コラム

    • REITバブルと年金積立金 異次元緩和は泥沼に

    • 2016年07月12日2016:07:12:09:39:36
      • 杉林痒
        • ジャーナリスト

今年5月、日本銀行が12のREIT(リート)の大株主として突然登場した。大量保有報告書で適時開示の対象となる全株式の5%を超えたためだ。その後も5%を超えるREITは2銘柄増え、7月6日時点で14銘柄となっている。
 
日銀はREITの買い入れを始めた2010年以降、リートを時々買ってきた。それは、週に2~3回、1日で10数億円の投資をしましたという報告があるだけで、どういう銘柄にいくら投資しているかはわからないものだった。
 
それが可視化されていく。日銀は投資対象のREITを格付けが「AA」以上などの「優良銘柄」に絞り、発行済み株式の5%までと決めて始めたが、昨年暮れにはその限界が近づき、限界を10%に拡大した。5月に、その5%を超える投資をした銘柄が一斉にでて、その後も限界を超えたところが続いているのが現状だ。今後、日銀が「AA以上」と認めたREITが表にでてくることになるだろう。
 
格付けといっても絶対的なものではない。時価総額が9,000億円近くにのぼり、日本のREITで最大の日本ビルファンドに、日本格付研究所(JCR)は「AA+」の格付けをしているが、スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は、「A+」でしかない。日銀は6月6日公表の大量保有報告書で、日本ビルファンドの5.13%を保有していると公表した。JCRの格付けが重視されたことになる。そもそも格付けは民間の機関が公開情報などをもとに評価をしているもので、絶対に正しいものではない。JCRと格付投資情報センター(R&I)の日系2社は、外資計のS&Pやムーディーズに比べると、総じて甘い評価をする傾向がある。
 
今回、表にでてきたREITは14社だが、日本には50余りのリートがある。果たして、日銀がこれまで投資をしてきたのはいくつのREITだったのか。これから、日銀が「AA以上」と認めたREITへの投資が、大量保有報告書で明らかになっていくことになる。仮に、その数が20になって、1REITあたりの時価総額が5千億円だとすると、投資額は5%で5千億円、10%だと1兆円になる。
 
REITは市場から資金を集めて不動産専門に投資をする上場投資信託だが、不動産市場はもはやバブルといえるレベルに達している。先ごろ公表された路線価は、全国平均でわずか0.2%の上昇だったが、8年ぶりの上昇ともてはやされた。
 
ただし、これは地方も含めた全国の平均で、今年1月1日時点のことだ。REITが投資対象にする物件は東京都内のオフィスビルも多い。公表している物件の価格を見ると、路線価の2倍3倍は当たり前で、6倍なんてものもある。これをバブルと言わずになんと言えばよいのか。ただでさえ、異次元緩和で金が余っているのに、日銀が強力に後押しをするので、金がジャブジャブに集まっている結果といえる。
 
リーマンショックの時には、REITの破綻や解散が相次いで、価格は暴落した。今後も同様のことが起こらない保証はどこにもない。そうなった時には、日銀にも数千億円単位の損失が出ることになる。
 
ここまでは、日本銀行の話だが、今後、国民の年金資金を運用している「年金資金管理運用独立行政法人」(GPIF)も、REITへの投資を増やす可能性がある。GPIFといえば、運用している国民の年金積立金の140兆円のうち半分を内外への株式に投資している結果、今年3月期で5兆円を超える損失が明らかになったことを覚えている方も多いだろう。
 
そのGPIFの積立金の運用先に、REITを含む従来とは違う投資先の枠が5%認められている。内外の株や債券に投資するだけでは足らず、投資先を広げる方針が決まっているのだ。いまは、まだごくわずかだが、REITは有力な投資先になっていく可能性が高い。そもそも、安倍政権になって株式への投資を増やした背景には、黒田日銀の異次元緩和にともなって、日銀が買い入れる年間80兆円の国債が不足する可能性が指摘されていることがある。
 
そのために、GPIFが大きな引き受け手になっていた国債を放出させ、その代わりに株を買わせることで、日銀の異次元緩和に貢献するとともに、株式市場へのてこ入れもするという一石二鳥がねらいだったのだ。その願いも空しく、昨年以来の株価下落で年金積立金は目減りしてしまった。今年4月以降も英国のEU離脱などのあおりで株価はさらに下落しており、今後、これが地価にも波及しかねない事態になっている。
 
こうした株価や地価を支えるために、GPIFや日銀の資金を使い続けることは、今後も続くだろう。デフレ脱却のための国債買い入れを続けるために、黒田日銀は、マイナス金利まで導入した。金利が下がると、ついている金利が比較的高いことになる既発の国債は価格が上がるので、銀行は儲かる。
 
日銀は、国債を買い取って資金を供給することで、お金を手にした人がものを買うことにつながり、物価が上がることを期待している。リートや株価の値上がりはその一端といえるが、実態経済にはつながっていない。そうなると、日銀は国債を買い続けるためにいつまでも金利を下げ続けることになる。最終的にマイナス金利で値段が上がった国債を買い取るのは日銀だ。マイナス金利の国債には額面を上回る高い価格がつくが、償還は額面なので、今後、国債はその差額を償却するために毎年損を出していく。いずれ、日銀の決算が赤字になる日も来るだろう。
 
その日を待たずに日本国債が信用を失っても、日銀の資産は大きく傷つく。そうなったら円は暴落して、海外の資金は一斉に引き揚げるだろう。株価も地価も当然下がる。そう考えると、一刻も早くマイナス金利を抜け出さなければならないのだが、物価は上がる兆しがない。それどころか、最近の円高で輸入物価が下がるため、下がる圧力さえかかっている。もはや、出口のない迷路に舞い込んでしまったように思えるのは私だけだろうか。
 
 
 
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杉林痒(ジャーナリスト)

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