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先見創意の会

電波利用の将来は、実に多彩だ

寺﨑 明 一般財団法人 情報通信振興会 理事長

1.はじめに

人類が電波に積極的にかかわり始めたのは、1888年にヘルツが電磁波(電波)の存在を確認してからだと私は考える。約130年余り前である。ということは、私は、今、70歳なので、人類の電波の歴史(実用年数)のなかで、半分以上を生きてきたことになる。

人類の歴史が20万年程度とすれば、人類が電波を積極的に使いだした歴史は、その人類の歴史からみれば、ほんの一瞬に過ぎない。

その一瞬で、電波の利用は、人間社会の行動・生活に大きな影響を及ぼしている。

人類の歴史の中で、これほど短い期間で社会生活の中身や様式に大きな影響を及ぼしたものは他に存在するのであろうか。蒸気機関、鉄道、自動車、電力等があげられるが電波を忘れてはならない。例えば、ラジオ放送、TV放送、携帯電話、衛星通信、各種レーダー、ロケット制御等は、いずれも電波の利用そのものである。

人類は、他の動物と違う点について、学術的には、さまざまな観点からの分析・整理ができているが、私は、長期の歴史から見れば、端的には、「火の利用」ができるのが人類ではないかと言っても差し支えないのではないかと思う。

私は、スマホやTV更にはミサイル等の軍事技術が人類の社会生活に及ぼす影響を考えると、いずれ「火の利用」と並んで「電波の利用」は、人類の発展と興亡いう観点で重い評価を下すべきものと考える。

今後の更なる日本の発展さらには人類の発展に対し、電波の価値について、今一度、確認し、将来の見通しをいろいろと廻らすことは大変大切なことだと思う。

2.わが国の電波利用の今まで

第2次世界大戦後の日本の経済発展は驚異的である。

電波の利用は、放送の他、戦後も官公庁(国土交通、警察、消防、防災等)や公益事業(電力、通信等)中心に進んだ。放送は、ラジオのほか戦後まもなくテレビジョンが商用化された。

自営通信の世界では、戦時中禁止されたアマチュア無線が復活した。また、無線従事者の資格が無くても利用できるパーソナル無線やMCA(共同利用型自営通信システム)が実用化され、昭和50年代の後半には手軽に電波利用ができるようになった。業務用無線としては、タクシー無線等も実用化され、配車の効率化が図られた。

一方、公衆通信の世界では、昭和50年代の前半に電電公社により自動車電話サービスが開始され、携帯電話サービス実現への糸口が創られた。昭和60年に施行された電気通信事業法により、競争原理が導入され、公衆電気通信サービスの分野が独占から競争へと変わり、複数の携帯電話サービス会社が登場し、料金も下がり、携帯電話普及の足がかりが創られた。

昭和50年代より、電波の利用は、宇宙・衛星を含めて、それまでの「固定通信」と「放送」が主体の時代から「固定通信」、「放送」と「移動通信」の時代に変わったと考えられる。

要するに、電波利用において、産官の連携により、①技術の進歩により素子や装置が小型化できるようになったこと、②素子の省電力化と電池の性能向上により充電の頻度がかなり下がったこと、③電波の周波数の割り当てについて、順次、固定通信向けの周波数をより高い周波数に移して、この空いたバンド(周波数が低い電波の方がビルや障害物を回折する。周波数の高い電波は直進性が高なりビル等の障害物を回折しなくなる。)を移動通信向けの周波数にアサインしていったこと、④電波の周波数の利用効率を上げる技術が順次導入され、単位周波数当たりの端末の収容可能台数を飛躍的に大きくできたこと等の要因により、もともと潜在需要があった「移動通信」が大きくクローズアップしてきたものと思慮できる。

次に、コンシューマすなわち直接消費者に大きな影響を及ぼした電波メディアの変遷・発展を以下に並べてみる。これ等の変遷を見ると社会生活や活動様式に大きな影響を与えたことが容易に思い出されよう。同時に定期的(数年から10年単位)に国内の経済浮揚に持続的に大きく貢献したことも忘れてはならない。
○放送の進展; ラジオ放送→テレビ放送→カラー放送→FM放送→衛星放送→ハイビジョン放送→BSデジタル放送→地上デジタル放送→8K4K放送へ
○移動通信の進展; ポケベル→自動車電話(1G)→手のひらサイズの携帯電話(1G)→デジタル携帯電話(2G)→iモード→世界共通バンド携帯(3G)→スマートフォン→LTE(4G)→5G携帯→6Gへ

なお、第二次世界大戦では、レーダー技術や航空・海上無線通信技術の優劣が命運を分けたとも言えよう。

3.今後の展開

電波を利用したハードウェアを新しく開発して新しい市場を創出することは、8K4K放送や5Gスマホのように今後も続くと思う。車の自動運転の高度化等も電波利用の新しい分野だと思う。今後は、例えば5G(6G)・AI・IoT・音声入力・翻訳・クラウド・エッジコンピューティング・ソフトスイッチ・4K8Kという組み合わせの中で、どのように、どのようなソフトウェアを展開してゆくのかということがより一層重要になる。

今までは、技術シーズにより電波利用のニーズが掘り起こされたと言ってもおかしくはない。今やスマホのように電波の利用が一般化されてきたため、誰でもが、様々なニーズを電波利用により実用化できるようになっている。

要は、今後は、ネットワークインフラの利用をベースとしたソフトウェアの開発・提供が中心になることは言うまでもない。

ネットワークインフラと人をつなぐ手段は、屋外の電線の地中化の取り組みや屋内の情報端末・機器・装置のネットワーク化等の進展によって実現したが、これからは、電波が主体になるであろう。ドローンを含めたIoTでもそうである。車、列車、船、飛行機は言うまでもない。ということであれば、電波とソフトウェアやAI(人工知能)、音声入力を結びつけたソフトプラットフォーム/スイッチが最重要である。

コンピュータ・メモリの超小型化やクラウド技術の発展により、ネット(回線)の終端(コンシューマ側)に相当な機能を持たせることも可能になっており、今までのインフラやサービスが大きく変貌する可能性もある。例えば、モバイルエッジコンピューティング(MEC)は、エッジと呼ばれるユーザ端末の近傍に計算資源を置くことで、現状では難しい様々なサービスやアプリケーションを実現することができる。これは、遅延を抑え計算負荷を軽減し、高負荷かつ低遅延が要求されるアプリケーションが実装できるということである。具体例として、衝突防止自動運転のサポートや基地局を中心としたローカライズされた広告などの提供等も考えられる。

アマチュア無線や業務用無線の世界でもクラウドでのAIの活用やソフトウェアスイッチの活用も大いにあり得る。

モバイルネットワークサービスもMECにより、光ファイバーと繋いで、誰でも簡単に参入できるようになるかもしれない。

各国の軍や日本の自衛隊の戦術も大きく変わっていくと思う。

こうして見ると電波利用の将来は、実に多彩になると思う。今後は、①電波・ソフト人材の育成、②ソフトウェアを含めた電波利用プラットフォームの開発、③電波の周波数資源の確保、④ハードウェアで一つだけ言うとすれば、電池の更なる特性改善(容量・充電時間・寿命)等、がポイントであろう。

医療の世界も病院も風景が大きく変わると思う。

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寺﨑 明(情報通信振興会 理事長)

◇◇寺﨑明氏の掲載済コラム◇◇
「日本は衰退途上国になってしまうのか ―遅い切り札のワクチン接種など―」【2021.7.13掲載】
「日本は『デジタルゆでガエル』」【2021.3.23掲載】

2022.02.22