コラム

    • 法人格否認の法理について

    • 2014年07月01日2014:07:01:08:05:00
      • 尾畑亜紀子
        • 弁護士

1 はじめに

 
法人格否認の法理とは、最高裁判所昭和44年2月27日判決において,次のように判示された内容のものである。
 
「およそ社団法人において法人とその構成員たる社員とが法律上別個の人格であることはいうまでもなく、このことは社員が一人である場合でも同様である。しかし、およそ法人格の付与は社会的に存在する団体についてその価値を評価してなされる立法政策によるものであつて、これを権利主体として表現せしめるに値すると認めるときに、法的技術に基づいて行なわれるものなのである。従って、法人格が全くの形骸にすぎない場合、またはそれが法律の適用を回避するために濫用されるが如き場合においては、法人格を認めることは、法人格なるものの本来の目的に照らして許すべからざるものというべきであり、法人格を否認すべきことが要請される場合を生じるのである。」
 
 

2 法人格否認の法理が適用される場面について

 
上記のような法理が適用される典型例は、ある法人が過去の義務を免れ、新たな権利のみを享受しようと志向し、義務を負う会社を潰して、会社の所在、役員等をそのままに、新しい会社を設立する場合である。
 
雇用関係における法人格否認の法理の適用は、旧法人を倒産させて従業員を解雇したにもかかわらず、同様の事業を行う会社を別に設立して実質的に従前どおりの事業を続行するというケースにおいてである。
 
 

3 東京地裁平成21年12月10日判決

 
上記判例は、従業員の給料の支払の遅滞や不払を累積させ、未払い賃金訴訟が全国各地で多数係属していたものの、ある時期以降まったく賃金を支払わなくなり、未払い賃金の累積額が1億円を超えて倒産した会社に勤務していた従業員が、倒産した会社(以下、「旧会社」という。)の営業権等を譲り受けた会社2社に対して未払い賃金等を請求した事案である。
 
判決は、以下のような事実を認定し、旧会社が未払い賃金等の債務を免れる目的で、営業権のすべてを被告2社に承継させ、自らを倒産させたものと判断し、提訴した元従業員が旧会社に対して有していた判決に基づく賃金請求権等を被告会社2社に対して認め、未払い賃金等を支払うよう命じた。
 
(1) 被告2社は、いずれも本店所在地が倒産した会社と同一である。
(2) 旧会社の代表者、その妻、その子が被告2社の大口の出資者である。
(3) 上記3名が代表取締役、監査役等の役員を務め、かつ、3社間で役員を兼任していた。
(4) 3社において取締役会及び株主総会のいずれも開催されず、組織の改編・統廃合、経営方針及び営業方針、経理及び人事異動等、企業活動のほぼ全面にわたって上記代表取締役が専行して決定していた。
(5) 被告2社はもともと旧会社の一営業部門であった。
(6) 3社の事業目的、事業内容には共通性がある。
(7) 被告2社はいずれも人的・財政的基盤に乏しく、その企業活動及び売上等の収益の殆どを旧会社に依存していた。
(8) 代表者個人の住民税について旧会社が小切手を振り出していた経緯もあったこと
(9) 旧会社は、倒産直前に多額の滞納家賃及び更新料を支払うことによって、本店所在地の賃借権及び保証金返還請求権を被告2社に承継させた。
(10) 旧会社は、倒産直後に顧客データ等を被告2社に無償譲渡し、旧会社が行っていたものと実質的に同一の事業を継続している。
 
 

4 実体法と手続法上の効果の区別について

 
法人格否認の法理が適用されるケースにおいて、上記のように旧会社に対して有していた判決の内容は、そのままでは被告2社に強制できない。つまり、同2社を改めて訴え、勝訴することによってのみ同2社に対して既判力(当事者が確定判決に拘束されること)及び執行力(給付義務の実現を執行機関に対して求める地位を付与されること)を持つのである。
 
この点は、最高裁判所昭和53年9月14日判決において以下のとおり判示されている。
 
「上告会社の設立が訴外会社の債務の支払を免れる意図の下にされたものであり、法人格の濫用と認められる場合には、いわゆる法人格否認の法理により被上告人は自己と訴外会社間の前記確定判決の内容である損害賠償請求を上告会社に対しすることができるものと解するのが相当である。しかし、この場合においても、権利関係の公権的な確定及びその迅速確実な実現をはかるために手続の明確、安定を重んずる訴訟手続ないし強制執行手続においては、その手続の性格上訴外会社に対する判決の既判力及び執行力の範囲を上告会社にまで拡張することは許されないものというべきである。」
 
 
 
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尾畑亜紀子(弁護士)

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