コラム

    • 新型コロナウイルス感染拡大が介護・高齢者支援に及ぼした影響とは(2)―地域包括支援センター/在宅介護支援センター調査から見えてきた現状―

    • 2020年08月04日2020:08:04:11:03:52
      • 川越雅弘
        • 埼玉県立大学大学院 保健医療福祉学研究科 教授

■はじめに
 

新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の感染が拡大するなか、政府は、令和2年4月7日、新型インフルエンザ等対策特別措置法(平成24年法律第31号)第32条第1項の規定に基づく緊急事態宣言を、措置期間を5月6日までとした上で7都府県(埼玉・千葉・東京・神奈川・大阪・兵庫・福岡)に対して発出した。
 
その後、4月16日には対象区域を全都道府県に拡大するとともに、上記7都府県に6道府県(北海道・茨城・石川・岐阜・愛知・京都)を加えた13都道府県を特定警戒都道府県に指定した。5月4日には期間を5月末まで延長、25日に同宣言は全面解除となった。

この間、「医療」に対するマスコミの関心は非常に高く、連日のように多数の報道が行われていたが、利用者と密に接することが避けられない「介護」に対する関心は相対的に低く、また、感染拡大の介護現場への影響も十分には明らかにされていなかった。

こうした状況のもと、筆者らは、緊急事態宣言期間中に、3種類の緊急オンラインアンケート調査を実施した (※注1)。同調査は、緊急事態宣言下における新型コロナの介護への影響を明らかにすることを目的としたものではあるが、得られた知見は、今後の感染再拡大への備えとしても有用なものが多かった。

そこで、本稿では、筆者が主に関わった、マネジメント担当者(ケアマネジャー/地域包括支援センター)向け調査から得られた知見を2回にわたって紹介する。第2回目は、センター向け調査結果についてである。(第1回目はこちら
 
(※注1)詳細については、一般社団法人 人とまちづくり研究所 参照。
 
 

■調査対象・方法および分析方法
 

本調査は、センター業務全体を把握されている管理者の方、またはそれに準ずる方を調査対象として、全国地域包括・在宅介護支援センター協議会の会員2,750センターに、全国協議会から都道府県協議会経由で自記式オンラインアンケート調査のURLをご案内頂く形で実施した。なお、調査期間は、2020年5月12日~18日である(緊急事態宣言から約1か月後)。
 
本稿では、回答があった746センター(地域包括支援センター610か所、在宅介護支援センター136か所)を分析対象とする。

なお、感染拡大の状況によって影響度合いが異なると予想されたため、センターの所在する都道府県を3つの圏域(【圏域1】4/7に緊急事態宣言の対象となった7都府県、【圏域2】4/16に特定警戒都道府県に追加された6道府県(北海道・茨城・石川・岐阜・愛知・京都)、【圏域3】その他の県)に分けて分析した。
 
 

■主な結果

 

1)回答者の状況
①圏域別にみた回答者数(対象:全センター746か所)
回答があった746センターの圏域別内訳は、「圏域1」239か所、「圏域2」102か所、「圏域3」393か所、「無回答」12か所であった(表1)。

②予防プラン作成の有無別にみた回答者数(対象:全センター746か所)
予防プラン作成の有無をみると、「あり」657か所、「なし」89か所であった。ここで、予防プランを作成していた657センターを圏域別にみると、「圏域1」212か所、「圏域2」93か所、「圏域3」341か所、「無回答」11か所であった(表1)。

③運営形態別にみた回答者数(対象:地域包括支援センター610か所)
地域包括支援センター610か所の運営形態をみると、「直営」45か所(7.4%)、「委託」564か所(92.5%)、「無回答」1か所(0.2%)であった。ここで、委託先の内訳をみると、「社会福祉法人」342か所(56.1%)、「医療法人」96か所(15.7%)、「社会福祉協議会」87か所(14.3%)の順であった。
 
 

 
 
2)陽性ないし濃厚接触者となった利用者の有無(対象:予防プラン作成の657センター)
予防プランを作成している657センターの3.5%が、「陽性ないし濃厚接触者となった利用者がいた」と回答していた。これを圏域別にみると、「圏域3」1.5%に対し「圏域1」7.1%と、圏域1は圏域3に比べ、約5倍、陽性ないし濃厚接触者となった利用者の発生率が高い状況であった。
 
3)事業所の運営への影響(対象:予防プラン作成の657センター)
①総合事業サービス提供事業所の運営への影響
総合事業サービス提供事業所の運営への影響を聞いたところ、657センターの45.8%が「縮小あり」、47.6%が「休止あり」、3.0%が「廃止あり」、40.2%が「新規受入中止あり」と回答していた。

ここで、影響ありの割合をサービス種類別にみると、全圏域において、縮小・休止・廃止・新規受入中止の全てにおいて、「従前相当(通所型)」の割合が他のサービスを大きく上回っていた。

また、従前相当(通所型)サービス提供事業所の縮小ありの割合を圏域別にみると、「圏域1」58.5%、「圏域2」39.8%、「圏域3」23.2%と、警戒レベルが高い圏域ほど事業縮小率が高くなっていた(休止・廃止・新規受入中止も同様)。
 
図1.圏域別サービス種類別にみた総合事業サービス提供事業所への影響の有無


 
②予防給付サービス提供事業所の運営への影響
予防給付サービス提供事業所の運営への影響を聞いたところ、657センターの32.0%が「縮小あり」、30.3%が「休業あり」、0.5%が「廃止あり」、43.1%が「新規受入中止あり」と回答していた。

ここで、影響ありの割合をサービス種類別にみると、全圏域において、縮小・休止では「通所リハ」の割合が、新規受入中止では「短期入所」の割合が最も高い状況であった。

また、縮小ありの割合を圏域1と3で比較すると、通所リハでは「圏域1」35.4%、「圏域3」12.6%、短期入所では「圏域1」25.0%、「圏域3」7.0%、訪問看護では「圏域1」13.7%、「圏域3」4.1%と.圏域間で大きな差がみられた。
 
図2.圏域別サービス種類別にみた予防給付サービス提供事業所への影響の有無

 
 
 
4)センター業務体制への影響(対象:全746センター)
センター業務体制への影響の有無をみると、「影響あり」73.1%であった。
ここで、影響を受けた内容をみると、第1位「訪問が中止(全てないし一部)となっている」55.9%、第2位「現在、一部業務が在宅ワークへ切替えられている」17.8%、第3位「出勤者数が減少し、少ない人数で運営している」16.0%の順であった。圏域1では、他の圏域に比べ、少ない人数での運営や在宅ワークへの切替が生じた割合が高くなっていた。
 
 
図3.センター業務体制への影響

 
 
5)センター業務への影響(対象:全746センター)
①業務増加の有無と内容
業務増加の有無をみると、「増加あり」68.1%であった。
ここで、業務増加の内容をみると、第1位「新型コロナ対策に関する電話対応や事務作業」42.0%、第2位「所属機関の業務(新型コロナ対策を含む)支援」26.3%、第3位「同居以外の家族による支援の困難化に伴う代替策の検討・調整」20.1%の順であった。

これを圏域別にみると、「所属機関の業務(新型コロナ対策を含む)支援」は警戒レベルが高い圏域ほど、逆に、「同居以外の家族による支援の困難化に伴う代替策の検討・調整」は警戒レベルが低い圏域ほど高くなっていた。

②相談者区分別にみた相談件数の変化の状況
利用者からの相談件数の変化をみると、「増加した」15.8%、「変わらない」48.9%、「減少した」34.5%と、「変わらない」が最も多い状況であった(他の相談者も同様)。

増加割合を相談者区分別にみると、「事業所・関係機関から」が最も多く、次いで「家族から」、「利用者から」の順、一方、減少した割合は、「地域住民から」が最も多く、次いで「利用者から」、「家族から」の順であった。

③相談者区分別にみた増加した相談内容
増加した相談内容を相談者区分別にみると、
利用者からは、第1位「新型コロナに関する不安の相談」51.1%、第2位「集いの場縮小に伴う不安に関する相談」45.3%、第3位「健康相談(感染予防・体調不良・健康管理等含む)」35.7%の順、家族からは、第1位「生活機能低下に関する相談」32.7%、第2位「家族の介護や支援の負担に関する相談」31.0%、第3位「認知症の発症や症状の進行等に関する相談」27.6%の順、地域住民からは、第1位「集いの場の再開の目処についての相談」56.0%、第2位「支え合いの取組縮小に伴う利用者・家族を心配する相談」20.5%、第3位「新型コロナ対策を行った上での見守りや支え合いの体制作りに関する相談」18.5%の順であった。

また、ケアマネジャーからは、第1位「サービス調整がうまくいかないことへの相談」20.8%、第2位「地域の社会資源に関する相談」16.4%、第3位「介護サービスが確保できないことへの相談」15.8%の順、事業所・関係機関からは、第1位「新型コロナに対する情報提供を求める相談」30.7%、第2位「入院や退院調整が困難であるという相談」19.0%、第3位「転院先や施設入所等を検討していたが、断られるケースの相談」16.1%の順であった。

 

■センター調査からわかったこと
 

本調査は、4月6日の緊急事態宣言から約1か月後の、外出自粛状態下での新型コロナの介護への影響を明らかにすることを目的に実施したものである。

センター向け調査から、
1.総合事業のサービス提供事業所への影響ありの割合をサービス種類別にみると、全圏域において、縮小・休止・廃止・新規受入中止の全てにおいて、「従前相当(通所型)」の割合が他のサービスを大きく上回っていた。

2.予防サービス提供事業所への影響ありの割合をサービス種類別にみると、全圏域において、縮小・休止では「通所リハ」の割合が、新規受入中止では「短期入所」の割合が最も高い状況であった。

3.センター業務体制への影響を圏域別にみたところ、圏域1では、他の圏域に比べ、少ない人数での運営や在宅ワークへの切替が生じた割合が高くなっていた。

4.約7割のセンターが、業務増加ありと回答していたが、その内容は、第1位「新型コロナ対策に関する電話対応や事務作業」、第2位「所属機関の業務(新型コロナ対策を含む)支援」など、コロナ関連業務が上位を占めていた。

5.利用者からの相談件数の変化をみると、「増加した」15.8%、「変わらない」48.9%、「減少した」34.5%と、「変わらない」が最も多い状況であった。

6.増加した相談内容を相談者区分別にみると、利用者からは「新型コロナに関する不安の相談」が、家族からは「生活機能低下に関する相談」が、地域住民からは「集いの場の再開の目処についての相談」が、ケアマネジャーからは「サービス調整がうまくいかないことへの相談」が、事業所・関係機関からは「新型コロナに対する情報提供を求める相談」が最も多かった。

などが明らかとなった。

 

■コロナ禍でのケアマネジメントのあり方について


2回にわたって、要支援者および要介護者に対するケアマネジメント担当者(センターおよびケアマネジャー)を対象としたオンライン調査の結果の概要を紹介した。
 
その結果、サービス提供事業所への影響として、①外出自粛や感染予防行動(利用者や家族がサービス利用を控える動きなど)により、通所系の事業所(総合事業の従前相当(通所型)、通所介護、通所リハ)が事業の縮小や休止など、大きな影響を受けていた、②新規受入中止に関しては、通所系だけでなく、短期入所や訪問介護事業所も影響を受けていた、③介護サービス以外の移動を伴うサービス(通院、通いの場の利用)にも大きな影響が生じていたなどがわかった。

また、ケアマネジメントへの影響としては、①利用者や家族がケアマネジャーの訪問を断るなどにより、利用者の状況や状態変化をケアマネジャーが把握することが難しくなっていた、②多職種が集まって行う会議(サービス担当者会議、退院前ケアカンファレンスなど)の実施が困難化していたなどが、また、利用者への影響として、緊急事態宣言から約1か月後の時点において、利用者の約3%に身体機能低下に伴う重度化や精神面での不安定さが生じていた(観察期間を延ばすとより重度化が顕著になる可能性あり)などがわかった。

コロナ禍により、ケアマネジメント担当者による面接やモニタリングの困難化と通院機会の減少が同時に生じたため、状態変化をきちんとチェックする機能が著しく低下した状況になっていた可能性が高い。

今後、ケアマネジャーには、ICTなどを使った本人の状態把握への取組みや、通院や活動範囲の縮小に伴うリスクマネジメント(機能低下予防、再発予防など)の機能強化、主治医や医療機関との連携強化が、また、包括的・継続的ケアマネジメントの環境整備(関係機関との連携体制構築支援、ケアマネジャー同士のネットワーク構築支援、実践力向上支援など)が求められるセンターには、自身の予防プランの質向上に加えて、ケアマネジャーに対する支援をより一層強化していくことが求められることになる。

 
---
川越雅弘(埼玉県立大学大学院 保健医療福祉学研究科 教授)
 

※編集部からのお知らせ※
コラムニストの川越先生を講師に迎えた「メディカルICTリーダー養成講座【上級】」を、日本医師会ORCA管理機構e-ラーニング事業の専用サイトにて開講しています。詳細はこちらからご覧ください。
 
 

コラムニスト一覧
月別アーカイブ