コラム

    • "アメリカファースト"の矛盾――米国の活力源に封をするのか

    • 2017年01月31日2017:01:31:14:29:45
      • 杉林痒
        • ジャーナリスト

米国のトランプ大統領が、メキシコを目の敵にしている。メキシコに工場を建てるメーカーを批判し、選挙中のパフォーマンス的な主張かと思っていた国境の壁を、いまだに造ると言い続けている。NAFTA(北米自由貿易協定)はカナダも入れた3国の協定なのに、報道にはカナダの「カ」の字も出てこない。
 
メキシコに進出したメーカーに国境税をかけると言っているが、どのような基準かさえわからない。米国の工場を閉鎖してメキシコに移る会社だけかと思いきや、トヨタ自動車がメキシコの工場を増設することも許さないという。
 
問題は、米国の雇用を直接減らすことだけではなくて、メキシコに工場ができることは米国向けの輸出が増えて間接的に雇用が奪われるという発想のようだ。ということは、米国向けの輸出は全て米国の雇用を奪うことになるので、けしからんとなりかねない。
 
さらに、EUからの離脱を決めている英国とも二国間(バイ)の交渉を最優先で始めるという。ブレクジットで世界を驚かせた国と仲良くすることで、自らの保護主義的な主張を印象づけようとしているように見えるが、大統領になっても、いまだに選挙運動を続けているかのようなパフォーマンスぶりだ。
 
交渉が上手な人だというので、世界が注目しているうちに積極的に情報発信をして、今後の交渉に生かしていこうという計算なのかもしれないが、どこまでが本気でどこまでを交渉ごとで演じているのか、しばらく様子を見ないとわからないだろう。
 
それにしても、ここまで派手に打ち上げてしまうと引くに引けなくならないだろうかと、余計な心配をしてしまう。メキシコに工場を造らせない(雇用を奪う)で、これまで事実上認めてきた「不法移民」も認めないとなると、国境の圧力は高くなることだろう。無用な摩擦を生まないかと心配になる。
 
メキシコ国内だけの問題ではない。ものが売れるということは求めている人がいることの裏返しだ。メキシコ産だけど、なじみのあるブランドのものを安く買いたいという米国人にとって、メキシコの自動車や家電製品は魅力があったのだ。不法移民も国内の働き手となることで、単に安い労働力になっただけでなく、米国人にいろいろな刺激を与えたはずだ。米国社会が日本のように少子高齢化しないのは、移民を受けいれて活性化しているためだという説明はよく聞く。
 
人やモノが入ってこれば、文化も情報もついてくる。米国は、モノも人も幅広く受け入れて競争があることで、新しいものが生まれ、社会の活力が維持されてきたことは間違いがない。今回の選挙は、競争に疲れたという人たちの声が大きくなった結果なのだろう。
 
しかし、バブル崩壊後の日本が長い低迷を続けているのに、米国のGDFは伸び続けて、日本の4倍以上の規模になったことは紛れもない事実だ。トランプはこのことを無視して、「アメリカファースト」と言いながら、米国の一番の活力源に封をしようとしている。一方で、減税と公共事業で経済を活性化させるというが、それでは単なるばらまきに終わる可能性がある。せっかく減税になっても、輸入が制限されて買いたいものがなければ、買い物もつまらないだろう。国境の壁を造ったところで、経済波及効果はほとんどないはずだ。
 
日本のTPP反対論者の中には、米国の利益のための交渉で、日本人にはメリットがないという人がいた。今回、トランプはそれが米国の利益にもならないと、就任早々に離脱を宣言した。日本でそうであるように、米国でも利益になる人とならない人が分断されていることが鮮明になった。TPPは交渉範囲が広く、秘密が多いため、その影響はよくわからないが、トランプは今後、各国とバイの交渉を大切にするという。それも、NAFTAのように、最初からけんか腰の交渉だ。
 
各国とバラバラの交渉をするので、いま以上にルールはわかりにくくなり、市場の戦略も立てにくくなる。世界の貿易は縮小するので、大量生産大量消費の経済モデルは通用しなくなっていく。そうなれば、アップルに象徴される世界を席巻する企業は成り立ちにくくなる。いま、その痛手を受けやすいのは、実は米国のはずだ。シリコンバレーと対立してきたトランプにとってどうでもいいことなのかもしれないが、いずれ、米国経済を支えているのはラスティベルトではないことを痛感することになるだろう。
 
 
 
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杉林痒(ジャーナリスト)

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