コラム

    • 要介護高齢者に対する退院支援の現状と課題 -その1(全3回)-

    • 2013年03月12日2013:03:12:09:30:00
      • 川越雅弘
        • 埼玉県立大学大学院 保健医療福祉学研究科 教授

 

■はじめに 

 
 入院医療費の適正化、医療提供体制の効率化の観点から、平均在院日数の短縮化が推進されている。こうしたなか、円滑な退院を支援する「退院支援」の機能強化が求められている。 
 
 本稿では、入院を取り巻く状況、退院支援強化に向けた制度改正や報酬改定の動向について概観した後、医療機関の退院支援体制や介護支援専門員との連携上の課題抽出および改善策の提案を行う。第1回目の今回は「入院を取り巻く状況と制度改正の動向」について解説する。 
 
 

■入院を取り巻く状況

 
1.入院患者の高齢化(表1)
 2011年の患者調査によると、調査日の入院患者は134.1万人で、うち75歳以上は66.2万人(49.3%)となっている。75歳以上の入院患者数は、1999年は51.6万人(34.8%)、2005年は63.9万人(43.7%)であり、入院患者数、構成割合ともに年々増加している。
 
 今後、年少人口(0-14歳)、生産年齢人口(15-64歳)は年々減少、65-74歳人口も2015年をピークに減少する一方で、75歳以上人口のみ急増する。同 調査によると、入院受療率は、75歳から急激に高くなることが知られている。 したがって、今後、75歳以上の入院患者数及び構成割合がますます増加すると考えられる。
 
 
 
2.家族機能の低下(表2)
 国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、世帯総数は2010年の5,184万世帯から2019年まで増加した後減少に転じ、2035年には4,956万世帯に減少すると見込まれている。我が国はすでに人口減少局面に入っているが、その中で2019年まで世帯数が増加することは、世帯の規模が縮小していることを意味する。 
 
また、世帯主75歳以上の世帯数が世帯総数に占める割合も、2010年の14.1%から2035年には23.7%に増加、75歳以上の独居者数も、2010年の269万人から2035年には466万人に増加する。退院後の受け皿としての家族機能は、今後ますます低下すると考えられる。
 
 
 
3.療養病床数の減少(表3)
 高齢者の長期療養施設である療養病床数(医療療養と介護療養の合計病床数)は2005年に38.4万床まで増加した後は減少に転じ、2011年現在、34.4万床となっている。 
 
 一般病床からの退院患者の受け皿である療養病床数も、2005年をピークに年々減少しているのである。
 
 
 
4.要介護高齢者の自宅退院の流れ~ 7割は急性期病床からの直接自宅退院~
 兵庫県の介護支援専門員を対象とした自宅退院事例調査(n=783)によると、入院元の病床種類は、 「急性期病床」が65.4%と最も多く、次いで「回復期リハビリテーション病床(以下、回復期リハ病床)」22.0%、「療養病床」9.3%の順であった。 
 
 要介護高齢者の自宅退院の流れは、急性期病床から回復期リハ病床を経て自宅へという流れよりも、急性期病床から直接自宅に退院するケースの方が多いのである(静岡県、滋賀県の2県でも同様の調査を実施したが、結果はほぼ同じであった)。
 
 

■退院支援の機能強化に向けた制度改正や報酬改定の動向

 
1.一般病床の機能分化と平均在院日数の短縮化の推進
  平成24年6月30日に公表された「社会保障・税一体改革成案」で提案されているのは、現行の一般病床を高度急性期病床、一般急性期病床、亜急性期病床等に分けた上で、現時点の一般病床全体の平均在院日数(約17日)を、2025年には一般急性期病床で9日程度に短縮するというものである。
 
 上述したように、2011年現在、入院患者の約7割を65歳以上が、約半数を75歳以上が占めている。受け皿となる家族機能も低下し、長期療養の受け皿となる療養病床数も2005年以降減少している。このような状況下で、平均在院日数の短縮化が進められようとしているのである。そのため、病院(特に、急性期病床)と介護支援専門員を含めた在宅関係者間の連携をより一層強化し、“高齢者の早期退院”を支援するシステムを、地域レベルで早急に構築する必要がある。
 
2.退院支援強化に向けた報酬改定の流れ
 平均在院日数の短縮を図るためには、医療機関間、医療機関と介護関係者間の連携強化が必須となる。厚生労働省はまず、急性期治療を担う病院とその後の回復期治療等を担う病院間の連携を強化するため、2006年に“地域連携診療計画管理料”や“地域連携診療計画退院時指導料”などの診療報酬を新設した。
 
 さらに、医療機関と介護関係者間の連携強化を図るため、入院中の病院関係者が介護支援専門員に対して退院後の必要サービスを指導する行為を評価する“介護支援連携指導料”、診療所や200床未満の病院が退院後の診療情報を計画管理病院に提供する行為を評価する“地域連携診療計画退院時指導料(Ⅱ)”、急性期病棟における高齢者の自宅退院支援を評価する“急性期病棟等退院調整加算”を2010年に、介護支援専門員の退院支援への関与を評価する“退院・退所加算(Ⅰ)(Ⅱ)”を2009年に新設した。2012年の同時改定では、早期退院支援の強化をはかるべく、退院調整加算の新設や各種加算の算定要件の見直しなどを行った。こうして、急性期入院から自宅退院までの退院支援強化を目的とした報酬設定がほぼ完成したのである。今後問われるのは、“退院支援の質”となる。 
 
 

■まとめ~平均在院日数の短縮化政策が進められる背景~ 

 
 入院を取り巻く状況のポイントを整理すると、 
  • 「現在、入院患者の約7割を65歳以上が、約半数を75歳以上が占めている。」
  • 「2025年にかけて75歳以上人口が急増するため、今後75歳以上の入院患者数と構成割合の増加が見込まれている。」
  • 「世帯規模は縮小しており、退院後の家族の受け皿機能はますます期待できなくなる。」
  • 「長期療養の受け皿となる療養病床数も2005年をピークに減少している。」
などである。 
 
 患者調査によると、年齢階級別入院受療率は、「65-74歳」1.9%、「75-84歳」3.8%、「85歳以上」8.1%となっている。今後、入院受療率の高い75歳以上人口、特に85歳以上人口が急増するため、本来であれば入院患者数は増えることになる。しかしながら、財政面での限界もあり、病床数は増やさない、ないしは減らす方向にある。入院需要が膨らむのに病床は増やさないのであるから、病床の回転を上げる(平均在院日数を短くする)政策が推進されることになるのである。 
 
 次回は、医療機関の退院支援体制や介護支援専門員との連携上の課題について整理する。 
 
 
 
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川越雅弘(国立社会保障・人口問題研究所)
 
【参考文献】 
1.川越雅弘,備酒伸彦,森山美知子:要介護高齢者に対する退院支援プロセスへのリハビリテーション職種の関与状況―急性期病床,回復期リハビリテーション病床,療養病床間の比較-,理学療法科学,26(3),pp.387-392,2011.
2.川越雅弘:要介護高齢者に対する自宅退院支援の現状と課題,静岡県医師会報,pp.6-9,2012. 

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