コラム

    • なぜ時間外割増賃金に関する紛争が発生するのか ―労働時間管理の視点から―

    • 2012年01月17日2012:01:17:09:00:00
      • 尾畑亜紀子
        • 弁護士

 

 私は業務上労使間の紛争に携わることが多い。その中で突出して多いのが、時間外割増賃金に関する紛争(賃金請求事件)である。
 
 そこで今回は、そもそもなぜ時間外割増賃金に関する紛争が発生するのか、労働時間管理の視点から検討してみたい。
 
 

■労働時間とは何か

 
 時間外割増賃金に関する紛争について検討するにあたり、前提知識として押さえておくべきは、そもそも労働時間とは何か、という点である。
 
 労働時間とは、賃金を支給する対象となる時間である。すなわち、労働者が使用者の指揮監督下にある時間をいう。
 
 この定義から、労働時間には、現実に作業には従事していないが、使用者の指揮監督下にある時間、つまり、「手待時間」も含まれる。
 
 判例は、労働時間について「使用者の指揮監督下にある時間」としつつ、始業前、終業後の準備や更衣時間が労基法上の労働時間かが争われた事案において、「労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又は余儀なくされたときは、当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても、当該行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮監督下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労働基準法上の労働時間に該当する」と判断している(三菱重工業事件。最判平成12年3月9日民集54巻3号801ページ)。
 
 このように、実作業に従事していない時間帯も労働時間に包含されるのである。
 
 

■労働時間の管理方法

 
 それでは、労働時間はどのように管理すればよいのだろうか。所定労働時間は遅刻早退や欠勤について管理すればよいものの、やはり管理しづらいのは時間外労働である。
 
 一般的な管理方法は、タイムカードや出勤簿であろうが、両者とも使用者が時間外労働を厳密に管理するような運用になっていない限り、労働者の申告がすなわち時間外労働時間になってしまいがちである。申告をそのまま時間外労働と認めてしまっては、人件費はいくらでも積み増しされることであろう。
 
 そこで、厳密に時間外労働を管理するために、日々管理監督者に申告させ、管理監督者の許可が得られた場合にのみ、時間外労働と認める、という制度を構築することが理想といえる。
 
 しかし、かかる制度を採用しさえすれば、管理監督者の許可がなかった申告について時間外労働と認めないという取り扱いを徹底できると断言できないのが実務の実際である。
 
 というのは、得てして職場には、組織的に時間外労働を申告させないようにする取り扱い、あるいは申告させても一定時間以上は認めない取り扱いが散見されるからである。
 
 したがって、時間外労働について管理監督者の許可制を採っているある会社において、時間外労働の申請をしていなかった、あるいは申請をしたが許可されなかった従業員Aが会社に対して時間外割増賃金を請求するケースが発生しうるのである。
 
 そのようなケースでは、確かにAの出勤簿には所定労働時間しか記録されていない。ところが、審理の過程で、管理監督者が時間外労働申請を頭打ちにしたり、一切認めない運用をしたりしている一方で、実は時間外労働をしなければならない業務実態があり、Aは申請できないだけでやはり時間外労働を行っていた、という事実が明らかになるのである。
 
 

■使用者の業務指示と時間外労働

 
 また、使用者の明示的な業務指示がなくても、当該従業員が時間外に居残り、何らかの作業をしていた場合に、管理監督者がこれを黙示的に容認している場合は、黙示の業務指示が認められやすい。
 
 そこで、時間外労働を正しく管理するためには、出勤簿やタイムカードのみの管理ではなく、時間外労働に関する申告をさせ、上長がその是非を判断する制度は是非とも必要であるが、かかる制度によってかえって労働者の正確な労働時間を計れないことにならないように、厳格な運用を行うべきである。
 
 

■所定労働時間終了後の休憩時間

 
 なお、就業規則で所定労働時間後、時間外労働開始までの間に休憩時間を設ける会社がある。
 
 かかる休憩時間については、従業員が休憩を取らず継続的に業務に従事するような事実があり、なおかつ使用者としてこれを認識しつつ放置した事実があれば、就業規則に規定があるだけでは労働時間性を否定することができない。
 
 そもそも、所定労働時間終了後、残業があるならばさっさと済まして帰宅したいというのが労働者の心理であろうから、かかる休憩時間の設定はよほど厳格な運用をしなければ労働時間性はむしろ容易に認められてしまうと思われる。もっとも、パソコンを使用する業務であれば、労働者の健康管理の観点から、パソコンの長時間継続使用が健康に及ぼす影響にも配慮して、実際に休憩をさせるよう、休憩時間の運用を確立する必要があると考える。
 
 
 
--- 尾畑亜紀子 (弁護士)

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