コラム

    • 懲戒処分について:法的な側面からの外観

    • 2012年04月10日2012:04:10:00:05:00
      • 尾畑亜紀子
        • 弁護士

 

 前回に引き続き労働法の分野から,懲戒処分の根拠,種類,その限界について概観したい。
 
 

■懲戒処分とは

 
 懲戒処分とは,企業が従業員の秩序違反行為に制裁を加えることをいう。
 
 悪いことをすれば罰されることは理解できるが,制裁とは不利益な処分のことであり,本来対等な契約関係にあるはずの労使間において,なぜ懲戒処分が許されるのかは一応理解しておく必要があると思われる。
 
 労使関係は契約に基づいて成り立っている。懲戒処分も,まさに労働契約の内容となっているから許されるのである。判例においても,労働者は労働契約を締結したことによって企業秩序遵守義務を負うと判断されている。
 
 

■懲戒の種類について

 
 懲戒の種類は,一般的に,譴責・戒告,減給,降格,出勤停止,懲戒解雇が挙げられる。
 
 懲戒解雇は懲戒処分の中でも最高刑というべきものであって,通常は解雇予告も予告手当の支払もせずに即時になされ,また退職金の全部または一部が支給されない。
 
 懲戒解雇に伴う退職金の全部または一部の不支給は,これを退職金規程などに明記して労働契約の内容となして初めて行いうる。裁判例においては,労働者のそれまでの勤続の功を抹消ないし減殺してしまうほどの著しく信義に反する行為があった場合に限られるとされ,懲戒解雇自体は有効としつつ,退職金については3割の支払を命じた事例がある。
 
 ちなみに,懲戒の種類として,会社が退職願もしくは辞表の提出を勧告し,即時退職を求める「諭旨退職」と呼ばれるものもある(所定期間内に勧告に応じない場合は懲戒解雇に処するという取扱いをする企業が多い)。退職金は全額ないし一部が不支給とされたり,自己都合退職と同額であったりする。諭旨退職は,一見自己都合退職であるが,懲戒処分の一種と解されるため,懲戒解雇同様に争いうる。
 
 

■懲戒事由について

 
 そして,懲戒事由となるのは服務規律違反,秩序紊乱行為であるが,具体的には業務指示違反,職務専念義務違反,犯罪行為等である。
 
 もっとも,懲戒処分を行うためには,その事由とこれに対する懲戒の種類・程度が就業規則上明記されていなければならない。これは,国家が個人に刑罰を科す際の罪刑法定主義と同様の発想に基づく。また,就業規則上,懲戒の種類と程度が定められていれば良いものではなく,懲戒処分を行う手段・方法も適正でなければならない。これも,国家が個人に刑罰を科す際の適正手続の要請と同様の発想に基づく。具体的には,労働者本人に対して弁明を求め,その弁明に基づいて懲戒委員会において討議を経て懲戒処分を決定するという手続を踏むことになる。
 
 

■懲戒処分とその限界

 
 さらに,個別の懲戒事由を挙げながら,その限界について検討したい。
 
 企業での犯罪行為は,国家の制裁たる刑罰の対象となるほかに,当然懲戒処分の対象となりうる。企業内の犯罪行為として通常想定できるのが,知能犯としては会社財産に対する横領,背任,窃盗,詐欺であり,強行犯としては,同僚や上司への暴行,傷害であろう。
 
 部下の不正行為を放置する不作為は懲戒の対象となるであろうか。裁判例においては,部下の多額の横領行為を重過失で発見しえなかった営業所長に対する懲戒解雇が正当とされた事例がある。
 一方,私生活上の非行はどうか。労働契約は,企業がその事業活動を円滑に遂行するに必要な限りで規律と秩序を根拠付けるにすぎず,労働者の私生活に対する使用者の一般的支配までは想定していない。
 そこで,私生活上の非行は,実務上,事業活動に直接関連を有するものおよび企業の社会的評価の毀損をもたらすもののみが懲戒の対象となっている。
 
 二重就職は,労働契約に基づいて発生する職務専念義務違反なので,懲戒処分の対象となる。
 もっとも,会社の職場秩序に影響せず,かつ会社に対する労務の提供に格別の支障を生じせしめない程度,態様の二重就職は,禁止の違反とはいえない。例えば,運送会社の運転手が年間1,2回貨物運送のアルバイトをしたことを理由とする解雇につき,業務上の具体的支障がないとして無効とした事例がある。
 
 同じように,無断欠勤,出勤不良,勤務成績不良,遅刻過多,職場離脱などの職務懈怠も,懲戒処分の対象となりうる。もっとも,職務懈怠自体は単なる債務不履行なので,規律に反し,職場秩序を乱したと認められた場合に初めて懲戒事由となる。例えば,プレス工場従業員が6ヶ月間に24回の遅刻と14回の欠勤をしたところ,それが1回を除きすべてが事前の届出なしに行われたもので,その間上司の繰り返しの注意や警告にもかかわらず,かかる態度を継続したという事例では,懲戒解雇が有効とされた。また,配転後の業務過誤に対して各種の懲戒処分がなされた後,2ヶ月近くにわたって連続的に欠勤し,度重なる職場復帰命令にも従わなかった場合も懲戒解雇が有効とされている。
 
 
 
--- 尾畑亜紀子(弁護士)

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