コラム

    • 介護保険事業計画の現状・課題と改善策 :在宅医療・介護連携推進事業を一例に(その2/全2回)

    • 2020年02月11日2020:02:11:09:16:54
      • 川越雅弘
        • 埼玉県立大学大学院 保健医療福祉学研究科 教授

>>その1から続く
 

■在宅医療・介護連携推進事業に関する計画策定上の主な課題とは

 

1)課題の捉え方が理解できていない
上述したように,課題とは,「現状」と「目指す姿」のギャップのことである。したがって,目指す姿を設定した上で,現状を把握し,両者のギャップから課題を整理する必要があるが,市町村の計画をみる限り,「在宅医療・介護連携推進事業で何を目指すのか」が検討すらされていない。
 
また,「事業展開上の課題は何か」と市町村職員に聞くと,「医師会との連携が難しい」など,市町村職員にとっての課題を述べる場合が多い。現状を目指す姿に近づけるためにはどうしたらよいかの観点から何が課題かを考えるくせが身に付いていないし,教えられてもいない印象を受ける。
 
2)手段から物事を考える(手段の目的化が起こりやすい)
市町村職員に対して,計画策定における思考過程を確認する機会も多いが,その際感じるのは,市町村職員は「施策をどう立ち上げるか,行うか」に対する意識が強く,何を目指すか,どのレベルを目指すかといった目的や目標を十分に検討しないまま,手段である対策から考える傾向があると感じる。
 
また,手段自体(在宅医療・介護の連携を図ること)が目的になりやすい。誰の何のための事業なのかといった「目的」を考え,目的を達成するための「目標」を置き,目標達成に向けた「対策(手段)」を考えるといった順番での思考を強化する必要がある。
 
3)自らが対応可能な範囲で対策と指標を考える
在宅医療・介護連携推進事業で市町村が出来る対策は「専門職を交えた会議のセット」と「研修会の実施」などである。予算をとって施策を行うことには慣れているので,「年に何回研修会を開催するか」「それにかかる費用はいくらか」を考えることは得意である。その結果,市町村が主体的に行う行為である研修会開催の実施状況が評価の対象となり,「研修会の開催回数」が指標となるのである。
 
4)連携イメージがないにも関わらず,専門職へのヒアリングなどは十分行われていない
実際に連携しているのは医療職とケア職であり,市町村職員ではない。市町村職員は,連携を行う当事者ではないのである。したがって,「連携上の課題」に対するイメージを持っていない。
 
こうした状況下で,連携課題をイメージしてもらうためには,①事例検討から課題をイメージする,②専門職にヒアリングする,③専門職を交えた会議体の中で,専門職から意見徴収するなどの手段を講じればよいのである。①に関しては,地域ケア個別会議といった仕組みがあるので,その枠組みを応用して,例えば看取り事例や退院事例を取り上げればよいだけである。
 
また,シナリオを固めて会議を円滑に進める手法に慣れているため,会議参加者から様々な意見をもらって,それをまとめ上げるといった方法(真逆の手法)は苦手なのである。そのため,現場感覚がなく(課題が具体的にイメージできない),医療関係者との接点も少なく,関係者の意見を集約する会議運営も苦手な市町村職員にとって,在宅医療・介護連携は非常に難しいテーマだと感じてしまうのである。
 
 

■こうした現状をどうやって改善していくのか(国立市での取組みから考える)

 
上述したような様々な課題があるため,市町村が在宅医療・介護連携推進事業を円滑に進めることには困難さが伴うが,まず行うべきことは「連携に関する課題を肌感覚で感じられる状況を作ること」である。また,連携の重要テーマの1つである「看取り」を考えると,住民にも能動的に計画の実行に関わってもらう必要もある。したがって,市町村職員にも,住民にも,現状と課題を認識してもらうための方法が必要となる。
 
従来の計画では,量的調査や既存データ(レセプトなど)分析を通じた課題把握が主な方法になっているが,この方法では課題がどこにあるかなどは漠然と分かるものの,どのような課題があるかを具体化しにくい。そのため,国立市では,住民にも専門職にも市町村職員にも理解されやすい「事例検討から課題を認識する」といった方法を採用した。
 
看取りを例にすると,まず,看取りの目指す姿「本人の住み慣れた地域,本人の望む場所で不安なく最期まで過ごす」を設定した後,事例分析(ケースから連携上の課題を学ぶといったケーススタディ)から,現在できていること,出来ていないことを確認し,目指す姿の目標の具体化と目標達成に必要な要素,方法を検討した上で,国立市のこれまでの施策の内容を再検討し,進捗状況(現状が目指す姿に近づいているか)の確認を行うための指標を設定するといったロジックモデルを構築した(図5~8)。
 
こうした課題と対策の整理の仕方は,住民にも,市町村にも,専門職にも好評で,現在,月1回程度のペースで住民との意見交換会を開催し,計画の内容のバージョンアップを図っている。
 
 
図5. ロジックモデルを参考にした思考手順の整理(概念図)
出所)埼玉県立大学_吉田真季氏作成資料
 
 
図6. 事例分析の進め方(看取りを例に)
出所)埼玉県立大学_吉田真季氏作成資料
 
 
図7. 事例分析の具体例(看取りの場面)
出所)国立市地域医療計画(2019年3月)より引用
 
 
図8. 看取りに関するロジックモデル案
出所)国立市地域医療計画(2019年3月)より引用
 
 

■おわりに

 
事例検討は,地域ケア個別会議として,全市町村で実施されているものである。在宅医療に関するデータも,厚生労働省の「地域包括ケア見える化システム」により一部開示されている。このように,事業マネジメントを側面支援するための様々なツールやデータは用意されてきているが,市町村がそれらを十分には活用できていない状況にある。
 
国は,様々なツールを提供することで事業マネジメントの展開力を付けようといった手法をこれまで主に展開してきたが,結果として活用しきれていないのである。最も中核となる課題は,ツールがないことではなく,それらを活用する考え方が身に付いていないことであり,そのための研修体系も方法も整備されていないことである。
 
本校は,地域包括ケアに関わる関係者の人材育成を目指し,各種研修会(Off-JT)と事業推進や計画策定に関する実地での指導(OJT)を実施しているが,こうした取組を各地で展開するといった取組が今後必要になると考える。
 
 
 
注.本稿は,厚生労働科学研究費補助金(地域医療基盤開発推進研究事業)「在宅医療の提供体制の評価指標の開発のための研究」(研究代表者:川越雅弘)の成果の一部である。
 
 
 
---
川越雅弘(埼玉県立大学大学院 教授)

コラムニスト一覧
月別アーカイブ