コラム

    • "自民党は生まれ変わったのか?" 試される社会保障改革

    • 2012年12月25日2012:12:25:00:05:00
      • 河合雅司
        • ジャーナリスト

 

師走の決戦となった衆院選は、自民党の政権返り咲きという結果で幕を閉じた。だが、「野党を経験した自民党は、本当に生まれ変わったのだろうか?」と疑問を抱きながら、投票した人も少なくないだろう。
 
その答えのチェックポイントの一つになりそうなのが、社会保障改革の行方だ。
 
自民党の政権公約には、「自助、自立を第一に」と書かれている。なるべく政府を頼らず、個々の努力によって暮らす社会を目指そうということだろう。
 
野田政権下の社会保障と税の一体改革において、消費税増税スケジュールが決まり、当面の安定財源確保にめどはついた。とはいえ、高齢化で伸び続ける社会保障費を抑制しなければ早晩、財源は枯渇する。
 
老い行く日本において、巨額の財源を要するのは社会保障だけではない。高度経済成長期に集中的に造られた道路や橋梁、港湾などは老朽化が進み、大規模修繕や作り替えを迫られつつある。国土交通省の試算では、2060年までにかかる維持管理や更新費用は190兆円に及ぶという。社会保障財源の捻出だけでも汲々としているのに、簡単に賄える額ではない。
 
今後、勤労世代が急激に減って行くことも考え合わせれば、自民党が目指す「自助自立」は方向性として間違っていない。
 
だが、問題は「自助自立」の意味するところだ。自民党の政権公約を見る限り、どうも心許ない。社会保障費の切り込み策として目立つのは、生活保護費の見直しぐらいだ。
 
同党の総合政策集「J-ファイル2012」によると、生活保護について「給付水準の10%引き下げ」、「就労斡旋を断った場合の給付の減額・停止の仕組みや有期制の導入などを検討」と記されている。生活保護費の半分を占める医療扶助について、「ジェネリック薬の使用義務化」-などともしている。
 
確かに、生活保護をめぐっては民主党政権下で急激に肥大化した。不正受給が相次いで発覚し、国民に不公平感が広がっている。働けるのに受給しているような“怠け者”がいるのであれば、排除するのは当然のことである。
 
だが、社会保障費の抑制効果からすれば、生活保護の見直しで捻出できる額は多くを期待できない。仮に、生活扶助を1割カットしたところで1千億円足らずである。医療扶助でジェネリック薬を普及させたとしても目を見張る削減とはいかないだろう。
 
生活保護は「最後のセーフティーネット」である。本当に生活保護を必要とする人が、給付水準の引き下げで生活できなくなったのでは本末転倒となる。
 
そもそも、制度自体が壊れてしまったのでは元も子もない。このため、厚生労働省からは「自民党も、衆院選で民主党との違いを際立たせようとしただけだろう」といった懐疑的な見方さえ出ている。
 
では、自民党が掲げるもう一つの財源捻出策である「公務員総人件費を抑制(国・地方合わせて2兆円)」-という案はどうだろう。2兆円というのはまとまった額であるが、毎年1兆円規模で伸び続ける社会保障費の「自然増」を賄えるわけではなく、やはり根本的な解決策とはならない。
 
では、どうすべきなのか。「自助自立」を掲げる以上、すべての世代が支払い能力に応じて負担する仕組みに改めることだ。新生・安倍政権には、市場経済で競争に敗れた「敗者」が再びチャレンジできる仕組みを作ることが求められている。
 
民主党政権が犯した大きな間違いは、障害などで働きたくとも働けない「社会的弱者」と、競争に敗れた「敗者」を混同し、すべてを「弱者」として救済すべき対象に位置づけたことである。
 
一度や二度失敗したたしても、再び挑戦する機会さえあれば「勝利」をつかむ人はいるはずだ。高齢者だって、すべてが「弱者」とは限らない。若い世代より収入が多い高齢者も少なくない。
 
まず、「社会的弱者」と「敗者」を明確に区別する。生活保護の不正受給者や“怠け者”にとどまらず、本当に政府が手を差し伸べなければならない人を絞り込むことから始めなければならない。
 
とはいえ、再チャレンジの仕組みを作るには少々時間を要するだろう。そこで、新生・安倍政権の覚悟を示すために、最初に着手すべきは、高齢者向けサービスへの切り込みである。具体的には、70~74歳の医療費窓口負担の2割への即時引き上げ、デフレ経済下での年金減額、高所得者の基礎年金国庫負担分の減額-の3点セットだ。
 
若年層の雇用環境が悪化する中、世代間格差への批判が強まり、社会保障への信頼は揺らいでいる。すでに高齢者となっている世代の“逃げ切り”を許せば、将来的に避けられないであろう年金支給開始年齢の引き上げについて、若者世代に理解を得ることなど到底できない。
 
これまで自民党政権といえば、国政選挙が近づくと高齢者の負担増やサービスカットにつながる政策を先送りし、バラマキに走る姿勢が目立った。今回の政権公約でも、サービス拡充策が目に付く。
 
早くも、自民党内からは、来年の参院選をにらんで、「国民に痛みを求めなければならない社会保障の改革メニューは参院選後まで棚上げにすべきだ」との声が漏れ始めている。政府の有識者会議「社会保障制度改革国民会議」の最終報告の取りまとめ時期を、参院選後にしようとの動きだ。
 
新生・安倍政権が党内のこうした声を封じ込め、「古い政治」と決別できるのか。自民党の生まれ変わりが試されている。
 
 
 
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河合雅司(政治ジャーナリスト)

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