コラム

    • 生活期リハビリテーションの見直しの方向性とその意味-その2(全2回)-

    • 2015年07月07日2015:07:07:09:28:36
      • 川越雅弘
        • 埼玉県立大学大学院 保健医療福祉学研究科 教授

■はじめに

 
前稿では、「高齢者の地域におけるリハビリテーションの新たな在り方検討会(以下、在り方検討会)」での検討状況をベースに、生活期リハビリテーション(以下、リハ)の現状整理を実施した。本稿では、在り方検討会で提示された生活期リハの見直しの方向性とその意味について言及する。
 
 

■生活期リハの課題と見直しの方向性

 
在り方検討会では、現行の生活期リハの課題として、①高齢者の状態像、ニーズが多様であるにも関わらず、画一的なリハが提供されている、②身体機能に偏ったリハが実施され、「活動」や「参加」などの生活機能全般を向上させるためのバランスのとれたリハが提供されていない、③訪問リハや通所リハなどの居宅サービスが一体的・総合的に提供されていない、④高齢者の気概や、より高い生活機能を実現したいとする高齢者の主体性を引き出し、これを適切に支える取り組みができていないなどの問題点が指摘された。これを受け、厚生労働省は、これら4課題の改善を生活期リハの見直しの基本的方向性とし、平成27年度の介護報酬改定にて、以下の具体的な対応を実施した。
 
 

■平成27年度介護報酬改定における生活期リハの見直しのポイント

 
1)リハの基本理念の明確化
リハは、「心身機能」「活動」「参加」といった生活機能の維持・向上を図るものでなければならないという基本理念を明確化し、これを訪問・通所リハの基本方針として運営基準事項に規定した。
 
2)生活期リハマネジメントの再構築
上述した諸課題を改善するためには、利用者主体の日常生活に着目した目標を設定し、多職種の連携・協働の下でその目標を共有し、利用者本人や家族の意欲を引き出しながら、適切なサービスを一体的・総合的に組み合わせて計画的に提供していくといった、マネジメント力が重要となる。そこで、今回、ニーズ把握・アセスメント(Survey)~計画策定と多職種間での目標の共有(Plan)~リハの実施(Do)~モニタリング(Check)~計画の見直し(Action)といった、一連のマネジメントプロセスに沿った運用見直しを実施した。具体的には、①利用者ニーズ把握票の導入、②目標や計画を関係者間で共有するためのリハ会議の導入などである。
 
図1に、「家事の自立」という短期目標の達成に向け、通所リハと訪問介護の担当者が協働を進めて行く場合のイメージ図を示す(図1)。「料理の自立」という共通目標の達成に向け、実施すべき内容(筋力向上訓練、料理の段取りを考える訓練、包丁操作練習、自宅環境下での料理練習など)を共有した上で、互いの役割分担を決めて協働作業を推進するというものである。こうした協働プロセスを通じて、個別援助計画である通所リハ計画と訪問介護計画間の整合性、ケアマネジャーが策定する全体計画(ケアプラン)と個別援助計画間の整合性が図られ、その結果、課題解決に向けた一体的・総合的なサービス提供が推進されることとなる(図2)。
 
 
 
3)リハ機能の特性を生かしたプログラムの充実
今回の介護報酬改定において、①退院・退所後間もない者に対する身体機能の改善に集中的に取り組む個別のリハ(短期集中型リハ)、②認知症高齢者に対する認知症の特徴に合わせたリハ(認知症短期集中リハ)、③歩行・排泄動作などの日常生活活動(Activities of Daily Living:ADL)や調理などの手段的ADL(Instrumental ADL:IADL)、社会参加などの生活行為の向上に焦点を当てたリハ(生活行為向上リハ:新設)など、利用者の状態像に応じた多様な機能を持つリハアプローチを評価する方向性を示した。
 
4)社会参加を維持できるサービス等への移行の促進
リハ導入によってADLやIADLの向上を達成した後、社会参加が維持できる他のサービス等に移行する(通所リハ終了後、地域の通いの場(サロン)に移行する)など、質の高いリハを提供している事業所を評価する点数(社会参加支援加算)を新設した。
 
 

■今回の見直しをどう捉えるべきか

 
今回の見直しのポイントとして、以下の3点が挙げられる。
 
1点目は、「リハを課題解決型サービスとして明確化したこと」である。そのために、マネジメントの機能強化が前面に押し出されているのである。従来の生活期リハは、リハ提供自体が目的化している傾向が見られたため、リハの目的を「生活機能の維持・向上」と明確化し、その手段として現在提供されている心身機能中心のアプローチの是正を図ったのである。当然、生活機能が向上すれば、他のサービスに移行していく流れが増える。この流れを加速・定着させるため、社会参加支援加算が新設されたのである。
 
2点目は、「ケアマネジメント機能強化を側面支援すること」である。現在のケアマネジャーは、同一職種から助言をもらう機会も、他の職種がどのようなマネジメントを展開するのかをみる機会もほとんどない。今回導入されたリハ会議や、本年から全市町村で導入される地域ケア個別会議に参加することで、自分自身のマネジメント方法の振り返りが行われ、その結果として、マネジメントスキルの向上が図られることが期待される。
 
3点目は、「個別援助計画の目的や目指すべき成果の方向性を示したこと」である。これまでは、ケアマネジャーが行うケアマネジメントの機能強化に焦点を当てた見直しが推進されてきたが、今回の訪問・通所リハの見直しは、個別援助計画の機能強化という側面が非常に強い。この流れから考えれば、リハだけでなく、通所介護などの居宅サービスに関しても、マネジメントの機能強化が求められるとともに、短期目標達成後の他サービスへの移行が促進される可能性が高い。その受け皿として、現在、生活支援サービス(高齢者が通える身近な場所つくりなど)の整備が推進されているのである。サービスを提供すること自体が目的ではなく、あくまでも、利用者本人の生活機能を高めること(短期目標を達成すること)が目的であり、サービスはそのための手段であるという認識を持っておく必要がある。
 
 
【参考資料】
1.高齢者の地域における新たなリハビリテーションの在り方検討会報告書、平成27年3月.
 
 
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川越雅弘(国立社会保障・人口問題研究所)

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