自由な立場で意見表明を
先見創意の会

日本は、2050年には、エネルギ―自給国になろう!

岡光序治 (会社経営、元厚生省勤務)

IPCCの流れ

国連の「気象変動に関する政府間パネル(IPCC)」は、2018年に「1.5℃特別報告書」を発表し、30年のCO₂排出量を10年比で45%削減できれば、工業化以前に比べて気温上昇を1.5℃に抑えられると指摘した。そして、今年8月、「自然科学的根拠」(第1作業部会報告書)を公表した。そこでは、世界の人口や経済成長、教育、都市化、技術開発の速度といった社会経済の様々な変化を今後100年にわたって想定した5つのシナリオのもと、2100年までの世界平均気温を予測した。評価結果は、5つのシナリオとも40年までに1.5℃に達する可能性が高いことを明らかにした。(なお、IPCCは、地球温暖化をシミュレーションする際、この度、ノーベル物理学賞を受賞された真鍋淑郎さんらの研究成果を利用したそうである。)

すなわち、各国から宣言されている対策ではまだ足りず、目標の前倒しも含め、さらに脱炭素を加速させねばならないことがはっきりした。温暖化対策の効果が分かるのは20年ほどたってからなので、40年の世界を決めるのは現在どうするかにかかっている。

シェルの「脱炭素」裁判

オランダ・ハーグ地方裁判所は、今年5月、環境NGOによるロイヤル・ダッチ・シェルの気候変動対策が不十分との訴えを認める判決を下し、同社グループのバリューチェーンで排出されるCO₂排出量を、2030年末までに19年比で45%削減するよう命じた。(7月、同社は控訴すると発表)

シェル判決のポイントは4つ。
①気候変動の深刻で不可逆的な結果は地域住民の生存権を脅かし、人権侵害をもたらし得ると認定し、気象変動と人権の関係を明確にした。
②気候変動対策に関する企業の注意義務の基準として、国連のビジネスと人権に関する指導原則を採用した。(この指導原則は、企業が事業活動を通して人権に悪影響を及ぼさないか評価し対応する「人権デューデリジェンス」の実施を求めている。)
③同社グループのバリューチェーンのCO₂排出量の削減義務を認めた。
④判決は、IPCCの18年の「1.5℃特別報告書」を踏まえて、CO₂削減の具体的数値を示した。

この判決は、世界の潮流を浮き彫りにしたものといえそうである。ちなみに、19年にオランダ最高裁が国にCO₂削減義務を認め、気候変動と人権の関係を示したが、この判決はそれを踏襲した。フィリッピンでも国家人権委員会が、化石燃料企業が温暖化を加速させ地域住民の人権を侵害した責任があると指摘している。また、世界各国で、企業のCO₂削減に関する環境規制が整備されていない中、OECDやフランス、ドイツにおいては、その規制に国連の人権デューデリを参照している。

かって日本では、四日市ぜんそくに対し、特定の企業の煙突から煙がモクモクと出ているにもかかわらず、「公害」とした。様変わり、といえる。

欧米は炭素国境調整を検討

EUでは、欧州委員会が7月14日に、2030年までの温室効果ガスの削減目標(1990年比55%減)を達成するための政策パッケージ案を発表し、その1つとして「炭素国境調整メカニズム(略称CBAM)」の規制案を示した。

米国では、9月以降、連邦議会で気候変動対策法案が審議されるが、その際に「炭素汚染者輸入課金」が検討されることになっている。

炭素国境調整は、国内と国外の炭素価格の差を埋める措置である。気候変動対策として、工場排出に炭素税など炭素コストを課せられている自国製品が、課せられていない他国製品よりも競争上不利になれば、自国の排出は減っても、世界全体では排出が増えてしまう。こうした事態を防ぐために、国境において輸入品には自国と同等の炭素コストを課し、輸出品にはいったん課した炭素コスト相当額を還付する。自国の政策を、炭素排出の遺漏を防ぎながら強化するには、国境調整が有用ということである。

調整対象となる製品は、当面、鉄鋼、アルミ、セメント、肥料、電力のみである。排出量計算が容易で、生産コストに占める炭素コストの割合が高い素材・電力などに対象を限定している。

EUでも米国でも、導入については今後の審議次第であり、現時点でははっきりしない。しかし、日本もルール作りに関与する必要があろう。

日本はエネルギー自給国を目指すべき

エネルギーに関し、二つのことを確認したい。(1)エネルギー資源とは、①化石資源、②原子力、③再生可能エネルギー(太陽光、風力、水力、バイオマス、地熱など)であり、電気、水素、灯油などは、2次エネルギーである。(2)新設発電所からの電気コストは、再生可能エネルギーが最も安く、原子力が一番高い(2020年世界調査)。現に、2019~20年の新設発電所の約70%は再生可能エネルギーによっている。

また、CO₂の90%は、化石資源を燃やすことによって出ている。「2050年脱炭素」とは、この時点で、石油と天然ガスをゼロにすることである。

では、再生可能エネルギーでもって必要なエネルギー量を確保できるのか?
できる。その理由は、太陽光は人類全体のエネルギー消費の1万倍存在しているから。
日本は、再生可能エネルギーでもって、エネルギー自給国になれる。また、ならねばならない。

ーー
岡光 序治(会社経営、元厚生省勤務)
◇◇岡光序治氏の掲載済コラム◇◇
◆「『夢の燃料』水素とは?」【2021.6.8掲載】
◆「オゾンガス曝露により新型コロナウイルスを不活化した居住空間の確保策(提案)」【2021.2.9掲載】
◆「『食』が全CO2の3割占める」【2020.10.6掲載】
◆「地球システムのレジリアンスにかかる提案」【2020.6.16掲載】

☞それ以前のコラムはこちらからご覧ください。

2021.10.19