コラム

    • 中国医療テックの動向と課題

    • 2020年08月18日2020:08:18:11:40:30
      • 岡野寿彦
        • NTTデータ経営研究所 シニアスペシャリスト

中国では新型コロナウィルスの感染が拡大するなかで、巣ごもり生活のサポート、感染防止と経済活動再開を目的として、プラットフォーマーを中心にITサービスが提供され、「コロナテック」と言う造語もできた。その中でも医療は最重要分野として位置付けられている。
 
本稿は、中国の医療関係者およびIT企業人へのヒアリングに基づき、新型コロナを契機に加速する医療分野のデジタル化の動きと、彼らの課題認識をお伝えすることを目的とする。なお、筆者は医療を専門とする者ではないため、理解の誤りや考察の不足がありましたら是非ご指導お願い申し上げます。
 
 

■遠隔医療:感染者の治療体制を補完


感染が拡大する中、コロナ感染者の治療体制を確保するために、中国政府は、医療機関に対して、遠隔医療サービスの積極的な活用を促した。そして、医療保険の規制緩和を進めることで、遠隔医療の普及を後押しした。

2020年2月に湖北省武漢市で、慢性疾患のオンラインでの再診が医療保険の支給対象となり、3月には全国に拡大されたという。これに応じて、東華軟件、衛寧健康、創業慧康などIT企業が支援して、医療機関の遠隔医療システムの建設が急ピッチで進められ、感染の疑いがある人の診察や、自宅隔離した軽症者の治療はオンラインにシフトした。
 
平安好医生(Ping An Good Doctor)、阿里健康(Ali Health)、微医(We Doctor、テンセントグループ)、京東健康(JD Health)などオンライン医療プラットフォームは、「抗疫」診断サービスを開設した。

平安好医生など各社は、無料での問診サービス、医師を指定しての有料サービスに加えて、医療機関の予約、医療用品の販売、健康情報の提供などを行っている。今後、医療保険の規制緩和が進めば、受付から、診察、薬の処方と配送、医療保険の申請まで、ワンストップのサービスを提供できることになる。
 
中国では、地域や病院の規模によって、医師や医療設備の水準に大きな差があるとされ、遠隔医療は、このような地域間格差の解消や、中国全体の医療水準の向上の切り札として位置付けられている。

しかし、本格普及に向けては、誤診の危険性や、情報セキュリティの漏洩リスクをマネジメントすることが重大な課題となっている。また、新型コロナを契機に急増したユーザーの多くは、無料問診サービスの範囲で利用しているとされ、これを有料会員化していくことが経営の課題とされる。

 

■withコロナの医療テック:感染流行を予測・予防
 

感染拡大がひと段落すると、アリババ集団、騰訊控股(テンセント)は、コロナとの共存に向けて、AIで感染流行を予測・予防するソリューションの開発を進めることを表明した。

このうち、テンセントは、鐘南山 国家衛生健康委員会専門家グループ長と共同で「ビッグデータ&人工知能聯合実験室」を設立(鐘南山氏が実験室主任に就任)した。

次の3つのアプローチで、当面は新型コロナとの戦いに、長期的にはビッグデータとAIを活用した感染症と呼吸器疾患のスクリーニングと予防に取り組む(テンセントホームページ及びヒアリングに基づく)。
 
①感染初期段階での高リスクのクラスターをスクリーニング(ふるい分け)
新型コロナ、インフルエンザ、手足口病(HFMD)などの感染病に対して、オンラインとオフラインが連動してスクリーニングするメカニズムを構築する。オンラインでは、「テンセント健康」などのアプリケーションを通じて、リスクの高い集団をスクリーニングし、医学的アドバイスを提供する。オフラインでは、発熱外来や地域コミュニティの衛生サービス、医療機関への情報提供により、流行のスクリーニング、予測および防疫を支援する。
 
②AIを利用した医療スクリーニング
感染患者の胸部画像の特徴をAIが学習する画像診断システムや、薬の効果の評価など、AIを利用した医療スクリーニングの精度を向上させる。テンセントクラウド経由で医療機関に提供する。
 
③感染の全国拡大を防ぐための疾病報告および予測/警告システム
感染の全国拡大を防ぐために、中国各地で臨床試験を実施して、疾病報告および予測/警告するシステムを構築する。AIにより、臨床療法方針の決定とフォローアップ、治療効果の評価と、反応評価、および予後評価(prognosis assessment)を支援する。流行の規模、ピーク時間、および持続期間を予測し、医療現場の配置などの参考とする。
 
 

■医療知識とデジタル技術との融合(課題認識)
 

中国のデジタル化は、消費者サイドがモバイル決済を中心に世界最先端と言えるほどにまで発展しているのに対して、企業・産業サイドは不効率なまま残されているケースが多く、中国政府は、このギャップをAI実用化のフィールドとして活かそうとしてぃる。医療はAI実用の最重点分野の一つである。
 
本稿で見てきたように、中国では新型コロナ対策を契機に、医療のデジタル化によって集まる膨大なデータを、AIを活用した治療や予防に役立てる取り組みを加速している。

ビッグデータとAI技術の活用は、医療に関する深い専門知識を持つ人材と、AIアルゴリズムを理解した人材とのコラボレーションによって、はじめて実現できる。

CTスキャンデータによる画像診断システムを例にすると、画像から肺炎の確率を測定するモデルの開発において、多くのサンプルからどの画像をAIアルゴリズムに読み込ませて学習させるかの選定は、ベテランの医師の知見に依存しているとのことだ。

中国の医療関係者からは、今後さらにビッグデータとAIの活用を広げるためには、医療専門知識とAIアルゴリズムの両方に通じたハイブリッド人材を育成していくこと、および医療従事者全体のITリテラシーを高めていくことが必要だとの課題認識が示された。
 
 
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岡野寿彦(NTTデータ経営研究所 シニアスペシャリスト)
 
  
 

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