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先見創意の会

「夢の燃料」水素とは?

岡光序治 会社経営、元厚生省勤務

はじめに

水素は全宇宙の元素の9割以上を占め、もっともありふれた物質である。地球上にも多く存在するが、ほとんどは酸素と結びついた水(H₂O)の状態となっている。

人類の歴史上、最も古い燃料は炭素(木材や化石燃料など)である。炭素は燃えるとCO₂になる。大気中のCO₂は地球表面から発せられる熱を吸収し、地球を温め、環境を変えてしまう。そこで考えられたのが、➀発生するCO₂を大気中に放出しないよう、地中に埋めたり、炭酸ガスなどにして再利用する。➁燃料をそもそもCO₂を出さないものに変える。
➁に関連し、水素が登場してきた。

水素は燃えても水しか排出しない。1キログラム当たりの発熱量は、炭素が約8,000キロカロリーに対し、水素は約3万キロカロリー。ただし、水素は常温ではかなり体積の大きいガスである。1キログラム当たり11立方メートル、天然ガスだと約1立方メートル。ガスのままだと、エネルギー効率はあまりよくないといえる。そこで、液化が行われる。マイナス253℃にすれば液化し、体積は800分の1になる。この場合も、極低温状態を維持しなければ一気に膨張し、事故につながる恐れがある。(参考:トヨタのFCV「ミライ」は燃料タンクに水素ガスが入っているが、独ダイムラーは2020年9月、燃料タンクに液体水素を積むコンセプトトラックを発表している。)

もう1つの課題は、水素の生成方法である。比較的安価に生成する方法として、天然ガスなどに含まれる炭化水素(代表的なものは、メタンCH₄)に水蒸気をかけて水素を分離するものがある。この方法の欠点は、多量のCO₂が副産物として出ることだ。

水素は「夢の燃料」といわれるが、課題も多い。
世界中でそのサプライチェーンづくりが競われ始めている。その一端を紹介し、若干の意見を述べる。

供給網

供給網とは、モノを「つくる」「運ぶ・貯める」「供給する(売る)」「使う」の4つの目的をつなぐ商流をいう。

〇水素を「つくる」に当たり、製造過程によって大きく3つに色分けされる。
・グレー水素:天然ガスや石炭などの化石燃料から水素を取り出し、製造過程で出るCO₂を大気中に放出するもの
・ブルー水素:製造過程で出るCO₂を回収・貯蔵することで排出を実質ゼロにするもの
・グリーン水素:再生可能エネルギー由来の電気で水を電気分解して水素を生成するもの調査会社ブルームバーグNEFの価格調査によると、1キログラム当たりグレーは1~2ドル、ブルーは2~3ドル、グリーンは2~9ドル(日米独中の数値)となっている。
 米仏独や中国の水素関連企業は、グレーやブルーを使って水素の需要を増やす市場づくりから始めている。

〇「運ぶ」では、①気体のまま圧力をかけてコンテナやボンベに入れタンクに貯める、②トルエンと化学結合させ液体にして運ぶ、③液化水素にして運ぶ、などがある。

〇「供給(売る)」は、主には水素ステーションで行われる。現に、国内において水素を動力源にする燃料電池車(FCV)の普及をにらみ水素ステーション建設の動きが広がってきている。

〇「使う」先は、まず、FCV(トヨタの「ミライ」、ホンダの「クラリティ フューエル セス」など)。また、燃料電池、発電タービンなどである。

政府目標

2017年政府がまとめた「水素基本戦略」では、2030年時点で30万トンの目標を立てている。(30万トンは原子力発電所1基分に相当する100万キロワットの発電所をほぼ1年間稼働させられる量になる。)近時、政府は、2050年の温暖化ガス排出ゼロを念頭に、2030年時点で1,000万トンと目標を引き上げる方向で調整に入っている。1,000万トンなら30基以上を稼働できる。国内全体の設備容量の1割に当たる。

課題は価格。現在、1ノルマルリューベ当たり100円程度、これを基本戦略では30円にするとしている。

課題解決のための対策案

〇 国の基本戦略目標を明確にすべき。グリーン水素でいく、と。

〇 国による規制について、危険を回避できる範囲で可能な限り緩和する。関係法規の制定・改正を行う。

〇 鉄道・貨車を使っての水素の輸送を許す。気体でも液体でも運べるタイプの貨車用タンクの開発と運用を国として支援する。

〇 オフィス・工場・一般家庭を合理的な区画範囲でひとまとめにし、その区画を電力ネットワークでつなぐ(いわゆるスマートグリッド)。当該地区の空地及び建物の屋上・屋根などに太陽光発電パネルを設置し、あわせて、区域内に小規模水力・バイナリー発電・風力など設置・利用可能な自然エネルギー利用施設を設ける。また、発電電力を維持・管理するための蓄電器や電気自動車を各拠点に配置する。確保した電力で、水を電気分解して水素を確保し、水素を用いた燃料電池を作動させ電気と温水を確保するとともに余剰の水素をタンクに貯蔵する。電力と温水供給・管理のための新電力会社を置き、区域内拠点間の電力の融通、余剰分の売却などを行う。こうした、いわゆるエネルギーゼロのスマートシティを全国に展開する。

〇 関係する各種技術の中でもキモになるのが、水の電気分解と考える。この技術の改善・効率化に十分な研究資金が集まる仕組みを作ることが急務である。

〇 世界的に水争いが生ずると考えられる。海水の真水化、海水の電気分解について、我が国の知力を結集すべきと思う。                      

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岡光序治(会社経営、元厚生省勤務)

◇◇岡光序治氏の掲載済コラム◇◇
◆「オゾンガス曝露により新型コロナウイルスを不活化した居住空間の確保策(提案)」【2021.2.9掲載】
◆「『食』が全CO2の3割占める」【2020.10.6掲載】
◆「地球システムのレジリアンスにかかる提案」【2020.6.16掲載】
◆「Sigfoxを用いたIoT機器の製作と活用」【2020.2.18掲載】

☞それ以前のコラムはこちらからご覧ください。

2021.06.08