ポストコロナは複眼思考で
中村十念 [(株)日本医療総合研究所 取締役社長]
1.はじめに
コロナ禍は日本が先進二流国であることを明白にした。国際的に尊敬される日本になるための再建こそ、ポストコロナの最優先策である。そのために意識しなければならないのが国の経営指標。捉え方はいろいろあろうが、わかりやすさを基軸にして、次の8指標を取り上げたい。
2.国際的指標
第一は国民一人当たりのGDPである。ジャパンアズナンバーワンはとうに昔の話、今やOECD諸国で19位である。世界では24位。
第二は円相場。1ドル=100円と思っていたのは昔の話、今や対ドルで116円程度で大きく円安に振れている。更にもっと安くなる可能性もある。円価格が下がると上述した国際評価指数としての国民一人当たりGDPも下がり、国際比較の順位はもっと下がる。
3.国内的指標
第三は、賃金相場。日本人の賃金は、小泉-竹中以来の新自由主義路線により、全く増えていない。勤労者一人当たりの年収は韓国に抜かれてしまったというデータもある。OECD6ヶ国中23位である。直近のOECDデータによると、一位の米国の69,392ドルの約半分(38,515ドル)である。
第四は、インフレ率である。この四半世紀は、日本はデフレ状態である。従って賃金が上がらずとも、不満は高まらなかった。ところが最近原油高や製造や流通の目詰まりによる物不足に起因した物価上昇が生じている。賃金上昇による購買力向上、それに伴う生産上昇という好循環の中での適度なインフレは構わない。しかし賃上げなきインフレは、社会の疲弊をもたらす悪いインフレである。
第五は、金利水準である。日銀は2013年の黒田総裁の就任以来ずっとゼロ金利政策を取り続けている。それにもかかわらずこのところ長期金利が上昇傾向である。金利上昇は債権安、株安を招きやすい。日銀は日本国債の価格下落を防ぎ国債費を抑制するため、更なる国債買いに向かうことになる。しかし、自ずと限界があろう。
第六は株価である。一時30,000円台をつけた株価も、大幅下降している。前述した金利上昇が進めば更に一段安となる可能性が高い。株式相場の混乱は、更に金利の上昇を招き、日本国債の価格を下げ、本格的なインフレを招きかねない。
4.セーフティネット指標
第七は、失業率である。日本の労働市場は人手不足である。失業率も低水準である。(それでも賃金が上がらない原因はよくわかっていない。)
ネットカフェ難民などの隠れ失業者の存在を指摘する声もある。
第八に生活保護世帯数。日本の社会保障の最後の砦は生活保護である。生活保護の中には、医療保護も含まれる。この生活保護は申請してもなかなか基準をクリアできないという声もある。しかしその推移は社会の不況度を測る指標としては欠かせない。このところ増加傾向にある。
5.終わりに
以上8つの指標を取り上げたが、この指標を使いこなす要領は複眼思考である。つまり2つの、あるいはそれ以上の指標の組み合わせで物を考えるという視点である。自組織のみならず、社会の諸団体の役職にあられる方は、この複眼思考が欠かせない。
コロナ禍でも危機的であるのに、ウクライナ事変。不安定化はより一層進む。
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中村十念[(株)日本医療総合研究所 取締役社長]
◇◇中村十念氏の掲載済コラム◇◇
◆「現代の大岡裁き」【2021.12.28掲載】
◆「超法規の構造」【2021.9.2掲載】
◆「コロナデータの草の根観察術」【2021.1.19掲載】
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