コラム

    • 採用内定を巡る法的問題について

    • 2015年01月20日2015:01:20:11:23:38
      • 尾畑亜紀子
        • 弁護士

1.採用内定の法的構成

 
労働契約において、採用から内定までの法的な評価は、以下のとおりである。
 
すなわち、使用者による採用募集は労働契約申し込みの勧誘、労働者の応募は労働契約の申し込み、使用者の採用内定の告知あるいは通知が労働契約の承諾であり、これによって労働契約が成立する。もっとも、採用内定は始期付き、解約権留保付きの労働契約である。
 
 

2.採用内定の取消

 
採用内定が解約権留保付きであるとしても、いかなる事由が取消事由として認められるのか。
 
判例上、留保解約権の行使は、解約権の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当な事由がある場合に認められると判断されているが、通常、採用内定通知に、採用内定取消事由として謳われるのは、提出書類への虚偽記入や、入社までの非行の発覚等である。
 
もっとも、裁判例においては、書類への虚偽記入について、内容・程度が重大なもので、それによって従業員として不適格であるといえる場合でなければ留保解約権の行使は無効とされている。
 
過日、テレビ局がアナウンサーとして採用する内定を出していた学生に対し、当該学生が行っていたアルバイトの内容を問題視して内定を取り消した旨の報道がなされた。この事件は学生が提訴して裁判が係属したようであるが、その後、テレビ局が学生を採用する内容で和解が成立したとの報道にも接した。裁判の経過は明らかではないが、従来の判例の動向からすれば、当該アルバイトがアナウンサーとしての適格性を損なうほどの非違的な内容のものでない限り、内定取消に合理性が認められることはないのではないかと考える。したがって、おそらく裁判所からテレビ局側に対し、内定取消を撤回するよう勧告があったのではないかと推測する。
 
内定取消については、解約権留保付きという法的な枠組みに固執せず、実務上、解雇する場合と等しく厳しい合理性が求められるとの意識を保持している必要があるといえよう。
 
 

3.内定後の研修の義務付け

 
内定後、入社前に使用者が内定者に対して研修に参加するよう求めることが専らであるが、かかる研修に内定者が任意に参加することを超えて、使用者が参加を義務付けることができるであろうか。
 
前述のとおり、採用内定は始期付きの労働契約であるから、内定段階では労働者に労務を提供する義務は発生していない。したがって、使用者の業務指示として、研修に参加するよう義務付けることはできないと思料する。
 
実際、裁判例においても、内定者の生活の本拠が、学業等の労働契約以外に存する以上、それを尊重し、研修によって学業に支障が生じる場合は、一旦研修に参加する旨の労働者の同意があったとしても、研修参加を免除する信義則上の義務があると判断した。つまり、使用者としては学生の同意があったことを理由に研修参加を強制することはできない。もっとも、学生において一旦研修に参加することに同意したにもかかわらず、学業以外の理由で研修に参加しない旨主張した場合、使用者において、研修参加への同意に反するとして、どこまで追及できるかは検討を要する。
 
また、上記裁判例は、研修に参加することを拒絶した内定者に対して、内定取消等不利益な取扱いをすることできないと判断した。
 
仮に使用者において、内定者に対し、研修に参加しない場合は内定を取り消す旨暗にほのめかし、結果研修にどうしても参加できない内定者が内定辞退に至った場合は、実質的に不当な内定取消と判断されることもあり得る。
 
 
 
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尾畑亜紀子(弁護士)

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