コラム

    • 植物工場

    • 2016年04月26日2016:04:26:10:23:15
      • 岡光序治
        • 会社経営、元厚生省勤務

この4月、株式会社バイテックファーム大館が秋田県大館市において、閉鎖型植物工場の操業を開始した。その概要を紹介する。
 
 

◆大館の植物工場の概要

 
1.植物工場の定義
 植物工場は、施設内で植物の生育環境(光、温度、湿度、二酸化炭素濃度、養分、水分など)を制御して栽培を行う施設園芸のうち、環境及び生育のモニタリングを基礎として、高度な環境制御と生育予測を行うことにより、野菜等の植物の周年・計画生産が可能な栽培施設である。
 
2.施設の概要
紹介するこの施設は、閉鎖型、水耕栽培型であり、人口光(蛍光灯)利用型である。
 
建屋は、鉄筋平屋建て1,854㎡。建屋、プラント設備、熱供給などの事業費は、約12億円。放物線型反射板構造でランプ本数が少なくても高い照度(25,000ルクス以上)が得られ、1日当たり約10時間の照明で高効率栽培が可能な構造になっている。また、夜間電力時間帯を活用し、コスト低減に努め、電気代を従来の植物工場の1/3にすることを目指している。
 
工場のレイアウト。(1)ライン仕様 ①ライン寸法 13mL*1.45mW*8,700H ②ライン数 22列 ③栽培段数 12段 (2)水耕方式 ①湛液式水耕栽培 ②培養液タンク8t 5基 3t 1基 (3)照明設備 放物面反射板付蛍光灯 4灯式 2640セット 加工・業務用に適する低カリウムレタスを生産。生産量は、10,000株/日、261t/年。
 
3.植物工場展開のための条件
(1)土地の確保
4月1日から農地にも植物工場の建設が可能になる(従来は、ダメ)。
賃借で問題ないが、もちろん賃料の安い方が望ましい。面積は、大館クラスであれば、4,000~5,000㎡必要。また、物流面を配慮して高速道路などへのインフラが整備されている場所が相応しい。
(2)公的補助金の確保
 ア 農水省の「強い農業づくり交付金」の確保
 設備投資額の1/2の補助が出る。
 取得のための条件 ①農業生産法人の設立。設立に際しては、農家5戸以上の参加が必要。②コンソーシアムの設立。農業生産法人の植物工場の事業が円滑に進むよう地元のスーパーや仲卸の販売先を含め7社以上の参加が必要。
 イ その他補助金
 野菜の原価低減のためには、地元市町村からの補助金も必須。大館市の場合、1億円の補助金が交付された。
 また、植物工場においては、電気代の野菜に占める割合が高いので、電気代が安い地域が最適。原発所在地には8年間、電気代の負担を軽減してくれる優遇措置(通称F補助)がある。つまり、F補助の対象地域が適しているともいえる。
 
 

◆当該工場の生産野菜の特徴

 
1.食品レベルの低生菌数を実現
外気を遮断し、徹底した衛生管理のもとで栽培することにより、食品レベルの低生菌数を実現(菌数:露地もの150,000/gに対し、当該工場300/g以下)。このような野菜であるので、洗浄しないでサラダを提供でき、賞味期限2日以上のサンドイッチが作れるなど従来なかった商品の開発が可能になってきた。
 
2.多種多様な野菜の周年提供が可能
作ろうとする野菜に最適な環境条件を自由に設定できるため、多種多様な野菜を1年を通じて安定した価格・量での供給が可能。この会社では、独自の栽培システムを利用して重量の乗った野菜を育てるほか、従来の植物工場ではできなかった結球レタス、ラディッシュ、赤キャベツ、ほうれん草、ミニ人参などの栽培に取り組んでいる。
 
3.栄養価が高く歩留まりがいい
その野菜に最適の環境作りができる(1年中、「旬」の状態)ので、野菜が持つ栄養素を最大限引き出すことができる(例えば、低カルウム野菜の場合、一般のもののカリウム含有量490mgに対し54mg、硝酸態窒素が一般のもの2,000ppmに対し690ppm)。また、外葉などを取り除く必要がないので、高い歩留まり率を確保。
 
4.すべての野菜が無農薬栽培
植物工場産野菜については、「無農薬栽培」という表示が可能。
 
 

◆問題点

 
1.蛍光灯の照明は、植物にとって最適な光とはいえない。
植物の光合成曲線に合わせた最適な波長だけを効率的に照射することが望ましい。
 
また、野菜の含有成分のコントロール、成長スピード、食感などは光の制御に左右される部分が大きいこともわかってきている。こうしたことが可能なLEDをつかうべき。なお、昭和電工によると、同社製のLEDは蛍光灯に比し消費電力を1/2にできるとも。
 
2.閉鎖型植物工場がコスト的に露地栽培に勝つことは事実上不可能。
グラム当たりの店頭価格を比較すると、植物工場野菜と露地野菜の間に約3倍の価格差がある。
 
植物工場が目指すべきは、露地野菜と対抗することではなく、露地ものでは実現できないレベルの品質を実現することにあるのではなかろうか。高品質な機能性野菜の生産を実現できるシステム開発を進化させるべき。
 
 
 
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岡光序治(会社経営、元厚生省勤務)

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