コラム

    • 外国人留学生が頼り

    • 2018年10月30日2018:10:30:08:35:43
      • 楢原多計志
        • 福祉ジャーナリスト

ついに、と言うべきか──。
 
「介護のプロ」である介護福祉士を育成している介護福祉士養成校の充足率が約4割まで落ち込んだ。政府は「人生100時代」「健康寿命の延伸」を声高に叫んでいるが、心もとない。
 
医療従事者とともに、老後の支え手となる介護専門職の確保に赤信号が灯っている。頼りは、やはり外国人労働者か?
 
 

◆充足率4割

 

「若者について、もっと考えないと・・・」。10月15日に開かれた第162回介護給付費分科会。部会長の田中滋部会長・埼玉県立大学理事長が溜息を交えて発言した。衝撃的なデータが田中部会長の発言に繋がったようだ。
 
データは、同日の第2議題「介護人材の処遇改善について」の議論に使われる資料の一部で、介護福祉士養成施設(大学、専門学校など)の定員等の推移を示したもの。注目点は、養成施設数の定員に対する入学者数の割合を示す定員充足率。2013年度から17年度まで5年間の推移が掲載されていた。
 
その定員充足率をみると、13年度は69.4%で7割近かったが、その後、14年度56.5%、15年度51. 3%、 16年度には44.2%と50%を割り込み、17年度は42.9%まで落ち込んだ。
 
全国老人保健施設協会の委員は「介護福祉士の仕事が魅力的な専門職であることを中学、高校などで周知すべきだ」と訴えたが、厚労省から明確な回答は得られなかった。
 
大阪市内にある養成校の経営者は「数字より現実は深刻です。泣く泣く定員を減らしたにもかからず、応募者が減り、30%以下も出ている。今のままでは、大半が廃校、閉校するしかない」と事の重大性を強調する。
 
 

◆6人に1人

 

養成施設関係者が望みを託しているのが外国人留学生。日本介護福祉士養成施設協会によると、今年度の外国人留学生の入学者は1,142人。前年度の約2倍に急増し、入学者全体の16.7%を占めた。約6人に1人が外国人留学生だ。
 
国別では、ベトナム、中国、ネパール、インドネシアなどの順に多く、モンゴルやカンボジア、インドなども増え、20カ国に及ぶ。
 
介護福祉士希望の外国人留学生増加をどう考えるか──。介護給付費分科会の公益委員は「介護職は低賃金、介護現場は3Kというイメージが国内では定着してしまった。少額の処遇改善では根本的な解決にはならない」と指摘し、当面、外国人留学生に頼らざるを得ない国内事情を説明する。
 
政府は、外国人技能実習制度のほか、在留資格の改正によって介護現場への呼び込みを強化しようと、臨時国会に入国管理法などの関連法案を提出する。
 
その一方で、公費1,000億円を投じ、経験10年以上のベテラン介護福祉士の処遇改善策に上積みを図る。財源は来年10月1日から(予定)の消費増税だ。
 
厚労省は「これまでの処遇改善によって離職率低下など一定の効果があった」と自負している。だが、介護現場の受け止め方は異なる。
 
東京都内の特別養護老人ホームの施設長は「処遇改善と言っても、ほとんどが介護報酬の加算の嵩上げによるもの。加算を取得するには介護職員の仕事を増やすか、介護職員を新たに確保する人必要があり、実態は“人事の自転車操業”が続いている」と嘆く。
 
ホームヘルパーが中心の労働組合幹部も「介護職員の平均給与を全産業平均と比べると、まだ10万円程度の差がある」とさらなる改善を訴える。
 
先の公益委員は「外国人でも介護職員の希望者が増えるのであれば、結構なこと。だが、外国人の多くはいずれ帰国する。将来を見据えれば、現場のリーダーには日本人の介護福祉士を確保する絶対に必要だ」と指摘する。
 
 

◆甘い期待

 

個人的な意見を言わせてもらえば、処遇改善は当然だが、介護事業者がキャリア・アップ制度を導入したり、職場環境の改善に努めたりしないと、離職は減らないだろう。
 
社会福祉法人の介護施設の中には、依然として家族中心型の経営が多い。理事長や施設長、事務長といった要職を親族で固めている。一概に家族経営が悪いとは言い難いが、経営理念と閉鎖的な経営実態のギャップや、昇格・昇給に絶望して退職する若い介護福祉士が後を絶たないことも事実だ。組織を身内で固め、人集めも、賃上げも、金策も、何でもかんでも行政任せでは「措置時代」より悪い。外国人介護労働者への甘い期待より、受け皿の改善を急ぐべきではないか。
 
 
 
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楢原多計志(福祉ジャーナリスト)

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