コラム

    • 共謀共同正犯の成立について

    • 2016年01月12日2016:01:12:08:52:59
      • 尾畑亜紀子
        • 弁護士

1.共謀共同正犯とは、2人以上の者が一定の犯罪の実行を共謀し、共謀者中のある者が共謀にかかる犯罪を実行したときは、直接実行行為に出ない他の共謀者も共同正犯として処罰されるというものである。
 
2.共謀共同正犯は、上記のとおり直接実行行為に出ない他の共謀者も正犯とされることから、共同して犯罪を実行するという刑法の共犯規定に抵触し、罪刑法定主義に反するとか、団体責任を認めるかのような立論は、およそ近代刑法の個人責任の原理に反するなどと批判されていた。
 
3.これに対し、最高裁昭和33年5月28日判決(練馬事件)は、「共謀共同正犯が成立するためには、2人以上の者が特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となって互いに他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をなし、よって犯罪を実行した事実が認められなければならない」とし、「右のような関係において共謀に参加した事実が認められる以上、直接実行行為に関与しない者でも、他人の行為をいわば自己の手段として犯罪を行ったという意味において、その間刑責に差異を生ずると解すべき理由はない」と判断し、「共謀」あるいは「謀議」を共謀共同正犯における処罰の基礎とした。
 
4.かかる共謀共同正犯の成立を巡る議論を踏まえ、平成15年には、いわゆるスワット事件において、最高裁が更なる判断を行った。
 
すなわち、事案は、暴力団幹部の被告人が、大阪から上京した際、被告人の警護を担当するスワットと称される組員らと共謀の上、同人らに実包の装填されたけん銃を所持させたというものである。
 
最高裁は、被告人は、スワットらが被告人を警護するためけん銃等を携行していることを概括的とはいえ確定的に認識・認容しており、スワットらも、それを承知していたと認められ、被告人とスワットらとの間に犯行につき黙示的な意思の連絡があったといえるとした。また、スワットらは被告人の警護のために本件けん銃等を所持しながら終始被告人の近辺にいて被告人と行動を共にしていたものであり、彼らを指揮命令する権限を有する被告人の地位と彼らによって警護を受けるという被告人の立場を併せ考えれば、実質的には、正に被告人がスワットらに本件けん銃等を所持させていたと評し得るなどとして、共謀共同正犯の成立を肯定した。
 
5.上記スワット事件は、犯行に関して実行行為者との間で具体的指示行為・打合せ等が認められなかった事案である。そのような中で最高裁が共謀共同正犯の成立を認めたのは、実行共同正犯においても成立要件とされる、共同して犯罪を行う旨の意思連絡が、黙示的にでも存在すると判断したからであろう。黙示的な意思の連絡に関する言及はかかる判断を踏まえてのことと理解される。
 
また、最高裁は、黙示的な意思の連絡に留まらず、およそ実行行為を行わない者に共同正犯の罪責を肯定する理由として、実行行為者との間に、単なる意思連絡にとどまらない関係を求めているものと理解できる。なぜならば、判決文においては、被告人がスワットを指揮命令する立場にあったことが触れられているからである。
 
6.以上のとおり、共謀共同正犯が処罰される根拠である謀議が明確に存在しなくても、被告人と共同実行者との関係や実行行為時の状況や被告人の認識等、諸般の事実を考慮すると、共謀共同正犯の成立を肯定し得る場合があるということである。
 
もっとも、上記練馬事件が共同意思のもとに謀議を行うことを共謀共同正犯成立の規範として、処罰範囲を画そうとしたことに対し、上記スワット事件類似の事件において、実行行為者との関係で被告人に指揮命令権限があることを根拠に、不用意に黙示的な意思連絡が認定され、共謀共同正犯が成立することになるとすれば、いたずらに処罰範囲が拡大する懸念もある。
 
 
 
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尾畑亜紀子(弁護士)

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