コラム

    • 平成30年度税制改正要望

    • 2017年11月21日2017:11:21:06:05:30
      • 板持英俊
        • 税理士

1.はじめに

 
平成29年8月31日に、各省庁から税制改正要望が公表された。この要望も踏まえて年末の税制改正大綱が取りまとめられる。今後の税制改正のスケジュールは例年通りならば、下記になるものと考えられる。
 
【税制改正スケジュール】
平成29年8月・・・ 税制改正要望 (各省庁の税制改正要望事項)
平成29年12月・・・税制改正大綱公表 (上記を踏まえて与党税制調査会において税制改正大綱を発表)
平成30年1月・・・ 閣議決定 (税制改正大綱の内容について閣議決定し法案として国会提出)
平成30年3月・・・ 税制改正法案成立 (衆参両院で審議され可決されれば法律として施行)
平成30年4月・・・ 改正税法施行 (通常は新年度から施行 ※項目によって適用時期は異なる)
 
本稿では、税制改正要望のうち医療機関に影響のある項目を解説する。
(1)医療機関等の設備投資等に関する特例措置の創設(所得税、法人税)
(2)地域機能の確保のための個人開設医療機関への軽減税制措置の創設(相続税)
(3)医療に係る消費税の課税のあり方の検討(消費税)
(4)社会医療法人・特定医療法人の認定要件の見直し(相続税・贈与税)
 
 

2.要望事項の内容

 
(1)医療機関等の設備投資等に関する特例措置の創設(所得税、法人税)
 
【要望の背景】
地域医療の確保を目的に、平成26年の通常国会で成立した「医療介護総合確保推進法」により、医療機能ごとに2025年の医療需要と病床の必要量を推計し定める「地域医療構想」を全都道府県が策定している。今後、人口構造の変化等に対応し、団塊の世代が75歳以上となる2025年に向け、地域医療構想に基づき、病床の機能分化・連携等、将来のあるべき医療提供体制の構築を目指すとしている。
 
平成30年度から、地域医療構想を内容に含んだ医療計画が本格的に実施されるため、それぞれの医療機関が自医院の将来を見据えた投資を行うことが想定される。この様な地域医療を取り巻く環境の中で懸念されるのが、今後実施される消費税増税の影響である。消費税法上、診療報酬は非課税売上とされており、支払った消費税額の大半が控除対象外消費税となるため、他業種に比べて支出が多くなる、いわゆる「損税」の問題として指摘されている。
 
【要望内容】
控除対象外消費税の負担が医療機関等の設備投資を抑制する一因となっているとの指摘がある中で、国民に必要な医療を効果的・効率的に提供するため、設備投資は不可欠である。
 
消費税増税の影響で、医療に係る消費税が抜本的に解決されるまでの間、都道府県で策定された医療計画等に資する固定資産を医療機関等が購入した場合に、当該固定資産について、税制上の優遇措置(特別償却又は税額控除の選択適用)を設け設備投資の促進を図ることが検討されている。
 
 
(2)地域機能の確保のための個人開設医療機関への軽減税制措置の創設(相続税)
 
【要望の背景】
人口減少による地域機能の衰退と医師の高齢化、医師偏在のなか、地域の医療を支える医療法人の存続を図り、地域医療を維持する必要があると考えられる。そのため、個人開業医の相続が生じた際に、相続税負担のために医療機関の承継を断念することがないように制度の創設が検討されている。
 
【要望内容】
個人開設の診療所、病院(以下「個人開設病医院」)において開設者である医師に相続が生じ、相続税負担等で個人開設病医院の承継が困難となることがないように、都道府県知事が認めたときは、相続以後5年間継続して運営している場合に限り、相続する資産額のうち「医療に必要な資産額」に相当する相続税を猶予され、当該個人開設病医院を次世代が医業承継すれば当該猶予税額が免除される制度が検討されている。
 
 
(3)医療に係る消費税の課税のあり方の検討(消費税)
 
【要望の背景】
従来、医療機関等の医療機器等の仕入れに係る消費税については、診療報酬に上乗せすることで対応してきたが、その上乗せ幅が十分ではなく、仕入に要した消費税の一部が還付されない(いわゆる損税)状態になっているとの指摘があった。このため医療の公共性に配慮した消費税の適切な負担を目的として本要望において議論されている。
 
【要望内容】
医療保険制度における手当のあり方の検討等とあわせて、医療関係者、保険者等の意見、特に高額な設備投資等による仕入消費税額の負担が大きいとの指摘等も踏まえ、平成30年度税制改正に際し、総合的に検討し、結論を得ることとされている。
 
 
(4)社会医療法人・特定医療法人の認定要件の見直し(相続税・贈与税)
 
【要望の背景】
社会医療法人等については、介護保険収入等の割合が増えると認定要件を満たさないこととなり、認定の取り消しにつながる可能性があったが、要件の見直しにより、積極的に介護事業、予防接種及び助産に取り組むことができるようになると考えられる。
 
【要望内容】
社会医療法人及び特定医療法人の認定要件の1つに「社会保険診療収入等が全収入金額の100分の80を超えること」がある。当該社会保険診療収入等に「介護保険法の保険給付」及び「予防接種」が追加された。なお、特定医療法人については、これらに加えて「助産」に係る収入も追加される。
 
 
 
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板持英俊(税理士)

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