コラム

    • 地域包括ケアにおける市町村の役割・課題と改善策:地域マネジメント力の強化に向けて -その1(全4回)-

    • 2015年12月15日2015:12:15:08:44:24
      • 川越雅弘
        • 埼玉県立大学大学院 保健医療福祉学研究科 教授

■はじめに-市町村の地域マネジメント力強化が求められる背景―

 
人口減少・超高齢化が進むなか、地域包括ケア提供体制の構築が重要な政策課題となっている。ただし、医療・介護需要の高い後期高齢者が急増する都市と、高齢化の進展は緩やかだが、労働人口は大幅に減少する地方では置かれた状況が大きく異なる。そのため、市町村には、地域特性や課題を適切に把握した上で、地域課題の解決策を展開するといった「地域マネジメント力」の強化が求められることとなる。しかしながら、(1)地域課題を市町村自身があまり把握できていない、(2)多職種・地域住民を巻き込んだ形での課題解決策の推進を行える人材が少ないなど、課題が山積しているのが現状である。
 
小職は、こうした課題認識のもと、複数の市町村に定期的に入り込み、(1)データ分析を通じた地域課題の認識支援、(2)地域ケア個別会議(事例検討会)での助言と課題の整理、(3)多職種や地域住民を入れた会議でのファシリテーション支援などを行いながら、市町村支援のノウハウ獲得を図っている。
 
本稿では、こうした活動を通じて感じた課題と改善策について言及する。第1回目は、まず、地域マネジメントの概念整理と、市町村支援を通じて感じた地域マネジメント展開上の課題、市町村支援のポイントについて私見を述べる。
 
 

■地域マネジメントプロセスとは(図1)

 
個人を対象に行うマネジメントも、地域を対象に行うマネジメントも、方法論はほぼ同じである。
 
市町村が行う地域マネジメントは、おおむね、(1)国の施策動向と市町村に期待される役割の把握、(2)既存データや独自アンケートを通じた現状分析(アセスメントに相当)、(3)解決すべき地域課題の抽出、(4)課題解決に向けた方法論の内部検討、(5)関係者を交えた多職種・多主体会議の運営(課題・ゴールの共有と対策の検討)、(6)進捗状況の管理と計画の修正 といったプロセスから構成される(図1)。
 
図1. 地域マネジメントプロセスの概念図
 
 
 
 

■市町村支援を通じて見えてきた課題

 
現在、複数の市町村に対し、月1回のペースで支援に入っているが、その中で感じた課題を以下に示す。
 
<課題1:既存データが活用出来ていない>
地域課題を把握するためには、(1)国が様式や項目を整備した既存データ(認定・給付データ、日常生活圏域ニーズ調査データなど)、(2)独自に実施したアンケート、(3)個別事例 の分析が必要となる。
 
特に、(1)は、他の市町村との比較にも使える重要なデータであるが、多くの市町村で、これらデータがうまく活用できていない。その理由としては、これらデータをどのように使えば、欲しい結果が得られるかのイメージがないためと考えられる(どんな結果が欲しいかの具体化も弱い)。
 
<課題2:多様な意見を集約するスタイルの会議運営が苦手>
市町村は、地域包括ケア構築に向けて、複数の事業(在宅医療・介護連携事業、介護予防・日常生活支援総合事業など)や重要テーマ(認知症支援策の推進など)を展開しなければならないが、そのためには、関係者/関係団体(医療・介護専門職、民生委員、社協、自治会など)を入れた会議を開催し、その中で、(1)地域課題の共有、(2)課題が生じている原因の究明、(3)目標の共有化と目標達成に向けた計画の作成(誰が何をいつまでに行うのかを決定)、(4)定期的な進捗管理と計画の修正などを行わなければならない。
 
従来の専門職を中心とした会議は、会議のシナリオをある程度事前に作った上で合意形成を図る形が多いが、これは、市町村職員にとって慣れ親しんだ手法である。ところが、今回期待されているような、地域住民と合意形成を図りながら施策を進めるといった会議の運営は、市町村職員にとって不慣れであり(経験がない)、かつ、非常にハードルが高い。
 
<課題3:組織形態/意識が縦割りで、かつ、協働の経験が少ない>
市町村の場合、介護保険担当課の中にも複数のグループがあり、それぞれ自分の仕事の範囲が決まっている。また、自分以外の領域には関与しないといった意識も垣間見える(特に、組織が大きいほどこの傾向は強いといった印象あり)。また、こうした部署間だけでなく、行政職と専門職間にも「壁」を感じることが多い。要するに、市町村職員は、部門や職種を超えて協働で働くという体験をあまりしていないのである。
 
地域包括ケア構築においては、専門職間、専門職と地域住民間の連携・協働が求められているが、それを運営する保険者(=市町村)にも、部門や職種を超えた協働の仕組みや意識改革が必要なのである。
 
<課題4:事業を縦割りで捉えるため、各事業間の関連性が見えていない>
市町村職員は、事業を縦割りで捉え、かつ、各事業を担う担当者が異なることも多い。そのため、複数の事業で、似た対策を行うことがよくある。また、各事業間の関連性が見えないため、各事業に共通するコンテンツ(地域ケア個別会議など)に対する理解が弱い。地域ケア個別会議を例にとると、この会議で退院事例や医療ニーズの高い事例を扱えば、在宅医療・介護連携上の課題が、認知症の事例を扱えば、認知症の人や家族への支援の在り方の課題が見つかるのである。
 
 

■市町村支援のポイント

 
これら活動を通じて感じた、市町村支援のポイントを以下に示す。
 
・「したいこと」「困っていること」をインテークした上で、事業運営方法や課題解決策を側面から支援する形が必要である。
 
・ツールを与えるだけでは駄目。したいことを踏まえた、ツールの使い方に関する支援も必要。
 
・意見集約型の会議運営に関しては、真似る仕組みが必要(内部職員にはロールモデルがいない(少ない)ため、外部のファシリテーターなどを活用するなどの対策が必要)。
 
・職種、部署、職場を超えて、「皆で地域課題を考える」場の設定と、会議運営に関する継続支援が必要。これを通じて、協働することの楽しみを体験させること(成功体験)が必要。
 
 
次回は、市町村が行うべき主たる事業ごとに、現在行っている支援とそこから見えてきた課題や対策について私見を述べたい。
 
 
 
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付記:本稿は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構委託費(長寿科学研究開発事業)「地域包括ケアシステム構築に向けた地域マネジメント力の強化手法ならびに地域リーダー養成プログラムの開発に関する研究」(研究代表者 川越雅弘)の成果の一部である。
 
 
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川越雅弘(国立社会保障・人口問題研究所)

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