コラム

    • そして誰もいなくなる? 希望の党と民進党へのレクイエム

    • 2018年01月23日2018:01:23:05:11:04
      • 關田伸雄
        • 政治ジャーナリスト

政党とは何か。
 
『ブリタニカ国際大百科事典』には「選挙や革命を通じて政治権力を獲得・維持し、または政策決定過程に影響力を行使することにより、有権者に提示した政策を実現しようとする集団」とある。
 
『世界大百科事典』(平凡社)は「なんらかの共通的な社会観・政治観をもつ人々によって構成され、これらの社会観・政治観のうえに立って国民間の諸利益を集約し、政策を形成し、さらにその政策を実現するために議会の運営の衝に当たり、政権を担当し、あるいは政権の担当をめざす組織体をいう」と説明している。
 
 

■「政策無視」「有権者軽視」の統一会派

 

こうした定義を踏まえたうえで、昨今の永田町をみてみよう。
 
昨年の衆院選で自らが掲げた公約さえも捻じ曲げ、支持者を含めた有権者の意向も踏まえずに、「統一会派」づくりという多数派工作に狂奔した民進党や希望の党に「政党」を名乗る資格は果たしてあるのだろうか?
 
両党執行部の主導による統一会派結成の動きは、それぞれの党内に辛うじて存在した「良識派」が分党・離党を辞さない姿勢を示して反対したため、結局は断念に追い込まれた。
 
しかし、それで一件落着というわけにはいかない。
 
一連の過程で示された「政策無視」「有権者軽視」「ご都合最優先」は、わが国の民主主義が政党制を維持できるまで成長していないことを如実に物語っているからだ。
 
そもそも、政権を奪取できるわけでもないのに、両党執行部は何のために統一会派づくりへと走ったのか?
 
両党の議席数を合わせることによって、衆参両院で野党第1党(会派)の地位を確立して、国会対策を有利に進めるためだ。
 
質問時間の確保、与党との折衝で野党側を代表する姿勢を有権者にアピールすることができるというだけのことで、1月22日の通常国会召集に間に合わせようと調整を急いだ。
 
希望の党はさきの衆院選で安全保障関連法是認を掲げ、憲法改正についても戦争放棄をうたった「9条を含めて議論する」と明記していた。
 
当時、党首だった小池百合子東京都知事の主導によるもので、小池氏らはこの公約によって候補者の選別を行い、誓約書にサインした候補だけが残った。
 
これらの候補があてにしていた小池人気はその後、失速し、希望の党の獲得議席は、立憲民主党に及ばなかった。であったにしても、有権者がこの公約を前提に1票を投じたことは疑いようのない事実だ。
 
「政治に妥協はつきものだ」という意見もあるだろう。
 
とはいえ、衆院選とは無関係な参院議員だけが残った民進党との統一会派協議の結論は、安保関連法については「違憲と指摘される部分を削除する」となり、憲法改正については9条を含む表現を避けて「立憲主義に基づき憲法の論議を行う」との表現に落ち着いた。
 
希望の党の玉木雄一郎代表は1月9日の記者会見で、「安保法制には容認できる部分とできない部分が混在している。われわれの今の考え方は、十分、民進党にも理解していただける。民進党と相容れないものではない」と民進党との協議前から路線転換に前向きな姿勢を示していた。
 
15日に合意文書を交わした希望の党の古川元久幹事長は「認識を共有する野党が大きなかたまりになる」と自賛し、民進党の増子輝彦幹事長も「安保政策で希望の党には譲歩してもらった。力を合わせて安倍政権に対峙したい」と希望の党の歩み寄りを評価してみせた。
 
だが、これを「政策無視」「有権者軽視」と言わずに、何と呼べばいいのか?
 
「さもありなん」と受け止められる人は、よほど懐が広いか、政策には関心がないとしか考えられない。
 
 

■「婚約不履行」から個別行動、野党崩壊へ

 

両党の合意を受けて統一会派結成について最終的な賛否を問うた17日の民進党両院議員総会でも異論が続出して結論は見送りとなり、これを受けて、希望の党は同日、緊急役員会を開いて民進党との協議打ち切りを決めた。
 
婚約直前に破談になったようなものだ。
 
民進党内では、所属参院議員の代表である小川敏夫参院議員会長を含めた10人ほどが希望の党との統一会派に強く反対し、結成された場合には離党も辞さない姿勢を示していた。
 
今後の他党との統一会派交渉は、衆院では岡田克也常任顧問(元民主党代表)ら民進党出身議員でつくる「無所属の会」に委ね、参院では民進党執行部が引き続き模索することになった。
 
岡田氏らは枝野幸男代表が率いる立憲民主党との統一会派を目指すようだ。
 
民進党との協議打ち切りを受けて、希望の党の玉木氏は「統一会派の申し入れがあった民進党の方が決められなかった。交渉はいったん今日で終わりにしたい」と述べ、統一会派結成の失敗が民進党の党内事情によるものであると強調した。
 
「われわれに非はない」とでもおっしゃりたいのだろうか?
 
では、松沢成文参院議員団代表が民進党との統一会派結成について「絶対に受け入れられない。公約を反故にすることになる。有権者への裏切りだ。政党の自殺行為だ」と厳しく批判してきたことや、結成の動きを主導してきた玉木氏ら執行部に不信感を表明して、引き続き、離党による「分党」を模索していることについては何と説明するのか?
 
希望の党内では、中山恭子元拉致問題担当相や行田邦子参院議員、中山成彬元国土交通相も松沢氏に同調する姿勢を示している。
 
民進党、希望の党とも、執行部に党内を取りまとめるだけの力量がないということだ。
 
かくして、他党との統一会派に慎重姿勢を示すなど独自路線を維持している立憲民主党や、同党しか共闘を模索できる相手がいなくなった共産党、党首選への立候補者がなかなか現れず、今や「風前の灯」の社民党を除いて、野党内は議員個人の選挙事情や公約ではない政治信条を優先させる「個別行動」の時代に入るとみられる。
 
民進党と希望の党には「サヨナラ」を言わねばならないかもしれない。
 
野党崩壊の前兆であり、「安倍一強」は当面、安泰となるが、対抗勢力不在は緊張感の喪失を伴うため、閣僚や与党議員の失言や失態が続出する可能性も否定できない。
 
民進党には年間35億6,900万円、希望の党には30億4,200万円の政党助成金が交付されることになっている。
 
公約を頑なに守ることを含めて、政策本位の離合集散はある意味で評価できる。だが、議員としての活動に巨額の税金が投入されていることを忘れてはならない。
 
わが国が置かれている国際情勢を踏まえた現実的な外交、安全保障政策の実現、少子高齢化や人口縮小への適切な政策対応……など、クリアすべき課題は山積している。有権者にも健全な民主主義を育てるための政治監視が求められていると言えそうだ。
 
 
 
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關田伸雄(政治ジャーナリスト)

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