コラム

    • 何を考えているのか? 中国・習近平政権の不思議

    • 2013年04月30日2013:04:30:09:30:15
      • 關田伸雄
        • 政治ジャーナリスト

 

中国共産党・習近平総書記(中央軍事委主席兼務)の国家主席就任から1カ月半が経過した。
 
党と軍に加え、政府の三権を掌握したことを受け、当初は、尖閣諸島(沖縄県)の領有をめぐって悪化の一途にある日中関係の改善に動き出すと期待されていた。
 
習氏は総書記就任以降、表向きは「党による管理・監督」という共産党一党独裁体制の維持・強化を主張し、「中華民族の偉大な復興」「美しい中国」といった愛国的スローガンを掲げてきた。
 
しかし、一方では、訪中した公明党・山口那津男代表と1月25日に行った会談で、安倍晋三首相が第1次政権時に日中の「戦略的互恵関係」構築を確認したことに言及し、「再び首相になって、新たな中日関係に大きく貢献することを期待している」と述べるなど、第2次安倍政権を評価したとされる。
 
毎春の恒例となっている日中韓首脳会談の日程を決めなければならない時期が近づいていたこともあり、外務省幹部も習氏の国家主席就任後から5月にかけて日中関係改善が両政府間の最大の課題になるとみていた。
 
前提となるのは尖閣問題の沈静化だ。だが、中国の海洋監視船など公船による尖閣周辺の領海侵犯や、領海に隣接する接続水域の航行は以前にも増して頻発、過激化している。
 
海上自衛隊ヘリや護衛艦への射撃管制用レーダーの照射という、交戦状態突入直前の強い威嚇にとどまらず、4月23日午前には海洋監視船「海監」8隻が相次いで領海に侵入し、日の丸を掲げて集団漁業活動をしていた日本の漁船9隻に接近した。
 
2012年9月の尖閣国有化以降、領海侵犯は40回目であり、接続水域にも中国の漁業監視船2隻の航行が確認されており、規模は最大だった。海上保安庁の巡視船が中国海洋監視船と漁船の間に入ってこと無きを得たものの、日本の漁船が漁場から追い出され、生命の安全を脅かされた格好だ。
 
習氏はさらに安倍首相特使として訪中予定だった日中友好議員連盟会長の高村正彦自民党副総裁が希望していた会談も「日程上の理由」(自民党筋)で事実上拒否した。中国に太いパイプを持つ高村氏は4月18日に産経新聞が行ったインタビューで「両国トップが戦略的互恵関係を取り戻そうと考えている以上、首相の『犬馬の労』を取って努力したい」と自らの訪中による日中関係の改善に強い意欲を示し、日本の外務省も「大所高所から意見交換が可能だ」(同幹部)と期待していただけに衝撃は大きかった。
 
日中双方が強硬姿勢を貫く限り日中関係の改善はあり得ない。習氏をはじめ中国側も十分、それを承知しているはずだ。にもかかわらず、習氏はなぜ対話の窓口すら閉ざそうとするのか?
 
まだ、大勢にはなっていないが、中国ウォッチャーの間では「習氏は三権を完全に掌握していない」という見方が出始めている。軍も、国家海洋局も、政府に対する中国国民の不満を背景とする対日強硬論を無視できずに強硬姿勢を一切崩せず、習氏も自らの指導力を何ら発揮できない―という分析だ。
 
ウォッチャーの一人は「かつての中国共産党であれば、国際世論の動向なども探りながら、一定の段階で世論誘導を行い、外交問題も最高指導者の意向に沿う形でコントロールすることができた。しかし、インターネットなどを通じて中国人民の政権監視能力が高まっている現状では世論誘導も容易ではなく、へたをすると、政府への不満が高じて政権の命取りになりかねない」と解説してくれた。
 
日中間は経済関係も密接不可分のものになりつつある。このままの状態が続けば双方にとってマイナスであることは間違いない。習氏が日中関係改善に向けてどういった指導力を発揮するのか、発揮できるのか。習政権が安定的な長期政権になれるかどうかの試金石と言えそうだ。
 
 
 
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關田伸雄(政治ジャーナリスト)

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