コラム

    • 安倍首相は何を焦っているのか

    • 2015年06月30日2015:06:30:09:01:25
      • 關田伸雄
        • 政治ジャーナリスト

通常国会の会期が9月27日まで延長された。延長幅は95日間。戦後最長という。
 
これにより、安倍晋三首相が米国議会演説で〝公約〟した「夏までの安全保障関連法案の成立」がほぼ確定した。7月下旬までに衆院を通過させれば、参院で法案がたなざらし(審議未了)になった場合でも、衆院の3分の2以上による再議決で成立させられるという「60日ルール」を踏まえた延長幅だからだ。
 
しかし、これまでの安保関連法案審議の拙さには目を覆いたくなる。
 
法案の柱である「限定的な集団的自衛権の行使容認」をめぐって、「違憲」批判が出るのは十分に想定していたはずだ。にもかかわらず、安倍政権は1959年の「砂川事件」についての最高裁判決と、中国の海洋戦略や北朝鮮の核・ミサイル開発など「安全保障環境の変化」ぐらいしか反論材料を用意して来なかったように見受けられる。
 
6月4日に行われた衆院憲法審査会の参考人質疑では、自民、公明両党と次世代の党が推薦した長谷部恭男早大教授さえ、安保関連法案のうち集団的自衛権の行使を容認する部分について「憲法違反だ。従来の政府見解の論理の枠内では説明できず、法的安定性を揺るがす」と断定してしまった。
 
長谷部教授は15日には外国特派員協会で記者会見し、「(安倍政権は法案を)撤回すべきだと思います。核心的な部分、つまり集団的自衛権(の行使)を容認している部分は明らかに憲法違反であり、他国軍隊の武力行使と自衛隊の一体化をもたらす蓋然性が高いからです」とまで述べた。
 
与党推薦の参考人としては前代未聞のことだ。
 
参考人質疑では、民主党推薦の小林節慶大名誉教授、維新推薦の笹田栄司早大教授も関連法案について「違憲」と指摘しており、菅義偉官房長官は4日当日の記者会見で「まったく違憲でないという著名な憲法学者もたくさんいる」と反論。10日の衆院平和安全法制特別委員会では、百地章日大教授、長尾一紘中大名誉教授、西修駒大名誉教授の3人の名前を挙げてみせた。しかし、質問者の辻本清美衆院議員(民主党)に「合憲だと言っている憲法学者がこんなにいると示せないのであれば、法案を撤回した方がいい」と挑発され、「数ではない。憲法の番人は最高裁で、その見解に基づき法案を提出した」と多数派論争からの撤退を余儀なくされた。
 
これを「追い詰められた末の強弁」と受け止めない有権者がいるだろうか。
 
6月22日に衆院特別委で行った参考人質疑では、5人の参考人のうち与党推薦の西駒大名誉教授が「(集団的自衛権の)限定的な行使容認であり、明白に憲法の許容範囲だ」と述べたほか、同じく与党推薦の森本敏元防衛相が安全保障の専門家としての立場から、「周辺諸国の脅威に対応する十分な態勢が、今の法体系では必ずしもできていない」と指摘。「日本にとって極めて重要な意味を持つ法制だ」と法案成立に期待を表明した。
 
賛否のバランスは整えられたが、「後の祭り」とのイメージが拭えない。
 
このほかにも、中谷元防衛相が6月5日の衆院特別委で「現在の憲法をいかにこの法案に適用させていけばいいのかという議論を踏まえて閣議決定を行った」と答弁したことも、「憲法と法律のどちらが上位か。法案に合せる形で憲法解釈を変更したことになる」などと護憲派の強い批判を招くなど、稚拙な国会対応は枚挙にいとまがない。
 
「戦争法案」「海外で戦争をする国にしようとしている」という野党側の〝レッテル貼り〟や同じような質問の繰り返しにイライラが募るのは理解できる。
 
しかし、安倍首相本人も事態が深刻となる前の5月28日の衆院特別委で自席から「早く質問しろよ」とヤジを飛ばすなど〝問題行動〟も起こしている。最近の国会中継で目にする首相の態度にも、「国民に法案の必要性を理解してもらおう」という姿勢はうかがえない。
 
現在のような法案審議が続くのだとすれば、安倍首相が多数を持って反対派を押し切って法案を成立させたというマイナスイメージだけが残ることになる。
 
延長国会の会期中には、未来指向型の「戦後70年談話」発表も見込まれている。法案に自信を持っているなら、首相が焦る必要はない。初心に返って、丁寧に、丁寧に、国民の理解を求めていくべきではないか。
 
 
 
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關田伸雄(政治ジャーナリスト)

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