不可欠なのは国民の新型コロナウイルスに対する恐怖心を払拭することだ。

とりわけ日本人の過度とも思える恐れ方が、状況を難しくしている。厚労省の人口動態統計によれば、コロナ以外の理由も含めた1月~6月の死亡数の総計は69万人余りだ。実は、前年の同期間比で1万6253人も減少している。多くの国に比べても低水準である。マスクや手洗い、「3蜜」の回避など予防策も分かってきたにもかかわらず、神経質になり過ぎている人が実に多い。医療機関への受診抑制など、分かりやすい例であろう。

「重症化リスク」が大きいのだから、高齢者がより警戒するのは当然と言えば当然だが、「withコロナ」どころか隠遁生活のように閉じこもっている人までいる。

感染症への向き合い方は人それぞれである。しかしながら、日本が高齢社会にあることを考えると、高齢層の消費マインドが極端に冷え込む状況は無視できない。内需の牽引役が、一斉にいなくなるようなものである。このまま過剰な自粛生活が続いたならば、日本経済は回復どころか決定的なダメージを受ける。

もちろん、過剰反応は若い世代にも多数見られる。「自粛警察」や感染者に対する差別に見られるような暴挙は論外だとしても、集団心理や同調圧力に流される人は多い。

こうした人々の多くは、他人の目ばかりが気にかかる。自分たちが企画した事業やイベントにおいてクラスターが発生したら「誰かから後ろ指をさされるのではないか」と不安になる。

ひとたび冷静さを失うと、いくら政府が経済再開と感染防止の両立は可能だと説明しても、耳が受け付けないようだ。誰かから直接何かを言われたわけでもないのに、自身の責任回避に奔走し、準備に時間を重ねてきた事業まで簡単に中止や延期してしまう。同調圧力の高まりに誰も反論できなくなる。感染者がほとんど出ていない地域や感染リスクが極めて低いケースにおいても一律の対応を求めようとする。
このままでは消費はどんどん冷え込み、日本経済は傷口を広げるばかりだ。自ら首を絞めているようなものである。日本人自身が「経済不況」を作り出していると言ってもよい。

そうでなくとも、日本はコロナ禍からの再興にハンデを追っている。人口減少が深刻化するタイミングとは重なっていることだ。多くの先進各国がコロナ禍によって出生数が減少すると予想しているが、日本も間違いなく少子化が加速する。
日本の少子化は「コロナ前」から厳しい状況にあった。コロナ禍の報道に隠れてしまったが、厚生労働省の人口動態統計によれば「コロナ前」の2019年の合計特殊出生率は前年比0・06ポイント減の1・36に急落した。

合計特殊出生率は2005年に過去最低の1・26を記録した後、ここ数年は年間出生数に歯止めはかからなかったものの、1・4台前半まで回復していた。1・3台に下落したのは1・39だった2011年以来である。

「わずか0・06ポイントの下落ではないか」と思う人もいるかもしれないが、実数にすると前年比5万3166人もの下落である。2019年の年間出生数は86万5234人に過ぎず、5万人を超す出生数の下落というのはかなり大きい。

「コロナ前」も危機的状況にあったのに、コロナ禍で若い世代の雇用環境が悪化すれば先行きはさらに厳しくなる。

リーマン・ショック時と比べて上場企業の財務体質が強くなっていたことから、かつての経済危機の際のような資産デフレや失業者が溢れるといった深刻な事態は現時点では回避されている。

しかしながら、コロナ不況が長期化すれば、中小・零細企業はもとより大企業の中でも経営が悪化する企業は増えるだろう。秋以降の倒産件数の増大や失業率の上昇を懸念する見通しは少なくない。8月末までに解雇や「雇い止め」で仕事を失った人は、見込みも含めて5万人を超えた。

非正規雇用の増加はもとより、正規雇用であっても賃下げやボーナスカットが進む状況が拡大すれば、雇用の先行き不安から結婚を断念する人や、子供を諦めるカップルが増えるだろう。

予兆はすでに表れている。厚生労働省の人口動態統計の速報値によれば、1~6月の婚姻数は前年同期間比14・7%もの大幅下落となった。6月までの出生数も前年と比べて8824人減っている。婚外子の少ない日本において、婚姻数の大幅下落は今年末から来年(2021年)にかけての出生数減に直結する。

年間出生数が仮に1割減ったとすれば、2020年の年間出生数は80万人を割り込み、国立社会保障・人口問題研究所の悲観的シナリオの予測値をも下回る。

コロナ不況が長引いて出生数の下落が加速すれば、経済どころか日本社会そのものに致命的な打撃を与えかねない。出生数は20年後の働き手世代(20~64歳)の人数を決めるからだ。想定以上の減少は、国内マーケットの縮小スピードも速めるのだ。

コロナ禍による消費の消失と、人口減少によるマーケットの縮小というダブルパンチでは、日本は不況から脱出できなくなる。過剰な恐怖心が招く景気低迷の長期化は、人口減少に拍車をかけ国家の衰退という取り返しのつかない事態をも招くのだ。

当面、日本がすべきことを二つ挙げるとするなら、一つは新型コロナウイルスを「正しく恐れ」、過剰なまでの恐怖心を一刻も早くぬぐい去ることだ。もちろん、感染対策をおろそかにしてよいと言いたいわけではない。感染リスクの減らし方は分かってきているのだから、対策を徹底しながら社会全体で意識転換を図ることだ。

コロナは完全終息までかなりの時間を要する。一方、個々の人生は短い。感染症と適度に折り合いをつけず、過剰な怖がり方を続けたならば、人生の貴重な時間を無駄に過ごすことになる。

もう一つは、若者の雇用悪化を可能な限り阻止することだ。「コロナ前」には外国人労働者を受け入れなければならないほどの人手不足であった。業種や企業によってはコロナ禍にあっても人手が足りない。一時的には失業者が増える事態になりそうだが、マッチングの仕組みをしっかりすれば働き口が無いわけではないだろう。
そのために提言したいのが、大規模なワークシェアリングの仕組みを作ることだ。政府が緊急措置として実施すべきである。

すでに個々の企業レベルでは、観光客が減ったホテル従業員が地元農家の収穫作業を手伝ったり、居酒屋チェーンの社員がスーパーマーケットに派遣されたりといった業種を超えて仕事をシェアする好事例が広がっている。これをもう少し大々的に展開することだ。

個々人の勤務日数を減らす形にすれば、人件費の削減となるので企業の協力を得やすいだろう。当然、働き手個々の収入が減るが、それは所得税などを期限付きで減免して穴埋めすることだ。失業者を大量に出したならば、政府は巨費を投じて対策を打たざるを得なくなる。少子化を加速させる要因ともなる。
それよりも、ワークシェアで何とか収入を得られるようにし、個々人が次の仕事を見つけたり、再就職のための資格取得や職業訓練を受講したりする時間を稼げるようにしたほうが現実的だ。

実は、ワークシェアリングというのは失業者対策としてだけでなく、人口減少対策にとっても有効である。働き手世代が激減していく状況を考えると、終身雇用は遠くなく破綻し雇用の流動化が進まざるを得なくなる。「コロナ前」においても黒字リストラや副業や兼業が広がり始めていたが、デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展によってこうした流れはさらに推進されるだろう。

景気動向に関わらず、正規雇用者も空き時間を利用して積極的にワークシェアリングに参加して異分野の仕事を体験するようになれば、個々のスキルアップにつながる。こうした中から技術革新に対応できる人材が増えたならば、優秀な人材が成長分野へとシフトする動きも出てこよう。

感染リスクに必要以上に怯え、縮こまってばかりはいられない。コロナ禍を好機に転じる強さと〝したたかさ〟が求められる。


河合雅司(ジャーナリスト)

2020.09.22