コラム

    • コロナ禍から誰が医療の場を守るのか

    • 2020年04月07日2020:04:07:11:59:06
      • 中村十念
        • (株)日本医療総合研究所
        • 取締役社長

1.集団免疫戦略

 
集団免疫戦略とは、人口のある一定数以上が感染する(抗体が作られる)と免疫のない人も免疫の壁に守られて、その効果で流行を収束させるという考え方である。
 
この考え方は、途上国の予防接種事業ではよく使われる手法である。具体的には、集団免疫を作るのに必要な集団ごとのワクチン接種率を決めるために使われ、体験者の報告によれば、実用的な方法であるとのこと。
 
この集団免疫戦略を利用して、ワクチンの開発までの時間稼ぎをしようとしているのが「緩和戦略」である。感染速度を遅くすることに焦点が当てられ、必ずしも感染の拡大を止めることが目的ではない。
 
「緩和戦略」の基本は、(1)症状発症者の自宅隔離、(2)自発的な家庭隔離、(3)70歳以上の社会的距離戦略などの対策である。
 
 

2.ICレポート

 
当初、多くの国は「緩和戦略」で何とか凌げると思っていた。ところが、3月16日にイギリスのインペリアル・カレッジ(IC)・ロンドンから衝撃的なレポートが出された。
 
イギリスでは、最適な「緩和戦略」をとった場合でも25万人が死亡、ピーク時の病床不足は一般病床とICUの合計の8倍にも及び、医療制度が破綻すると指摘した。この影響でイギリス政府は、わずか1日で「緩和戦略」から「抑圧戦略」へ方針転換した。
 
基本的な「抑圧戦略」の枠組みは「緩和戦略」に (4)全国民の社会的距離戦略と (5)学校と大学の閉鎖が加わる。目的も感染の拡大阻止となる。日本の緊急事態宣言も、「緩和戦略」から「抑圧戦略」への転換点と捉えられる。
 
もちろんICレポートの内容が当たるとは限らない。理論と現実にはかなりのズレが生じるからだ。大切なことは、政策を支える理論が体系的に語られる仕組みがあるということだ。
 
わが国の政策はというと、データも仮説もなしに、思いつきで語られているように見えてしまう。なぜハンカチ配布なのか、なぜPCR検査は積極的に行われないのか、なぜパチンコやスロットなどは自粛しないのか、「なぜか」が連鎖する。
 
日本の政策の裏に、フェアネスな専門家・科学者がいることを願うばかりである。
 
 

3.医療費亡国論と医療崩壊

 
いまから20年ほど前、医療費が100兆円を超えるとの風評が流れ、医療費亡国論がこの国を徘徊した。国民は過剰な医療サービスを受けているとされた。
 
それ以来一貫して、自己負担の拡大による受診抑制を通じた需要削減政策がとられた。それと表裏の関係で、医療機関側には、診療報酬の引き下げ・病床規制を通じた供給削減政策がとられた。
 
市場縮減によって経営に苦しむ医療機関が多くなり、その結果として人的リソースの不足、物的リソースの不足、投資の不足が生じた。
 
いわば現在は、慢性的医療崩壊の最中にあった。かつて世界に誇った日本の医療体制の崩壊が、今回のコロナ騒動で明らかになりつつある。
 
問題は、これらの政策がほとんど何のデータもなく仮説もたてられず、依って政策の検証もないまま、茹で蛙状態で決定されてきたことである。
 
そしてコロナ騒動。
 
これは言わば急性的医療崩壊の震源である。急性的医療崩壊は経営の崩壊につながる。検査も出来ない、ワクチンも薬もない。スタッフに感染者が発生すれば即閉鎖で収入ゼロ。このような環境、構造下では、医療崩壊防止策の創出の仕様もない。
 
 

4.医療の場の再生・継続策を急げ

 
今回のコロナ禍は、中小零細事業者にとって、経営上次のような問題を生じた。
・対策を打てる時間がなかった。
・自粛すると市場全体が需要減となる。
・閉鎖・中止となると売上ゼロとなる。
・スタッフに仕事と健康の利益相反を生み出す。
 
このことは医療機関にとっても同じである。
 
医療機関には、これに加えて次のような問題がある。
 
医師がお金のことに疎いとはいわないが、キャッシュフローに対する理解が薄い。売掛リスクが小さいからだ。待合室のクラスター化を怖れて患者が少なくなっている。売上の減であるのに、それがキャッシュフローの悪化に結びつかない。
 
国全体としては、中小零細企業の資金繰り救済のため、とてつもないお金が使われようとしている。しかし、この中小零細企業の中に医療法人は入っていない。
 
医療福祉機構の守備範囲であるという。だが、この未曽有の大災害に機構の機能は小さ過ぎ、その規模からしても面倒見が良いとは思われない。
 
医療機関の消失は、将来的な全国民的危機である。
 
金融・財政の面から、他の中小零細企業と横並びの対策を講じ、医療の場の再生・継続を図るべきである。場の再生がないと患者の再生・治療も消えてしまうのだから。
 
 
 
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中村十念(日本医療総合研究所 代表取締役社長)

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