コラム

    • 保育士不足は誰のせい?

    • 2017年03月28日2017:03:28:06:31:53
      • 片桐由喜
        • 小樽商科大学商学部 教授

官民立を問わず、保育所では保育士不足に悩まされている。その原因については、すでに多くが指摘されている。過重労働、低賃金、保護者との関係で生じるストレス、等々である。
 
筆者も一度、保育所へ見学に行ったことがある。保育士と園児が体育館で遊んでいるのだが、子供たちは、ひと時もじっとしていることがなく、それに合わせて保育士も休みなく動かざるを得ない。そして、この運動が終わると、子供らは昼寝をするが、その間に保育士たちは書類仕事に追われる。直接、自分の目で見て、あらためて保育士の仕事の大変さを実感した。
 
もっとも、福祉業界の中で過重労働、低賃金、家族との関係で生じるストレスなどから無縁なところはなく、そして、どこも慢性的な人で不足であることは周知のとおりである。
 
しかし、人手不足の原因はこれだけではないと考えている。
 
子育て関連の会議に参加している。その会議のメンバーには幼稚園、保育所の園長が数名いる。皆が保育士不足を嘆く中、ある園長が「正社員で雇用するなら応募もあるのだろうけれど、臨時職や契約職員での採用となると、集まらないんだよな~」とおっしゃった。
 
だったら正社員として雇用したらどうですかと尋ねると、いつまでも待機児童がいるわけでもなく、趨勢は少子化で、いつか保育士も過剰になる、そうなったときに保育士が正社員であれば、簡単に解雇できないから・・・と言う。だから簡単に雇用関係を終了できる臨時職、契約職で雇うのだということである。
 
先日、某市が契約職で保育士を5名募集したところ、1名の応募しかなかったという新聞報道があった。重労働で、責任も重い仕事に非正規職で就こうとする人を探すことは容易ではない。
 
日本福祉士会のホームページを見ると求人情報欄がある。ここでは自治体からの福祉関連職種の求人を掲載しているが、ほとんどが非常勤、嘱託職である。しかも、非正規で入職しても職務の性質上、正規職並みの責任が課される業種ばかりである。
 
こうした求人形態は労働コストを抑えることだけが理由ではなく、上述の通り、雇用関係の切りやすさも背景にあるだろう。
 
日本は正社員の解雇が困難なことで知られている。解雇権濫用法理と言って、「よほどのことがない限り」、正社員を解雇することはできない。そして、この正社員に対する手厚い保護が、一面で、非正規雇用を激増させてきたことは論を待たない。
 
人件費率の高い福祉業界にとって、非正規雇用は魅力的である。実は業界のみならず、福祉サービスの受け手である私たち、福祉サービス保障の究極的な責任を負う国家も、この低コストの恩恵を受けている。福祉業界の人手不足の原因は、サービス労働に対する低評価、日本の労働政策など、日本社会全体を覆う思想、慣行に行き着くというのは言いすぎだろうか。
 
とは言え、非正規雇用を禁じることも現実的ではない。次善の策は非正規職社員に対し、退職金を含む報酬や有給休暇、社会保険適用など、雇用期間を除く労働条件は正規職と遜色のない待遇を保証することであろう。いわゆる同一価値労働同一賃金である。
 
これを可能にするコストを納税者や受益者である私たちは出し惜しみをしてはならない。ここでケチると、そのツケは結局、後年、私たちが払うことになるからである。
 
 
 
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片桐由喜(小樽商科大学商学部 教授)

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