コラム

    • フィンランド出羽守物語

    • 2017年09月19日2017:09:19:06:48:32
      • 片桐由喜
        • 小樽商科大学商学部 教授

「イギリスでは、こんなに素晴らしい制度がある、それに比べて日本はダメだ」、「ドイツでは…」、等々、諸外国の例を挙げて、自国のありさまを否定的に表現することが、どの領域にもある。
 
外国の制度研究している研究者はとりわけその傾向が強い。実際に訪問したことを強調して、時に知識、見聞をひけらかし気味に「…では~」「…では~」を連発するものだから、しばしば嫌われる。こういう人を俗に「出羽守(でわのかみ)」という。平素はそうならないように気を付けているつもりだが、しかし、今回、あえて出羽守になる。
 
今夏、フィンランドの首都、ヘルシンキに1週間ほど滞在した。そこで見聞したことを伝えずにはいられない。知恵に満ち成熟した社会が形成されていると感じるからであり、この思いを読者諸氏と共有したいからである。
 
そして、可能ならば将来の日本、いや、そこまで大げさでなく私の暮らす北海道、いやいや、私の家のある小樽においてフィンランドで見た生活のスタイルを取り込みたいし、皆さんにもそのように思っていただきたいからである(これが出羽守特有の「思い込みによる押し付けであることは承知している・・・・・」)。 以下では筆者の独断に基づくフィンランド出現率の低い・高いベスト3を述べて、出羽守ぶりを発揮したい。
 
 

◆出現率の低さベスト3

 
ヘルシンキで過ごす1週間、ない! 少ない! と感じたのが、ネクタイを締めてスーツを着る男性の姿、コンビニ、そして、商魂である。
 
日本では格安チェーンホテルでもフロント男性職員はスーツを着ている。今回、泊まったホテルは格安ではないにもかかわらず、男性も女性もストライプシャツにズボンであった。また、朝の出勤時に散歩に出かけると、市内中心部であるにもかかわらず、まず、スーツ姿の男性を見ない。皆、カジュアルな格好で出勤を急いでいる。
 
次に、コンビニをヘルシンキ中心部、市内観光地など人の集まるところで1つも見なかった。その代わりスーパーマーケットが早朝から深夜まで営業している。ただし24時間営業ではない。
 
最後に商魂たくましいと思うことがなく、むしろ、なぜ、ここで金を稼がないのかとよそ者が思うほどであった。フィンランドと言えば、ムーミンである。ヘルシンキ近郊にムーミンワールドというテーマパークがある。ここへ行くにはヘルシンキからバスで行き、降車後20分は歩く。日本なら最寄りの地域からシャトルバス、あるいは、バス降車場の近くにタクシー乗り場やシャトルバスがありそうである。しかし、これらはいずれもなく、個人旅行の観光客は歩くしかない。また、ヌークシオ国立公園がヘルシンキ近郊にある。首都の近くに森と湖に囲まれた国立公園があるなら、やはり直通のバスがあってもよさそうなものである。しかし、電車とバスを乗り継いで行かなければならず、不便この上ない。
 
 

◆出現率の高さベスト3

 
次に、出現率ベスト3である。それはベビーカー、公共交通機関、そして、日本人である。
 
調べるとフィンランドも少子化傾向というが、とてもそうは思えないベビーカーの出現率であった。ベビーカーを押しているのは父親、母親がほぼ半々である。また、公共交通交通機関であるトラム、バス、地下鉄が縦横にヘルシンキとその近郊を結んでいて、自動車がなくても不便を感じない交通体系が作られている。ヘルシンキの人口は62万、首都圏人口は140万人と言われ、札幌より規模が小さい。それにもかかわらず、地下鉄こそ1路線であるけれども、トラムは13路線、バスに至ってはヘルシンキ市内だけで100路線という。
 
そして、観光客ではない、ヘルシンキに居住する日本人が思った以上に多い。道を尋ねて知り合った日本人女子はピアノ留学でヘルシンキに来て16年、今はスウェーデン人の夫と子供と暮らしている。彼女はフィンランドはとても暮らしやすい、住んでいてホッとするという。
 
この出現率の低さ、高さから筆者が何を言いたいかを賢明な読者諸氏はすでにお気づきのことであろう。ここで私が知った風な顔をして講釈を垂れると、まさに出羽守である。
 
 
 
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片桐由喜(小樽商科大学商学部 教授)

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