コラム

    • セクシュアル・ハラスメントについて

    • 2013年04月23日2013:04:23:09:10:00
      • 尾畑亜紀子
        • 弁護士

 

1.セクシュアル・ハラスメントの定義

 
セクシュアル・ハラスメントとは、男女雇用機会均等法上の定義によれば、職場において行われる、労働者の意に反する性的な言動をいう。
 
職場とは、事業場に限らず取引先や、業務上の打ち合わせのための飲食店、取材先、出張先、業務車中も包含する。労働者とは、正規に限らず非正規の労働者も含む。性的な言動の主体は、事業主、上司、同僚に限らず、取引先、顧客等もなり得、同性同士でもハラスメントになる。性的の言動の内容は、性的な事実関係を尋ねたり、性的な内容の情報を流布したり、性的な冗談を述べたり、食事やデートに執拗に誘ったり、性的関係を強要したり、必要なく身体に接触したり、わいせつな図画を配布掲示したりすることである。
 
セクシュアル・ハラスメントは環境型・対価型に区別されており、事件となるのは専ら後者であるという印象である。対価型セクシュアル・ハラスメントの典型は、上司が部下に対し(男性上司が女性部下に対して述べる例が圧倒的多数である)、「食事(通常は肉体関係を持ちたいという意図がある)に付き合え、でなければお前を辞めさせる」という類の発言である。
 
 

2.セクシュアル・ハラスメント発生の原因

 
上記のような典型例は教科書事例であると一笑に付される方も多いと思うが、残念ながら、単なる教科書事例では済まされないケースが現に存在する。しかも、男性上司には妻子がいる例も多く、セクシュアル・ハラスメントと同時に不貞を働くという二重の不法行為、刑事でいうならば観念的競合のような状況を現出することになる。
 
なぜ、このような事件が後を絶たないのか、ということを最近よく考えるのである。
 
1つには男女雇用機会均等法が施行されてから20年、法律では男女は平等であるが、長年にわたって培われた男女の仕事における役割分担の意識、すなわち女性は職場の花である、お茶汲みであるという意識が、文化的な背景とも相俟って、なかなか払拭しきれていない、あるいは払拭する必要もないと考える向きが多いからではないだろうか。
 
 

3.セクシュアル・ハラスメントの法的構成

 
端的に、不法行為である。そして、加害者個人の不法行為に留まらない。事業主にとって頭が痛いのは、被害者の精神的苦痛が非常に大きく、請求される慰謝料が高額に上るケースもある中で、事業主が使用者責任を追及されるということである。
 
被害者が不法行為に基づく損害賠償請求を検討する場合、加害者個人の資力はあてにならない。損害額として計上される金額は最低でも100万円単位で請求されるからである。
 
そこで被害者は事業主に対しても合わせて損害賠償を請求するケースがほとんどであろう。そして事業主が被害者に慰謝料を支払うケースも多い。事業主は加害者個人に求償できるが、求償権が実効性のあるものであるとは限らない。
 
 

4.セクシュアル・ハラスメント事件が発生した後の対応

 
事業主は予め被害者が容易に相談できる窓口を周知しておくことである。相談された担当者は、被害者から被害の状況、つまり、いつ、どこで、誰が、どのように、何をした、という基本的な事実の聞き取りを行う。この聞き取りは、被害の状況を被害者がどれだけ詳細に申告できるか、つまり、虚偽の申告を防ぐ意味がある。虚偽の申告を受けるリスクは、極めて少ないが、現に存在する。
 
事実の申告には具体性があり、迫真性がある。被害者が嘘をついていないことはある程度話を聞けば分かる。被害者の話を聞いた後、相談窓口の担当者は、事業主にどのような対応を取ってほしいかを尋ねる。これは、被害者の中には、事業主に事実を知ってもらい、異動をして当該加害者である上司と引き離してもらえれば事を荒立てたくないと考える人もいるからである。
 
加害者に責任追及をしたいとの意向を示す場合は、加害者に対して被害者の言い分について弁明の機会を与える。
 
弁明の機会を与えるのは、セクシュアル・ハラスメントが就業規則上服務規律違反であり、懲戒処分の対象となるからである。加害者の弁明はたいてい、本人がいやだといわなかった、喜んでいると思った、同意の上である、という種類のものである。
 
しかしながら、かかる弁明がなかなか通用しないのは、被害者は部下であるという立場上、上司の(ときに執拗な)要求を断りきれない前提があるということである。
 
被害者本人の同意があったという弁明が通用しないことは、裁判所の認定を受ければよくわかることだが、裁判になってからでは遅い。相談窓口の担当者は、被害が事実なら、できる限り速やかに的確に、被害者本人の意向を聞き、加害者の処分、示談を望むならば、その仲介を取るべく行動することが肝要である。
 
 

5.セクシュアル・ハラスメントの防止策

 
事件を未然に防ぐためには、やはり管理監督者向けの勉強会等を開き、意識の向上改善に取り組むことであろう。勉強会の中で一時の劣情が一生を棒に振る可能性があることを説得的に説明できれば、防止策として効果的であると思われる。
 
 
 
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尾畑亜紀子(弁護士)

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