コラム

    • 鳥インフルエンザウイルスの異常な拡大:地球環境変化が原因か?

    • 2017年03月07日2017:03:07:06:07:58
      • 外岡立人
        • 医学博士、前小樽市保健所長

◆世界中で広がる鳥インフルエンザ

 
今シーズン、世界中で異常に広がる各種鳥インフルエンザの状況は明らかに変(strange)である。
 
韓国、中国、日本ではH5N6(亜型鳥インフルエンザウイルス、以下略)が渡り鳥で各地に広がり、欧州、東欧、インド、エジプト、台湾ではH5N8がやはり渡り鳥で広がっている。
 
現在世界で数種類の鳥インフルエンザが野鳥や家きんの間で大流行している。これだけの種類のウイルスが世界各地で広がるのは史上初の可能性が高い。H5N1、H5N2、H5N5、H5N6、H5N8、H7N9。
 
さらにこれらのウイルスは感染を広げる過程で変異を続け、その性状も少しずつ変化して行く。
 
また、湖沼や河口などに集まる渡り鳥の間でウイルスの遺伝子再集合が起こり、新型ウイルスも誕生している(H5N5)。
 
渡り鳥の動きがおかしいのか、ウイルスが異常に活性化して鳥に感染しやすくなっているのか、それは不明であるが、いずれにしても地球温暖化、または何らかの環境因子の変化による可能性が高い、と筆者は考えている。
 
現在国内で野鳥や家きんの間で発生しているH5N6も、昨シーズン発生したH5N8も、鳥には感染力が強く、極めて致死率が高い病変を起こす。それゆえ、高病原性と評される。人への致死的感染は、前者に中国で十数例の実績がある。
 
 

◆最も危険視されているH7N9

 
現在、最も危険視されている鳥インフルエンザウイルスは、中国で多くの死者を出しているH7N9である。これについては専門家の間でも異論はない。鳥インフルエンザ史上最強のウイルスの可能性がある。人に感染すると重症化して、その致死率は40%である。重症肺炎やサイトカインストームを起こすのである。
 
同ウイルスは2013年から中南部中国で人への致死的感染を起こしているが、ウイルスを保有している家きんでは無症状であった。それゆえ、低病原性鳥インフルエンザに分類されてきた。
 
しかし最近、広東省でウイルスが変異して高病原性に変わったことが報告された。すなわちウイルス感染した鳥が高率に死ぬようになったのだ。同じような報告は台湾からもなされたが、変異の結果さらに抗インフルエンザ薬のニューラミニダーゼ阻害剤に耐性となっていることも知られた。
 
変異ウイルスが人に感染すると致死的病原性を示すのは同じであるが、人への感染力も増しているのではないかという気になる意見を呈する専門家もいる。しかし疫学的データは十分出ていない。
 
 

◆中国におけるH7N9

 
現在、家きんに接触する人々が重体化または感染死する事例が相次いでいて、今シーズンの中国におけるH7N9感染者と死者の数は史上最多となっている。昨年11月から本年2月20日まで感染者数422人、最終的死亡者数はその4割前後とされる。
 
生家きん市場を訪問した人々が感染する率が高いことから、中国では生家きん市場の廃止を目指し、鶏肉は冷凍肉を一般に販売するように指導している。しかし、一般社会では生きた鶏を市場で処分してもらって、それを家に持ち帰り料理する習慣が続いていることから、生家きん市場の廃止はなかなか難しいようだ。
 
中国内の家きんのH7N9ウイルス感染率は確実に上昇してきているが、最近見つかった変異ウイルスが今後どのような動態を示すかが懸念されている。鳥に対する感染力が上がっていることから、感染家きんは今後対数的に増加してゆく危険性もある。
 
なお人から人への感染は希とされ、今シーズンも3件ほどしか可能性ある事例は見られてない。もちろん人人感染が起き出すと、それはパンデミックへの移行となる。
 
感染後発病するまでの潜伏期間は1週間から10日間である。日本に入ってくる帰国者、中国系旅行者の風邪症状にはH7N9との鑑別が重要となっているのは言うまでもない。香港、マカオ、台湾では中国帰りの発病者が10人以上確認されている。
 
 

◆今後の展望

 
いずれにしても今冬の鳥インフルエンザの動きは異常である。
 
もし地球環境変化による渡り鳥の異常な動きが原因としたなら、今後もさらに各種鳥インフルエンザが世界中に広がる可能性が高い。
 
似た現象として1年前から南米を中心に広がっているジカ熱がある。これも地球温暖化の影響で、これまで熱帯にしか分布しなかったウイルス保有蚊が北へ広がってきていることによる可能性が指摘されている。
 
また明らかに異常な状況を呈しているのが、かつてのSARS、そして現在サウスアラビアで感染者と死者を増やしているMERSである。これはコウモリが媒介するウイルスである。以前は山奥にしかいなかったこれらのコウモリが人里に出てきたのが、異常なウイルスを人に伝搬しだした原因と考えられる。さらにアフリカのエボラ出血熱ウイルスもコウモリが由来とされており、ジャングルの開発などが原因で人に感染する機会が増えたせいと考えられる。
 
異常な各種鳥インフルエンザウイルスの拡大が懸念される理由は、家きん産業へのダメージだけではなく、ウイルスが人に容易に感染するように変貌し、世界的パンデミックを起こすことであるが、それは大地震や火山大爆発以上に、現在は可能性が高いと筆者は考えている。
 
特に中国のH7N9が人の世界でパンデミックを起こした場合、国内では100万人以上の死者がでる可能性も否定できない。
 
 
 
【参考資料】
 
 
 
 
 
 
 
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外岡立人(医学博士、前小樽市保健所長)

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