コラム

    • 医療と介護の連携が叫ばれている背景の考察(その1/2)

    • 2011年03月01日2011:03:01:00:05:00
      • 岡光序治
        • 会社経営、元厚生省勤務

 診療報酬と介護報酬の同時改定が予定される2012年に向け、医療と介護の地域における連携という課題は一層議論され、さまざまなアプローチが試みられると予想できる。 

 
 しかし、介護保険制度創設時においても、この課題は議論され、その必要は共通認識であったはずのものが、なぜ、今日の時点で声高に叫ばれ始めているのか。介護保険制度創設からの運用の実態を踏まえながら、その背景を探ることとする。 
 
 

■ことのはじめは、社会的入院の解消にあった。 

 
 制度創設当時、入院の長期化や社会的入院が問題視され、その解消策が求められていた。 
 
 医療が実践される病院の場で急性期医療の後、「日常生活の世話・支援」が引き続き行われていることが入院の長期化の実態ではないか。退院しても一人で、ないし、家族がいても自立した生活を送ることができないと判断されそのまま入院生活を送らざるを得ないから入院が長引くと考えられたわけである。かって、老人保健法において老人保健施設が発想された時点では、この施設は“中間施設”と俗称された。つまり、病院と自宅の中間に位置し、自宅での生活の準備・訓練をする場と考えられた。しかし、このタイプの施設も期待した機能を十分にはたさず、退院促進は思ったほどは進まなかった。 
 
 そこで、医療の中の「介護」部分を切り離し、独立させ、皆で支え合うという発想(当時、国民みんなで親孝行、というキャッチフレーズが使われた)の保険制度を作れば、結果として入院の長期化は解消されると考えるに至った。
 
 つまり、医療と介護は同心円上の存在であるが、介護を独立させることにより、より充実した日常生活の支援が行われるようになり、病院での日常生活から別れ自宅での日常生活が復活し、結果として患者・利用者のQOL(生活の質)は高まるものと考えられたのである。 
 
 

■ところが、介護保険の運用において、サービスそのものが自己目的化し機械的となり、患者・利用者の実態に即した対応が二の次になってしまった。 

 
 医療の世界では、病名の特定から治療指針・治療行為の決定・指示、退院の判断、終末期における死の判定まで医師が行う。医療という個人の命にかかわる心身へ外部から積極的な働きかけを行う特別の世界では、医師という専門職が一連の判断主体となるのは当然と言える。 
 
 一方、介護という個人の日常生活の世話・支援という世界では、医師による高度・専門的な判断・働きかけを要する以外の直ちに命にかかわることのない通常的な生活要素部分が大きなウエイトを占めているので、個人の日常生活に関わる各種職種にサービスの在り方を判定させてもよいと考えられた。関係する職種が連携してケース判定を行うことがむしろ望ましいと考えられた。ケアマネジャーが置かれ、判定会議が持たれる所以である。 
 
 ところが、現実の運用は、ケアマネジャーや判定会議の恣意性を排除せんがため客観的なデータに基づく数量的な機械的な処理が主になった。勢い、判定の結果は実態とかけ離れたものになるものが見られた。ケースをいかにマネジメントするかではなく、ケース判定すること自体が追及されることになった。 
 
 分析的な運用は、相手を固定的・静態的にとらえることができるならば、効果的である。対象を静止した状態でとらえられれば、人間の主観や価値観を排除し、運用をサイエンスとして行うことができる。しかし、ケアを求めている個人は流動的、動態的な存在であり、生き生きとした現実の中から未来の可能性まで視野に入れたその都度において最善の判断を求めている者である。既存の理論やモデルに基づくサイエンス的な運用に問題があったといえるのはないか。 
 
 ケース判定において求められているのは“プロデュース力”、その時々の状況や関係性を読み取りタイムリーに最善の判断を行うことができるjudgmentである。 
 
 個人の生活の支援は、本人の自立・自律を前提にQOLの確保、人間としての尊厳性の保持を目的に医療・介護・生活支援を含む包括的なトータルケアの発想で臨む必要がある。しかも、それぞれの属している地域環境は一様ではない。つまり、地域環境条件に即しながら実態に合った柔軟な対応でしか行い得ない。 
 
 そうであるなら、医療・介護・生活支援に携わる者が一堂に会し、協議し、共通の目標を掲げ確認し、置かれている条件の制約の中で、その実現のためにそれぞれが何をどうように分担し連携を保つか、計画を作り、実行し、検証し、評価し、次なる実行につないでいくシステムを作るしかあるまい。 
 
 まずは、地域のおける連携は、サービス提供計画作りの段階から必要不可欠と言える。しかも、すべての関係職種に参加させ、分担責任と連携の義務を負わせることである。 
 
 
その2につづく)
 
 
--- 岡光序治 (会社経営、元厚生省勤務)

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