コラム

    • 政界再編はあるのか? 衆院選後のシナリオ

    • 2017年10月17日2017:10:17:06:42:08
      • 關田伸雄
        • 政治ジャーナリスト

小池百合子東京都知事による「希望の党」立ち上げと前原誠司代表の政治決断による民進党崩壊を受けて始まった政界再編。希望の党に行けなかった民進党左派による「立憲民主党」結成もあって、衆院選は「三極による戦い」と位置付けられた。
 
小池氏が都知事職を放棄できず、衆院選出馬を見送ったことで、当初の「希望ブーム」は急速にしぼみ、自民党がどの程度の議席減に踏み止まるかが焦点となっているが、衆院選後の政局はマスコミ各社が想定している以上に複雑なものになりそうだ。
 
 

◆どこへ行く「希望の党」

 
一定数以上の議席を確保すると予想されている希望の党の先行きがまったく不透明であることが最大の要素だ。
 
小池氏は衆院選後の特別国会における首班(首相)指名選挙で、希望の党がだれに投票するのかを明らかにしていない。自民党内にあって安倍氏に批判的な石破茂元幹事長や野田聖子総務相を担ぎ出すという「奇手」もまことしやかに取りざたされている。
 
石破氏は小池氏について 「なめたら大変なことになる。小池百合子という人を侮ったら大変な目に遭うということは言っておく」(10月7日、都内で記者団に対し)と述べる一方、選挙戦第一声で「自民党をもう一度、謙虚で正直で、誠実な政党として評価いただく政党に戻さなければならない。国民がおかしいと思うことをおかしいと思わなくなったら、それはもはや自民党ではない」(鳥取市内)と述べた。
 
「機をみるに敏」な小池氏の政治手腕に期待感を示しつつ、「森友・加計問題」で安倍氏は十分な説明責任を果たしていないと批判した―と受け止められている。自らを安倍氏の「対抗勢力」と位置付けるかのような発言だ。
 
野田氏も小池氏の「盟友」と言われ、東京都知事選に際しては、対立候補を擁立した自民党の縛りをかいくぐる形で、極秘に小池氏を支援したとされる。
 
希望の党の当選者と民進党出身の無所属当選者、石破氏や野田氏と行動をともにする自民党当選者の合計が過半数を超えれば、この奇手は実現が可能だ。立憲民主党や共産党などその他の当選者が「安倍政権打倒」の一点で相乗りすれば、さらに可能性は膨らむ。
 
だが、それは数字の上だけのことであり、有権者の審判を経た次の瞬間に、当選者だけの判断で、公認政党の枠を乗り越えて突き進むことが許されるのかという疑問は消えない。
 
 

◆政策協定は空証文?

 
希望の党は民進党出身者の公認にあたって安全保障関連法の容認を迫る協定書への署名を条件にした。「希望ブーム」に頼らざるを得ない民進党出身者は、「安保関連法は憲法違反であり、廃止すべきだ」といった従来の主張を省みず、一部を除いて競うように「踏み絵」に足を乗せた。
 
希望の党が「安保関連法をめぐる与野党の不毛な対立から脱却し、党派を超えて取り組む。現行の安保関連法は憲法にのっとり、適切に運用する」との公約を掲げたのは、こうした経緯を踏まえてのことだ。
 
しかし、民進党出身者への配慮から、「安保関連法容認」を明記することはできず、一部の候補者は選挙戦で「憲法にのっとり、適切に運用する」だけを抜き出して、「(安保関連法廃止という)これまでの主張と大きく変わっていない」と釈明しているようだ。
 
有権者の判断材料となる政策協定や公約が「一枚岩」になっていないのに、選挙後の政局対応について、希望の党当選者が足並みをそろえられるのか。石破、野田両氏には一時期自民党を離党していた前歴があるとはいえ、「バリバリの保守」(自民党関係者)であり、民進党出身者がすんなり乗れるとはどうしても思えない。
 
だれが見ても明らかなように、希望の党は小池氏の政治理念や政策に賛同してできあがったものではない。安倍氏による突然の衆院解散・総選挙を乗り越えるため、資金・地方組織を含めた民進党の選挙態勢を必要とした小池氏と、小池氏の人気にすがりつきたかった民進党出身者の思惑が一致しただけの「選挙互助会」に過ぎない。
 
民進党内には「放置」されている参院議員を中心に、希望の党での当選者と立憲民主党での当選者の再結集を模索する動きも出ている。
 
小川敏夫参院議員会長も10月11日に都内で行った街頭演説で「やむを得ず希望の党に行った人もいるので(衆院選後に)戻ってもらい、大きな器となりたい」と民進党出身者が衆院選後に希望の党を離党し、民進党に復帰することに期待を表明した。
 
民進党の支持母体であり、衆院選を「股裂き状態」で戦うことを余儀なくされた連合内部にも、衆院選後の民進党再結集をにらんだ動きが出ている。
 
投票してくれた有権者への説明は別にして、当選さえしてしまえば、離党も新党結成も法律的には自由だ。「独裁的」との批判もあり、各種世論調査で支持率も急降下している小池氏にいつまでつき従うかは、結局は、当選者一人ひとりの判断になる。
 
 

◆カギ握る共産、社民両党

 
希望の党分裂のカギを握ることになるのは、「反安保関連法」を旗印にしたかつての野党共闘からはじき出された格好になった共産、社民両党の消長だ。
 
両党は立憲民主党と選挙協力を行っており、立憲民主党との関係によって「三極」の一角にとどまっている。立憲民主党という存在がなければ、展望のない独自の戦いを強いられていた。
 
立憲民主党には希望の党から排除されたことへの同情論や「筋を通した」との評価があり、一定数の議席を確保する可能性が高い。だが、共産、社民両党については、希望の党が「反安倍」「反自民」の受け皿になり得るかどうかで、比例代表での獲得議席が変わってくる。
 
衆院解散前の共産党の議席は21、社民党はわずかに2議席だった。総定数が10議席減になる中で、両党は解散前議席を維持できるかどうかが問われている。
 
維持できなければ、社民党は解党――立憲民主党への合流という選択肢を選ばざるを得なくなり、共産党はかつてのような独自路線への回帰を余儀なくされる。
 
解散前議席を維持するか、上積みができた場合には、立憲民主党との共闘路線に誤りがなかったという口実ができ、希望の党に揺さぶりをかけることも可能になる。
 
両党の消長が衆院選後の希望の党の動向、政界再編の動きに影響を与えることになる。
 
「政治の世界では一寸先は闇だ」という言葉がある。参院選のときのように自民党議員(候補者)のスキャンダルが飛び出せば選挙情勢は一挙に変わる。株価や円相場の変動、北朝鮮による挑発の有無も有権者の投票行動に大きく影響することになろう。
 
マスコミ各社の個別の情勢報道がまったくあてにならなかった例も少なくない。「投票箱を開けてみないとわからない」との声もある。
 
何を信じていいのか分からない、混沌とした政治状況の中で、有権者は難しい選択を迫られているといえそうだ。
 
 
 
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關田伸雄(政治ジャーナリスト)

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