コラム

    • 【緊急寄稿】新型コロナ、パンデミック前夜

    • 2020年01月28日2020:01:28:21:48:35
      • 外岡立人
        • 医学博士、前小樽市保健所長

恐ろしいウイルスが出てきた。2019年12月初旬に中国武漢の海鮮市場で人に感染しだしたと言われる、新型のコロナウイルスである。
 
結論から伝えておく。この新型コロナウイルスは、凄い勢いでパンデミックを引き起こし、2003年に発生したSARSを軽く凌ぐ大変な病原体となる。
 
この年我が国は五輪開催の予定であるが、他にも大型台風や豪雨が昨年以上に襲いかかってくる。何も手を尽くしていない気候危機の素顔が数年前から見られはじめているが、今年は以前よりもさらに酷くなる。
 
そしてパンデミック発生だ。それも予想だにしてなかったコロナウイルスによる。通常のコロナウイルスは風邪症状しか出さない。だから優雅な名前をつけられている。しかし時にはSARSとかMERS等のパンデミックほどではないが、少し国際的に苛つかせる程度の流行は起こしている。
 
しかしこの新型コロナウイルスは違うようだ。
 
人に感染するコロナウイルスは6種類知られ、4種類は単なる風邪症状を起こすウイルスであるが、残りの2種類は先にも述べたようにSARSウイルスとMERSウイルスである。前者は2003年中国で発生し世界に拡大し、特にカナダのトロントの病院で大きな院内感染を起こしている。世界で8000人前後の感染者がでて、致死率は10%前後であった。重症急性呼吸器症候群という長たらしい名前であるが、日本では新型肺炎と呼ばれていた。
 
もう1種類はサウジアラビアを中心とした2012年から中東で間欠的に人での発病が発生しつづけているMERS(中東呼吸器症候群)である。SARSもMERSもコウモリが保有しているコロナウイルスによるが、前者はさらにハクビシンに感染するようになり、後者はラクダに感染するようになり、それらが自然宿主となっていったと考えられる。
 
そして今、人に強い病原性をもつ第三のコロナウイルスがでてきたのである。
 
遺伝子構造はSARSに非常に似ている。SARSが少々変異してできたものやら、はてはSARSを実験室でいじっている間に、試験管から外に漏れてきたものやら、筆者は色々と想像している。明確なエビデンスがない仮説を勝手に述べることは慎む。
 
新型コロナが人に感染したとされる武漢市の海鮮市場には生きた動物も売られており、その中にはコウモリもいる。当然そこにコロナウイルスが存在してもおかしくはないが、それら動物が保有しているウイルス検査の結果は報告されてないので不明である。なお毒蛇も売られていて、そこから今回のコロナウイルスが人に感染したのではないかという論文も出たようだ。
 
新型コロナウイルスによる肺炎は、昨年12月31日に発生3週間後、初めて中国国家保健委員会(National Health Commission、NHC)から発表された。27名の謎のウイルス性肺炎が発生したと発表されている。
 
原因ウイルスとしてSARSも当初疑われたが、1月7日頃の情報では否定されている。しかし感染者数は59人と増加し、全ての患者が海鮮市場を訪れていたとされていた。
 
中国当局の懸命のウイルス調査は間もなく謎のウイルスは、遺伝子分析で新型のコロナウイルスであることを突き止めた。1月9日にそれは発表され、WHOも認めた。
 
ウイルスが分離され、その遺伝子から核酸診断キットが作製されてから、患者の確定診断が容易となっていった。そして感染者が人口1100万人の武漢市で多数発生していることも次第に分かってきた。
 
なぜ武漢でなのか。筆者は当初から疑問をもった。武漢の海鮮市場にいた、生きた野生動物が新型コロナウイルスをもっていたと推定されていた。
 
新型コロナウイルスが引き起こす疾病は、発熱と呼吸器症状を呈することから、当初武漢肺炎と呼ばれることも多かったが、日本では次第に新型肺炎と呼ばれるようになっていった。2003年のSARSと紛らわしい呼び方だ。
 
しかしWHOの定めたウイルスの公式呼称は2019-nCoV(2019年新型コロナウイルス)、または単にnCoVとされ、日本でも新型肺炎という呼称よりもnCoV肺炎、または新型コロナ肺炎という呼称の方がより正確とされている。
 
この新型肺炎の問題は、その感染様式と病原性の程度である。ウイルスが武漢の海鮮市場内で売られていた生きた動物由来であると推定はされていたが、そこから感染がどのように広がったのかも不明だった。
 
ウイルスが人から人へ感染する状況であったなら、それは早い内に世界に広がるパンデミックの危険性が示唆される。そしてさらに病原性が高いとしたなら、非常に危険なパンデミックとなる。読者の中で何人かは感染死する可能性がある。
 
しかし感染様式では明確な人人感染は確認されず、また病原性も当初のデータから致死率が2%前後であることから、それほど高いとは考えられていなかった。
 
しかし、感染者数は徐々に増えてゆき、ついに海外でも感染者が発見されだした。タイを始め、日本や韓国、台湾など、1月下旬には10ヵ国を越えだした。しかし感染者は全て武漢を訪れたか、または武漢からの観光客だった。人から人への感染は起こしていないとされ、専門家だけでなくメディアも一安心という感じであったが、いつ世界のどこかから人人感染の報告が舞い込むかも知れなかった。
 
海外に飛び火したウイルスは、1月下旬の時点で人人感染を起こしてないが、中国内では明らかに人人感染を起こしていた。特に武漢では感染者数は対数的に増えだし、1月中旬から下旬にかけて堰を切った様に報告数が増えだした。中国全体でも2,700人となり、それは2003年に発生したSARSの感染者数を越える勢いだった。
 
問題は、なぜ急速に感染者数が増え出したかであるが、仮説としていくつか考えられた。一つはウイルスが変異して感染力を増した可能性、一つはそれまで十分に把握されてなかった可能性、もう一つは数は把握されていたが、発表されていなかった可能性。
 
一番可能性が高いと推測されたのは、十分まじめに把握していなかったことと、さらにそれが北京政府に報告されていなかった可能性である。
 
1月25日、習近平主席は政府高官達との会議席上で、情報の透明化と対策の強化を指示した。「隠してはならない!」と怒鳴ったようだ。習主席はこの席上で、新型コロナウイルスの中国内での大流行と、今後の世界に対する危険性を知ったようだ。
 
このウイルスが世界に拡大しパンデミックを起こし、そして数千万人の死者をだしたなら、習主席は完全に中国の歴史に名前を残す。もちろん負の名前を。
 
武漢では既に患者が溢れかえり、入院ベッドの不足、隔離病床の不足が明るみに出た。習主席は信じられないことに1週間前後で1000床の隔離病棟建設を指示した。最終的に1万人の患者を対象できる巨大病院の建設を早急に行い、それは近隣国からも受け入れると表明した。
 
世界にとって、驚きの一言である。
 
1,000床の隔離病棟を短期間で建設するために、国内から多くの重機と作業員が武漢に集められ、確かに最初の1000床隔離病棟は10日間程度で出来上がった。奇跡を世界は見せつけられた。
 
医療スタッフは明らかに足りなかったが、北京政府は人民解放軍の医療スタッフ1万数千人を武漢に集合させた。
 
信じられない中国共産党の力が世界に見せつけられたが、問題は新型コロナウイルスが本当に中国で封じ込まれるかであった。それには悲観的憶測も専門家の間で流れている。筆者は、武漢外でも発生している患者数の増加が非常に気になっており、中国当局は何もコメントしていないが、中国内で新型コロナウイルスが人人感染を起こしていると読んでいる。
 
もしそうなら、ウイルスは海外に広がり、海外でも人人感染を起こして、大パンデミックとなる危険性がある。
 
1月23日に武漢は基本的交通機関を全て止め、市民が市外へ出ることを禁止した。続いて自家用車での脱出も禁止された。
 
ウイルスを封じ込めるために武漢市民を市内に隔離するという戦略だ。
 
市内に封じ込められた市民の生活は非常に悲惨な状況になったが、特に医療機関は殺到する市民の波で地獄絵図のごとき状況になっている。
 
こうした状況に先進各国は自国民を救出するために28日から、各国がチャーターした民間航空機が武漢国際空港に集められ始めた。
 
一方日本国内で武漢からのツアーを載せたバスの運転者が、新型コロナ肺炎を発症したことが、1月28日発表された。バスの運転手はもちろん武漢には行ったことはなく、明らかに人人感染が国内で起きていたのである。
 
物語はまだまだ続く。
 
その結末は新型コロナウイルスしか知らないであろう。
 
願わくは自然災害とパンデミックが同時に起きないことである。
 
 
 
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外岡立人(医学博士、前小樽市保健所長)

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