コラム

    • 中国・習近平主席の高笑いが聞こえる

    • 2014年05月20日2014:05:20:08:05:00
      • 關田伸雄
        • 政治ジャーナリスト

■繰り返される「いつもの構図」

 
安倍晋三首相は5月15日、集団的自衛権の行使を限定的に認めるべきだとする政府安保法制懇の報告書提出を受けて自ら記者会見を行い、「(与党協議を経て、政府の憲法)解釈変更が必要と判断されれば、改正すべき法制の基本的方向を閣議決定する」と述べた。
 
集団的自衛権について「保有しているが、(戦争の放棄と戦力の不保持をうたい、交戦権を否認している)憲法9条の規定により行使できない」としてきた現行の政府憲法解釈の変更に意欲を示したものだ。
 
16日付の各紙は、見出しのいくつかをピックアップしただけでも、「『戦地に国民』へ道」「平和主義 根幹変わる」(東京新聞)、「集団的自衛権行使へ転換」「最後の歯止め 外すのか」(朝日新聞)、「集団的自衛権容認を指示 戦後安保の転換点」「これでは筋通らぬ」(毎日新聞)と大騒ぎだ。まるで「明日にも日本が戦争に巻き込まれる」と言わんばかりだ。
 
中国外務省の華春瑩報道官も15日の定例記者会見で「歴史的要因もあり、日本の軍事領域での動向が、地域の安全(保障)環境に影響するのは必至だ」と強い警戒感を示したとされる。
 
安倍政権の「右傾化」を国内の一部マスコミが批判し、中国がそれに同調する―といういつもの構図だ。
 
でも、ちょっと待ってほしい。それだけで済ませていいのか。
 
集団的自衛権行使の限定的な容認に理解を示す産経新聞、読売新聞も含め、日本のマスコミは国際政治の厳しい現実を十分に伝えきれているのか。
 
 

■「火事場泥棒」の現実

 
中国が南シナ海のパラセル(中国名・西沙)諸島の近海で石油掘削活動を開始したと公表したのは5月3日だった。
 
2月18日にウクライナでEUへの統合を主張する市民グループが当時の大統領に対して抗議デモを行い、警察との間で武力衝突が発生、少なくとも82人が死亡し、1,100人以上が負傷した「ウクライナ騒乱」と、その後のロシア軍部隊とみられる武装勢力のクリミア侵攻、ウクライナ東部地域のロシア編入をめぐる混乱に、世界全体が緊張し、G7などを舞台に国際社会の駆け引きが続く中での突然のできごとだった。
 
同諸島の領有権を主張するベトナムは、中国に「ベトナムの主権や管轄権を侵害している」と強く抗議、掘削を阻止するために派遣されたベトナムの海上保安船など と中国の公船が複数回にわたって衝突した。
 
ベトナム当局は「中国船が意図的にぶつかって放水してきた」と主張、中国外務省は「ベトナムの船が故意に衝突してきた」と反論した。
 
米国務省は衝突事件について「船舶による危険な行動と威嚇を強く懸念する」との報道官声明を出し、その中で中国による石油掘削を「挑発的で緊張を高めるものだ」と批判。ケリー米国務長官も5月12日に「最も新しい懸念がパラセル諸島に対する中国の挑戦であることは明らかだ」と中国を名指しで非難したが、中国が石油掘削作業をやめる気配はない。
 
「世界の関心が別なところに集中しているタイミングを見計らった『火事場泥棒』のやり方。中国の常套手段であり、いったんはおとなしくするが、得たものは『既得権益』であり、決して手放すことをしない」(元外務官僚)という指摘通りの展開だ。
 
 

■力を失った「切り札」

 
パラセル諸島への中国の対応は、4月に日本を含むアジア4カ国を歴訪し、米国の安全保障政策の重点をアジア太平洋地域に移す「再均衡(リバランス)戦略」の推進を確認したオバマ米大統領の鼻を明かすような動きともいえる。
 
歴訪の際の安倍首相との首脳会談で、オバマ氏は尖閣諸島(沖縄県石垣市)が日米安保条約の適用対象であることを明言し、安倍首相は共同記者会見で「日米同盟は力強く復活した」と自賛してみせた。
 
しかし、「対象は異なるが、日米同盟がかつてのように有効に機能していれば、パラセル諸島に関する中国の動きは抑制的なものにとどまっていた。明日は尖閣かもしれない」(外交アナリスト)という分析もある。
 
邦人保護を大前提にした集団的自衛権の限定的行使をめぐってさえ大騒ぎしている日本、中国との直接対話を重視するあまり日米同盟という「切り札」の力を大きくそいでしまった米国。
 
国際社会は日米両国の状況をどう見ているか。習近平主席の高笑いが聞こえるような気がしてならない。
 
 
 
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關田伸雄(政治ジャーナリスト)

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