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マイナカード 誰のため

楢原多計志 福祉ジャーナリスト

デジタル相給与 3カ月分自主返上
呆れた。河野太郎デジタル担当大臣が一連のマイナンバーひも付けトラブル(誤登録)の責任を取るとして大臣給与の3カ月分返納を言明した。トラブルの全容解明や再発防止策を示していない段階で担当大臣が給与を自主返納するという。与党内からも「唐突だ。批判をかわすのが狙いなのか」との疑念が沸き上がっている。タイミングも処分内容も悪すぎないか。

誤登率0.007%

マイナンバーのひも付けをめぐるトラブルが収まらない。8月8日、政府の「マイナンバー情報総点検本部」(本部長・河野デジタル相)は総点検の中間報告を公表した。岸田文雄首相は「原則として11月末までに個別データの点検を実施してほしい」と述べ、総点検の最終結果を今秋内に取りまとめるよう指示した。

中間報告のポイントは以下の通り。
【健康保険証】誤登録の事例1069件(誤登録発生率0.007%)。オンライン資格確認システムの閲覧を停止したが、薬剤情報などが他人に閲覧された事例が5件あった。今後、保険者が国の地方公共団体情報システム機構(J─LIS)照会を行い、誤登録の疑いがある場合、本人に確認する。(注)オンライン資格確認運用開始から累計すると、8441件。
【共済年金】誤登録118件(約0.002%)。年金支給額には影響していない。
【障害者手帳】50自治体がJ─LIS照会の際、完全な住所情報などを用いなかった。50自治体以外でもひも付けの正確性が強く懸念されるため全自治体で個別点検を行う。

ひも付け未了77万人

しかし、それ以降も、全国健康保険協会(協会けんぽ)や健康保険組合などの加入者約77万人分の情報が「マイナンバーカード保険証」(マイナ保険証)のひも付けされていないことが判明した。ひも付けが未了の場合、本人は「マイナ保険証」を使えず、従来の紙製の保険証が必要になる。

また都道府県と市区町村合わせて400~500自治体では、障害者手帳や住民税などの個人情報の確認が必要になっている。本来、氏名、生年月日、性別、住所の4情報を確認してひも付けすべきだが、住所などが一致するかどうか確認せず J─LISから得た番号を登録したため、他人のナンバーにひも付けされてしまったケースが多いという(総務省の説明)。

マイナンバーカードを普及させるために実施した「マイナポイント」(最大2万円交付)寡が他人に付与されてしまう誤交付も増え、8月25日時点で計141自治体、172件確認されている。

政府は、自治体に「総点検マニュアル」(デジタル庁作成)を送り、誤登録の恐れがあるデータを抽出し、住民基本台帳との照合や必要に応じて本人確認を行うよう求めている。

先走りした意思決定

「口で言うほど簡単ではなく、時間の猶予がほしい」とぼやくのは神奈川県内の自治体職員だ。今後、健康保険や共済年金、障害者手帳以外の分野(各種交付金など)でも総点検を行う必要があり、時間(原則11月末までの)との闘いが続いている。

大半が中小企業で「マイナ保険証」の誤登録が多い「協会けんぽ」は、より深刻だ。東京都内にある自動車部品販売会社の代表は「人手不足でダブルチェックする社員を配置するだけでも苦労している」と話す。介護施設の施設長は「施設長の集まりでは、最近、入所者のマイナンバーカードのチェックや保管方法が話題に上る」と話した。

こうした現場の声が政府に届いているのだろうか。8月15日、河野デジタル相はトラブルが相次いでいることへの責任を取り、大臣給与の3カ月分を自主的に返納することを明らかにした。

「(デジタル)庁内での情報共有体制が不十分で初動が遅れた。担当大臣としてけじめをつけるべきだと考えた。最初の報告の段階(昨秋)で情報が共有されていれば、トラブルはこれほど増えなかった。円滑な情報共有と意思決定を徹底してまいりたい」などと述べ、庁内を横断する会議を毎週開催するなどの対応策を講じて再発防止に努めるという。

ん? 円滑な情報共有と意思決定だって? マスコミ情報によれば、マイナンバー制度の徹底やマイナンバーカードの普及を急ぐため紙の健康保険証の有効期限を設定(来秋)したり、多額の税金を投じて「マイナポイント」を強く推し進めたりしたのは…。
 
マイナンバー制度もマイナンバーカードも国民のためにあり、普及には十分な説明と理解が絶対条件だ。一連のトラブルの原因は単純な手続きミスのようだが、問題の根底には誰かの先走った意思決定があった。担当大臣の処分は総点検の後、じっくり検証してからで遅くない。

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楢原多計志(福祉ジャーナリスト)

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2023.09.12