自由な立場で意見表明を
先見創意の会

新型コロナワクチンについて<その2> ~禁忌者・要注意者・アナフィラキシーについて~

三澤多真子 医療法人社団公懌会 小金井メディカルクリニック 理事長

「新型コロナワクチンについて<その1>~効果と安全性と特徴~」はこちら>>>
新型コロナワクチン、自分は接種して大丈夫なの? アナフィラキシーは日本人は出やすいの?と疑問や不安に思う方もいらっしゃるかと思います。
今回は、接種できる方できない方、接種する際注意が必要な方について、さらにアナフィラキシーについて解説します。現在国内で承認されているのはファイザー・ビオンテック社のmRNAワクチンですので、このワクチンを念頭に述べます。

1.いつなんどきでも接種できない方(禁忌)

(1)1回目の新型コロナワクチン接種でアナフィラキシーなど重度のアレルギー反応が出た方
1回目を接種した際に重度のアレルギー反応が出た方は、2回目の接種を受けられません。

(2)本ワクチンの成分であるポリエチレングリコール(PEG)にアレルギーのある方
PEGは多くの医薬品や化粧品等に含まれており、古くから食品添加物としても使用されています。これらに対するアレルギーの報告はかなりまれです。医薬品でアレルギーが出たり化粧品でかぶれた方もいらっしゃると思いますが、他の成分もたくさん含まれており、PEG以外が原因となっていることがほとんどであると考えられます。

2.今は接種できないが、タイミングをずらせば接種可能な方

(1)接種当日37.5℃以上の発熱がある方
熱が下がって体調がよくなれば接種できます。

(2) 重い急性疾患を患っている方
治療して病状が安定し、主治医が可能と判断すれば接種できます。

(3)1回目の接種から18日以上の間隔をおいていない方
ファイザー・ビオンテック社の新型コロナワクチンは通常20日間隔、最短でも18日以上の間隔をおいて2回接種します。

3.接種に注意が必要な方

(1) 心臓血管系疾患、腎臓疾患、肝臓疾患、血液疾患、発育障害等の基礎疾患のある方
(2) けいれんの既往のある方
病状が安定していて主治医が可能と判断すれば接種できます。

(3) 免疫不全と診断がされている方や近親者に先天性免疫不全症の人がいる方
(4) がんと診断されている方
病状が安定していて主治医が可能と判断すれば接種できます。一般に、生ワクチン以外のワクチン接種で免疫不全やがんの患者さんで副反応が増えるということは考えにくいが免疫がつきにくい可能性はある、とされています。主治医とよくご相談ください。

(5)他の予防接種の後2日以内に、発熱や全身に発疹が出るなどアレルギーを疑う症状が出たことのある方
(6)ワクチンの成分に対してアレルギー反応の出るおそれのある方
接種できます。接種後30分間待機していただきます。

4.接種できる方

(1)花粉症、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎
問題ありません。

(2)気管支喘息
症状のコントロールが不良の際は接種後30分間待機していただきます。主治医にご相談ください。

(3)ワクチン以外のもの(薬、食べ物、動物、ラテックス等)にアレルギー反応を起こしたことがある方
アナフィラキシーなど重度のアレルギー反応が出たことのある方は、接種後30分間待機していただきます。

(4)血が止まりにくくなる薬を服薬中の方
接種後2分間圧迫していただければ問題ありません。

(5)採血や注射で血管迷走神経反射(失神)を起こしたことのある方
寝て接種できます。接種後30分間待機していただきます。

5.こんな時はどうしたらいい?

(1)妊娠している方
国立成育医療研究センターは次のような見解を出しています。「添付文書では、妊婦又は妊娠している可能性のある女性には予防接種上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ接種することと記載されています。動物試験では、母動物が接種することで動物の赤ちゃんに悪影響は見られませんでした。現在、妊婦さんに対する調査が進行中です。妊婦さんが新型コロナウイルスに感染すると、感染していない妊婦さんと比べて重症化する割合や早産等が多いとの報告もあり、妊娠を理由に接種を控える必要はないと考えます。」(国立成育医療研究センターHPより) 米国CDC(疾病対策予防センター)も同様の見解です。

(2)授乳中の方
十分なデータは出ておりませんが、米国CDCは感染リスクの高い人や重症化リスクの高い人は授乳中でも接種を考慮してよいとしています。また、国立成育医療研究センターは次のような見解を出しています。「母乳中への移行について現時点では調べられていません。このワクチン成分の性質から、母乳移行量は非常に少なくなると考えられています。さらに多少のワクチン成分を含んだ母乳を赤ちゃんが飲んだとしても、その性質からは赤ちゃんに悪影響が及ぶとは考えられません。授乳中のワクチン接種は問題ないと考えられます。」(国立成育医療研究センターHPより)。

(3)16歳未満の方
現時点では接種の対象となりません。現在12歳以上の小児を対象とした治験がファイザー・ビオンテック社とモデルナ社で開始されており、将来的には接種対象となる可能性があります。接種できない子供たちを守るためにも、まわりの大人が接種することが大切です。

(4)新型コロナウイルスに感染したことのある方
すでに感染した方も、接種が推奨されています。再感染を防ぐためと、ワクチン接種のほうが抗体価が高くなることが知られているためです。米国CDCは療養期間が終了し、体調がよくなってからの接種を勧めています。
また、入院して治療を受けられた方の中で回復期血漿療法やモノクローナル抗体治療を受けた方は、90日経過してからの接種が勧められています。

接種できる場所は、医療機関での個別接種と集団接種、集団接種会場のみなど自治体によって違います。お住まいの市区町村にご確認ください。かかりつけ医のある方は、主治医によくご相談の上接種をご検討いただければと思います。

6.アナフィラキシーについて

(1)アナフィラキシーとは
命にかかわりうる重いアレルギー反応です。アレルギーの原因となりうるものに対して、急速に以下(図1)の症状のうち2つ以上が出た場合にアナフィラキシーと診断します。
null

実はアナフィラキシーの診断には、「ブライトン分類」(図2)という、より詳細な国際基準があります。
図2をぱっと見ていただくとわかるとおり、図1に比べてかなり複雑です。国際的には、各国同じ基準で評価して比較できるようこのような決まりにのっとって診断しており、ブライトン分類レベル1-5のうちレベル1-3をアナフィラキシーとして報告します。(字が細かくて申し訳ありませんが、複雑なんだなということがわかっていただければ大丈夫です。)

アナフィラキシーは時に命にかかわるので、対応は一刻を争います。
アナフィラキシーを疑う症状が出た際に、医師が「えーっとこれはブライトン分類にあてはめると…」とやっていては対応が遅れてしまいます。通常の診療では一番上の図の症状に基づいて判断し、迅速に治療していきます。

ワクチン接種後にアナフィラキシーを疑う症状が出た際は、医療機関から
医薬品医療機器総合機構(PMDA)という厚生労働省所管の機関に報告します。
今回PMDAに報告されたのは、あくまで症状から「アナフィラキシーを疑った症例」であって、ブライトン分類に基づいて「アナフィラキシーと確定された症例」ではありません。実際厚労省の審議会が報告された17例を検討したところ、ブライトン分類レベル1-3に該当しアナフィラキシーと診断が確定された症例は7例のみでした。
政府は当初速やかな情報提供を優先し、審議会で検討する前に公表していました。しかし疑い症例があたかも確定症例であるかのように報道されるなど、かえって混乱を招きました。現在は、国際的な基準に基づいて専門委員が評価し審議会で検討を行った後に公表する、という方針に変更しています。

(2)アナフィラキシーはどれくらいの頻度で起こるの?
 新型コロナワクチンのアナフィラキシーの発生頻度は、本邦で承認されているファイザー・ビオンテック社のワクチンが100万人に4.7人、同じmRNAワクチンであるモデルナ社のワクチンが100万人に2.5人と報告されています。いずれの方も適切な初期対応により回復しています。これまでに新型コロナワクチンが原因で亡くなった方は出ておりません。インフルエンザワクチンは100万人に1.4人でそれよりは多いですが、抗菌薬(抗生物質)では100万人に400人、ロキソニンやボルタレンなどの解熱鎮痛剤では100万人に1300人です。決して新型コロナワクチンでアナフィラキシーが出やすいわけではありませんのでご安心ください。

7.最後に

 新型コロナワクチンはすでに世界で4億人に接種されており、有効性と安全性のデータが公表されています。一方新型コロナウイルスに感染すると命を落とすこともあり、回復しても様々な後遺症が残ることもあります。(図3)
ワクチン接種が普及してウイルスの流行がおさまっていけば、元の生活に戻れる日も近づくでしょう。いずれにしてもゼロリスクではありませんが、どちらを選ぶほうがメリットがあるかよくご検討いただければと思います。

■参考資料・文献
「新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施に関する医療機関向け手引き(2.0 版)」厚生労働省
「新型コロナワクチン予診票の確認のポイント Ver 1.0」厚生労働省健康局健康課予防接種室
こびナビ 
新型コロナワクチン公共情報タスクフォース 
国立成育医療研究センターホームページ 
「アナフィラキシーガイドライン」日本アレルギー学会
第53回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、令和2年度第13回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(合同開催)資料
・JAMA.2021.doi:10.1001/jama.2021.1967

ーー
三澤多真子(医療法人社団公懌会 小金井メディカルクリニック 理事長)

◇◇三澤多真子氏の掲載済コラム◇◇
「新型コロナワクチンについて<その1>~効果と安全性と特徴~」【2021年4月6日掲載】
「新型コロナウイルス感染症の検査の目的と解釈の理解のために」【2020年5月26日掲載】
「若年性認知症の人の社会参加に対する考察」【2019年7月30日掲載】
「おたふくかぜワクチン定期接種化を求む」【2018年4月24日掲載】

2021.04.08