自由な立場で意見表明を
先見創意の会

「人前で堂々と話す」ために

大橋照子 NPO「日本スピーチ・話し方協会」代表 ・フリーアナウンサー

まだ寒さの残る、2022年2月12日、文化庁・東京都教育庁・東京都教育委員会などが主催する「全国高等学校弁論大会」の審査員をしてきた。高校生たちが各自のテーマに沿って練りに練って考えた原稿を、相当量の練習をして臨んできただけあり、甲乙つけがたい立派な発表だった。ひとり7分間の熱のこもった代表たちのスピーチを、全身を耳にしてメモを取りながら聞き終えたときは、クタクタになっていたほどだ。

この「東京大会」で東京都代表を決め、今年の8月には「全国大会」が実施される。「全国大会」は90名が登壇するということで、今から楽しみでありながらも身が引き締まる思いでいる。 

高校生のときから、こうして人前で堂々と話す練習をしておけば、社会人になってから、
「スピーチを頼まれたが心配だ」
「プレゼンテーション、自信がない」
「講演会や授業を、聞く人が面白く聞いてくれているか、全然わからない」
と悩まなくて済むに違いない。素晴らしい企画だと思う。

私が開講している「話し方教室」や「スピーチ・プレゼン教室」には、そんな不安を持たれた方々が、たくさん練習しに来て下さる。こんなに人前の話を上手になりたい方がいらっしゃるとは、思ってもみなかった。

思い起こせば19年前、2003年の春、友人からの1本の電話が始まりだった。
「ねえ、突然私、800人の式典の司会を頼まれちゃったの。『全部任せます』とだけ言われて。そんなのしたことがないから、どんな順番で何を言ったらいいのか、どんな声でどこを見て話せばいいのかも全然わからない。アナウンサーのあなただけが頼りなの。助けて!」

保育園の園長を務める雄弁な彼女も、正式な式典の司会の依頼に不安いっぱいで、電話してきたのだった。
すぐに彼女の保育園の一室で会うことにした。彼女が主催者から渡された紙には、当日の段取りと来賓の名前だけが記されていた。
そこでまず「式次第」を作る。内容の重要性や来賓の挨拶の順番を聞きながら。
次に、「式次第」に合わせて、すべての司会台本を作る。
台本ができたら、それを話す練習だ。緊張を取るところから始めて、しっかり呼吸する方法、口を大きく開けて発声をしてはっきり笑顔で話す方法。心を込めて相手の胸に届く話し方、話すときの目線の配り方、体の向け方、ジェスチャーの付け方など、楽しく練習してその日は別れた。
そのあと彼女は1週間真剣にその練習を繰り返し、見事にすべてを体得して、当日に臨んだ。

本番が終わった夜、彼女から電話が来た。
「本当にありがとう!無事に終わった。無事どころか、終わったあと色々な方がそばに来て、『司会が素晴らしかった!』『プロですか?』って言われちゃったのよ。信じられない。ほんとに嬉しい!」
一緒に喜ぶ私に、彼女が続けた。
「あなた、それをどうして人に教えないの?困ってる人、たくさんいるわよ」
心底から私は驚いた。
「えー、これはみんな知ってることよ。教えなくてもみんなできてるよ」
「そんなことない。みんな口には出さなくても、人前の話には自信なくて困ってるのよ。教室を始めましょう。手伝うから」

積極的な友人の勧めで、半信半疑ながら「話し方教室」を始めた。まずとりあえずホームページを作ってネットにアップした。幸いというか、そのころ「話し方教室」で検索しても、数十件しか出てこなかったと思う。(今では、何百万件も出てくる!)

それでも、本当に受講生が集まるのか、どうやったら宣伝できるのかが全くわからない。
2003年(平成15年)11月1日、記念すべき第1回の「話し方教室」のレッスンを実施。初日の受講生は、件の保育園園長の彼女と、番組リスナーの男性と、たまたまホームページを見てくれた男性の3人だけだった。最初こそ心細かったが、レッスンを始めると楽しくて、あっという間にレッスンが終わった。

そのうち受講生がだんだん増えて、教室がいっぱいになってきた。日曜の朝と平日夜の「グループレッスン」2クラスだけだったのを、4クラスに増やし、また希望が多いので「個人レッスン」も始めた。
前に友人が言っていた「人前の話で困っている人多いのよ」が現実なのだと実感したのだった。

それから今まで19年間、私の「話し方教室」にはたくさんの方々が来て下さった。1か月に10人ずつ・19年で計算しても、2000人以上の方が私の教室に来て下さったことになる。実際にはもっと多いと思う。オーバーではなく土曜・日曜・祭日・平日すべての日にレッスンの予約が入って、私に休日の文字はなかった。私自身の子育ても終わった時期だったのが幸いだった。
 
教室に通ってきてくださる方の中には、いろいろな職業の人がいる。小・中・高校・専門学校の校長先生はじめ各教科の先生方、県の医師会会長さん、立候補前や現職の議員さん、大学教授の方、医師や学者の方々の学会発表の練習、会社役員の方のスピーチ練習、スポーツ選手のTV中継の練習、俳優さん、CAさん、そして会社のプレゼン担当や司会担当の方たち、主婦の方、様々な会の代表やPTA役員などなど。私は教室に居ながらにして、多くの方々の住む世界を見せて頂くことができた。

また、2008年(平成20年)に、NPO「日本スピーチ・話し方協会」を立ち上げた。公の機関から研修会、講習会、講演会を頼まれることが増えたことが一番の理由だが、これを機会に「スピーチ検定」を始めた。3級・2級・準1級・1級と順番に受けることができるようにした。
ところが、1級まで取り終わった人も多くなり、
「その上はないんですか?目指すものが欲しい」
と言われ、今は初段・二段・三段まである。「検定を受ける」ということが目標となって、みなさんめきめきと上手になられていく。次回は、6月5日(日)第24回「スピーチ検定」だ。

日本中から、そして海外の日本人からも受検の申し込みがあり、個性豊かで熱のこもったスピーチを聞かせて頂いている。社会人や学生さんはもちろん、最近は小学生の受検が増えて驚いている。

また、「スピーチ・プレゼン教室」も開講した。
私は1985年から5年間、アメリカ・サンフランシスコで過ごした。現地の小学校にうちの子供たちを通わせていたときのこと。教室のヘルプで毎日私もクラスに行き、授業を見ていて驚いたのが、小学校1年生から、毎週「スピーチの授業」があることだった。小さな子供たちがひとりずつ堂々と教室の前に出て自分の考えを述べる。年に1回は、全校生徒での「スピーチ・コンテスト」もある。こんなに小さい時から、毎週人前での話を練習しているのか、だからアメリカ人の多くの人が、ウイットに富んだ巧妙なスピーチをすぐにできるのかと感心したのだった。

そういうこともあり、今は日本の小学校・中学校・高校・大学でも「スピーチ教室」「プレゼン教室」の依頼を受けて授業をしている。高校・大学・専門学校では、「面接試験指導」もさせて頂くことが多くなった。

一介のアナウンサーの私が、多くの方々に「人前での話し方」をお教えすることができている幸せ。
その「話し方教室」を、先見の明があるわけでも、創意工夫をしたわけでもなく、軽い「友人のひとこと」から始めることができたのは幸運としか言いようがない。”瓢箪から駒”とは、このことだろう。

日本中の皆様が、スティーブ・ジョブズやオバマ元大統領をしのぐスピーチの名人になって下さることを、心から祈っている。

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大橋 照子(NPO「日本スピーチ・話し方協会」代表 ・フリーアナウンサー)

▼「大橋照子話し方教室」筆者主催の話し方教室です。
▼「スピーチ検定」スピーチやプレゼンテーション能力を測定する技能検定。
▼「朗読教室」筆者が講師を務める朗読・話し方倶楽部です。

 

2022.03.08