コラム

    • 日本を衰退させる外国人受け入れ拡大

    • 2018年12月25日2018:12:25:05:32:42
      • 河合雅司
        • ジャーナリスト

外国人労働者の受け入れ拡大を図る改正出入国管理法(入管法)が成立した。新たな在留資格を創設し、一定の日本語能力と技能を持つ人を「特定技能1号」として就労を可能とする内容だ。これまで認めてこなかった単純労働に道が開かれる。
 
安倍晋三首相は「移民政策とは異なる」と説明している。確かに1号については、滞在期間が最長5年、家族の帯同は許さないという厳しいルールが適用される。しかしながら、在留資格は2段階方式となっており、1号のうち難しい日本語と熟練した技能を身に付けた人は「特定技能2号」に移行できる。2号になれば、定期的な審査はあるものの、家族の帯同を含めた事実上の永住が認められることから、実態は極めて移民政策に近い。今回の法改正によって、日本は「移民国家」へと大きく踏み出したと言ってもよい。
 
多産文化の国から来た人が永住権を持つとなれば、母国から大人数の家族を呼び寄せるケースも想定される。単純労働の解禁だけでも方針の大転換だが、永住権まで認める道を開くということは、わが国の形を根本から変え得る可能性があるということだ。
 
こんな政策の大転換でありながら、国会では十分な審議はなされなかった。外国人労働者の大規模受け入れについては、「社会の分断や治安の悪化を招くのではないか」との懸念を抱く人が少なくない。国会審議でも、社会保障制度などの悪用の指摘や、外国人労働者の人権を心配する声が相次いだが、1号や2号となれる技能水準、対象職種となるための要件などの詳細は関係省庁の判断にゆだねられ、政府は国民の疑問に正面から答えようとはしなかった。
 
ところが、法律成立後に政府が示した「総合的対応策」を見ても、多くのあいまいさが残っている。このまま来年4月から新制度がスタートしたならば現場は混乱し、将来的に禍根を残すことは想像に難くない。
 
このように準備不足を放置したまま制度化を図ろうとしていることも問題だが、筆者の懸念は別のところにある。外国人の大規模受け入れは、日本を救うどころか、むしろ衰退を加速させることになるのではないかとの疑念だ。
 
政府は外国人労働者を大規模に受け入れについて、「多くの業種で人手不足が広がっており、受け入れを拡大しなければ仕事が回っていかない」と説明している。人手不足の対応には、単純労働者を招き入れざるを得ないという判断である。
 
人手不足の要因は景気動向だけではなく、少子高齢化が拍車をかけている。今後25年間だけを見ても勤労世代(20~64歳)は1,500万人近く減る。こうした数字だけを見れば、政府の説明にうなずきたくもなる。
 
だが、視点をずらすと、全く異なる課題が浮かび上がってくる。そもそも「何のために外国人の受け入れを拡大しなければならないのか」という、極めて根源に関わる疑問だ。
 
当面は勤労世代の減少に伴う「人手不足」が社会課題となるが、一方で日本人人口が減るのだから、今後は消費者の絶対数が激減していく。しかも、社会の高齢化に伴って消費者の嗜好やニーズも消費量も変化する。当面増え続ける介護サービスなどの高齢者マーケットは別にしても、今後の日本社会は、2つの意味で需要不足が急拡大する。
 
外国人によって目先の人手不足を解消し、製品の生産体制やサービスの提供態勢をこれまで通りに維持することができたとしても、需給バランスが崩れていくことだろう。それらを消費する人々がいなくなっていくのでは意味をなさない。
 
まさか、労働者の次は「外国人消費者」の受け入れ拡大でもないだろう。外国人観光客の増加に期待する向きもあるが、わずかな滞在時間の観光客が不動産や自動車といった〝大物〟を大量消費するわけでもない。焼け石に水である。
 
外国人労働者の受け入れ拡大による製品・サービス提供態勢の維持というのは、目先の利益や都合ばかりを追ったチグハグな政策だと言わざるを得ない。日本人が不足する分を外国人労働者によって手っ取り早く穴埋めしようという安易な考え方は、早晩行き詰まろう。
 
なぜ、こうした発想になってしまうのだろうか。それは、外国人労働者の受け入れ拡大の発想が、現状の産業構造や国内マーケットの規模、すなわち現在の「社会のサイズ」を前提としているからだ。
 
先にも述べたが、勤労世代の減少に伴い、今後の日本ではどの産業分野でもずっと人手が足りない状況が続くことだろう。制度発足当初は業種での受け入れを想定しているが、とてもこれだけでとどまるとは思えない。いずれ政府も、産業界も、底なしに業種も受け入れる規模も拡大しようとすることだろう。
 
各国で高齢化が進み始める中、日本に大規模な外国人労働者が詰めかけるとも思えないが、もし、安い労働力を大規模受け入れが続いたならば、産業構造や働き方の変革を遅らせることになる。
 
それは結果として、日本人の賃金を抑制する方向に作用し、生産性向上にブレーキをかける。「安い労働力」に依存すれば、新たな成長産業は生まれにくい。やがて日本社会は輝きを失い、衰退の道をたどることだろう。
 
人口減少社会となった我が国にとって重要なのは、「2018年の社会のサイズ」を維持せんがために外国人によって無理矢理、人数合わせをすることではない。「人口が減っても成長し続けられる社会」への作り替えることだ。産業構造や社会構造の変革を急ぎ、ニーズや消費規模の変化を見通して、どのような仕事を、どれほどの期間と規模で外国人に委ねるのかを定めることが先決である。
 
人手確保の順番としてもおかしい。国内には働く意欲があるのに機会を得られない女性や高齢者がいる。非正規雇用に苦しむ若い世代も少なくない。日本人の処遇や労働環境改善が優先されるべきであろう。
 
より深刻なのは、「2018年の社会のサイズ」の維持を目的とした外国人労働者の受け入れ拡大策は、「人口が減少しても耐え得る社会」への作り替えを正面から否定し、社会への作り替えへの機運を削ごうとしている点だ。
 
社会の作り替え作業というのは、スタートが遅れれば遅れるほど困難さを増す。多くの国民が外国人の受け入れ拡大では、日本の勤労世代の減少に追いつかないことを知り、「人口が減少しても耐え得る社会」への転換の必要性に気が付いた時には、日本の若者は大きく減ってしまっている。そこから始めて、日本社会が豊かさを取り戻すのは至難の業だろう。結果として、しわ寄せは次世代に回されていく。
 
もちろん、介護分野など、外国人労働者の受け入れ拡大を全面否定するつもりはないが、人口減少に耐えうる社会への作り替えが完了するまでの〝時限的な政策〟と位置づけるべきだろう。そのためには、受け入れ人数や業種に上限を設け、いつまでの政策なのか期限を切ることが不可欠となる。
 
少なくなる日本人で豊かさを維持するためには、当然ながらわれわれ自身が大きく変わって行く必要がある。ビジネスモデルを少人数で付加価値の高い商品やサービスを生み出すものへと転換し、もっとスマートでコンパクトな暮らし方にシフトしていかなければならない。
 
いま、政治に求められているのは、「戦略的に縮む」ためのグランドデザインだ。何を変え、何を変えないのかを選別し、「小さくともキラリと輝く国」となるための具体的な道筋を描き出すことが急がれる。
 
 
 
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河合雅司(ジャーナリスト)

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