コラム

    • 「靖国その後」と安倍外交―見えぬ先行き

    • 2014年02月04日2014:02:04:08:00:00
      • 關田伸雄
        • 政治ジャーナリスト

■靖国で勢いづく中韓

 
1月29日、第一次世界大戦勃発100年に合わせてニューヨークで開催された国連安全保障理事会の会合で、中国と韓国の国連大使が日本に対する名指し批判を繰り返した。
 
安倍晋三首相が2013年末に「国民との約束」として行った靖国神社参拝や慰安婦問題をターゲットにしたもので、中韓両国ともそれぞれの立場を国際世論に訴えた格好だ。
 
中国は劉結一大使が靖国神社を「日本の侵略の象徴」と位置付けたうえで、「(合祀されている)ファシストの戦争犯罪人たちを(慰霊に)訪れたのは国連憲章によってつくりあげられてきた戦後秩序に対する挑戦である」と批判し、安倍首相についても「戦争(さきの大戦)についての評価を覆そうとしている」と非難。「日本の指導者たちは近隣諸国からの信頼を得るために過去(の事実)を見つめるべきだ」と述べた。
 
王毅外相が1月24日にスイスで開かれていた世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)の席上、安倍首相の靖国参拝に関連して「日本のA級戦犯はアジアのナチスだ。ヨーロッパの指導者がナチスの戦犯に対して献花したらヨーロッパのみなさんはゆるせますか」と批判したのと同一線上であり、背景には、「安倍政権=ナチス」という欧米諸国が鵜のみにしやすい単純な構図を示すことで日本のイメージダウンを図ろうとする中国の戦略がある。
 
一方、韓国の呉俊国連大使は演説の中で17回も「日本」の国名を連呼し、「日本は軍国主義だった過去に適切に対処しないまま切り離そうとしている」「帝国主義時代に起こしたことへの見方を捻じ曲げている」と批判を繰り返した。
 
特に、靖国参拝については、「戦後に日本が再び合流した国際社会の礎に対する挑戦だ」「日本は近隣諸国とトラブルばかり起こしている。歴史を否定することによって近隣諸国を挑発するようなことは慎むべきだ」と非難した。
 
中韓両国は国連の各委員会や世界各地のマスコミ対応などで日本非難キャンペーンを繰り返している。
 
中国には尖閣諸島問題と一方的な防空識別圏を含む海洋戦略、日米同盟分断、韓国には竹島問題と慰安婦への補償など、それぞれの思惑があるのは明白だ。
 
 

■戦略なき安倍外交

 
これに対し、安倍首相は1月28日の衆院本会議で、「国のために戦い、尊い命を犠牲にした方々に尊崇の念を表し冥福を祈るのは、国のリーダーとして当然であり、世界共通の姿だ」と自らの靖国参拝の正当性を繰り返し強調したにとどまった。
 
米国は首相の靖国参拝直後、在日大使館声明の形で、「日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させる行動をとったことに失望している」と批判した。声明には「首相の過去への反省と日本の平和への決意を再確認する表現に留意する」という内容も盛り込まれたが、「失望」という表現は同盟関係にある国の首脳に対して発せられることが通常は考えられない言葉だ。
 
ジャーナリストの櫻井よしこ氏は、1月7日付産経新聞に「アメリカよ、どうしただと、思わず尋ねたくなる」という書き出しで、米オバマ政権が長期的視点で中国の真意を分析することを怠っていると思わざるを得ない反応であり、米国がどちらにもくみしない姿勢をしめしていることが中国の尖閣諸島領有への主張を増長させる要素のひとつになっている―と指摘している。
 
しかし、オバマ大統領は1月28日の一般教書演説で、中国の脅威や北朝鮮の核開発問題に一切言及せず、国際社会における米国の役割についても「脅威に対して防衛することだけでなく、協力を促進することなどが必要だ」との認識を示しただけだった。
 
櫻井氏が指摘しているように、こうした米国の姿勢が中韓両国の対日批判を助長しているのは確かであり、冒頭に紹介した国連安保理での両国国連大使の演説も「日本バッシング」を許容したかに見える米国の態度を見極めたうえで行われたものだ。
 
韓国の朴槿恵大統領は1月25日の米上院議員との会談で、日韓両国の歴史認識問題をめぐる米政府や議会の対応について「相当な意味がある」と高く評価したとされる。
 
オバマ政権だけでなく米国全体が、中国の膨張主義を抑制しようとする意思と戦略を放棄してしまったかのように見える。にもかかわらず、安倍首相は1月30日の参院本会議で「日米同盟は揺るぎないものであり、靖国参拝に影響されることはない」との楽観論を展開、「これまで(日米)両国は、首脳レベルの会談を含むさまざまな機会に『緊密に協力して世界の安定と平和に貢献する』と表明してきている」と同盟関係の維持に自信を示した。
 
とはいえ、安倍政権に事態打開のための明確な戦略があるわけではない。東南アジアを歴訪しているにもかかわらず中国包囲網が完成しないのも、安倍外交が「その後」の姿を明確に示すことができないからだ。
 
正念場はオバマ大統領が来日する4月。政権のもう一つのハードルとなる消費税率引き上げの時期と重なるのは皮肉なことだ。
 
 
 
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關田伸雄(政治ジャーナリスト)

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