コラム

    • 不当労働行為に関する近時の裁判例とその考察

    • 2012年10月30日2012:10:30:00:00:05
      • 尾畑亜紀子
        • 弁護士

 

1 不当労働行為救済制度とは、憲法28条における団結権等の保証を実効的にするために、労組法に設けられている制度である。
 
2 不当労働行為の行為態様として、よく取り沙汰されるのは,労組法7条2号の団体交渉拒否と4号の不利益取り扱いである。
 
3 近時、職場で労働問題(労働条件の不利益変更、配転、解雇など)が発生したとき、労働者がいわゆる合同労組に加入して団体交渉が申し入れられることがある。
 
その際、外部の団体からの申し入れであると理解して団体交渉を拒否すると、労働委員会に不当労働行為救済申し立てがなされることがある。
 
もっとも、使用者からすれば見ず知らずの団体から突然団体交渉を申し入れられても、対応に苦慮することがあるであろう。
 
また、かかる合同労組に加入した従業員に対し、軽々に配転など指示したり、解雇をしたりすれば、たちどころに支配介入、あるいは不利益取り扱いなどと糾弾されかねず、適切な人事管理に支障が生じる場合がありうる。
 
そこで、本稿では、不当労働行為が成立しないとされた2例を紹介しつつ、いかなる場合に団体交渉を拒絶できるか、いかなる場合に会社の業務指示、あるいは解雇通告が不当労働行為に該当しないのか、比較的最近の下級審判例を通じて考察したい。
 
 
4 まず、東京地方裁判所平成22年(行ウ)第681号、日本工業新聞新社事件である。本件は、日本工業新聞社の従業員であったAが配転の内示を受けた後、労働組合である原告から複数回にわたる団体交渉の申し入れを受け、会社が拒絶したという案件である。
 
原告は、マスコミ関連産業の労働者で組織されたいわゆる合同労組であり、上記団体交渉拒否を理由として東京都労働委員会に不当労働行為救済申立を行った当時、組合員は12名であった。
 
原告の設立当時の名称は、「反リストラ・マスコミ労働者会議・産経委員会」であった。
 
原告の結成経緯は、概略次に述べるとおりであった。すなわち、平成5年12月17日、時事通信社の記者ら約10名が飲食店に集まり、会社の中期経営計画に反対するために労働組合を結成する準備会を開いた。平成6年1月10日、約10名が喫茶店に集まり、原告の組合結成大会を開き、名称を「反リストラ・マスコミ労働者会議・産経委員会」とすることおよび組合規約の骨子を定め、Aが筆頭代表幹事に就任した。
 
一方、Aは平成6年2月の定期人事異動において、組織改革によって設置される千葉支局の支局長に起用された。
 
この配転に関して、原告は、会社に対し、平成6年1月28日に団体交渉ルール、組合専用掲示板の設置、組合事務所の設置等を議題として、同年2月1日、同月2日および3日にそれぞれ本件配転を議題として、4回にわたり団体交渉を申し入れた。
 
会社は、①原告が労働組合を標榜するのに、労働組合をうかがわせる名称を使用していないこと、②企業の枠を超えて結集したというのにその名称が「産経委員会」と企業の枠を設定したものとなっていたこと、③労働組合の代表者として、通常は執行委員長1名であるのに、Aのほか1名の計2名が代表者として記載され、かつ、その肩書が「代表幹事」と表記されていたこと、④もう一人の代表幹事は、時事通信社を解雇されて同社に結成されている労働組合の代表幹事であったことなどから、原告が正規の労働組合かどうかについて疑義を抱いたこと、会社はこの点を確認するために、Aに対して組合規約等の提出を求めたところ、Aはこの提出要求に応じなかったこと、会社は、上記の疑義が払拭できない以上、正規の労働組合かどうか確認できない原告との団体交渉に応じることができないとして、団体交渉に応じなかったこと、会社は、同年2月1日、同月2日および同月4日の団体交渉申し入れについても、同様の理由で応じなかった。
 
会社は、原告が労組法に適合した労働組合であるかどうか疑問を抱き、その点を確認するために組合規約、組合員名簿の提出を求め、これが提出されない限り団体交渉には応じないとの態度で原告に対応していた。
 
かかる事案に関し、裁判所は、「労組法上の適用を受ける労働組合とは、労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的知音向上を図ることを主たる目的として組織する団体または連合団体であって、労組法2条但し書き各号の要件に該当しないものをいうのであり、このような労働者を主体とする団体として設立されたものであれば、労組法上の労働組合と扱わなければならない」との一般論を説示し、他方、使用者にとっては、団体交渉を申し入れた者が労組法上の労働組合かどうかの確認は、労組法11条所定の適合証明を受けていない労働組合については、組合規約等の書類や当該労働組合の活動実績の認識によって行うことになると考えられるところ、特に設立したばかりの労働組合は、その活動実績がなかったり、仮にあったとしてもそれを把握する機会がなかったりして、その確認は一般的に困難な場合があると考えられると認定した。
 
これを本件についてみると、原告は平成6年1月10日に設立されているが、会社に対して結成通告がされたのは同月28日であり、それまでの間に会社にわかるような形で組合活動をしたことは伺われず、4回の団体交渉の申し入れは、同日からわずか1週間の間に行われているものである。
 
したがって、原告の労働組合としての法適合性に疑義を抱いたことが不合理であるとは言い難く、その疑義を払拭するべく、原告の代表者であるAに対してその実態を認識しうる組合規約等の資料の提出を求め、その提出がされて原告の労働組合としての実態の確認ができるまでは団体交渉に応じないとの態度をとったことは、最初の団体交渉が申し入れられてから1週間という短い期間で連続的に行われた上記4回の団体交渉申し入れのいずれに対してもやむを得ない対応であるということができるから、その意味において団体交渉拒否には正当な理由があるということができると認定した。
 
以上のとおり、会社が、組合を、法適合組合とは認識できない経緯があったという事案である。すなわち、合同労組一般に対する団体交渉拒否が認められたわけではないことに注意を要する。
 
 
5 次に、東京地裁平成22年10月27日判決、論創社事件である。
 
有限会社論創社は人文社会学系の書籍の編集、出版等を目的とする有限会社である。原告は会社の本店がある東京都千代田区等の事業所の従業員らで組織されたいわゆる合同労組である。Bは、平成15年4月から、平成17年3月まで、Z大の任期制助手を務めつつ、平成15年7月1日、会社との間で賃金月額15万円と定めて雇用契約を締結した。
 
平成16年夏ころ以降、正社員に対して賃金減額や退職勧奨が行われたことから、雇用契約の継続可能性等に不安感を抱くなどして同年11月9日、原告に加入した。
 
原告と会社は、平成17年1月14日から同年3月24日までの間、本件雇用契約の継続可能性等について、5回の団体交渉を行った。しかし、会社は平成17年3月31日、Bとの雇用契約を打ち切った。
 
原告は、平成17年4月及び9月、東京都労働委員会に対し、Bの雇用打ち切りは組合員に対する不利益取り扱い(労組法7条1号)及び支配介入(同条3号)の不当労働行為に該当する、会社が団体交渉で不誠実な対応をしてその後の団体交渉に応じなかったことは、団体交渉不応諾(同条2号)の不当労働行為に該当すると主張して、救済命令申立てを行った。
 
東京都労働委員会は平成19年7月、雇用打ち切りと団体交渉不応諾が不当労働行為を構成するとして救済命令を発動した。会社はこれを不服として再審査申し立てを行った。
 
中央労働委員会は、平成21年1月、東京都労働委員会の判断を覆し、命令を取消、原告の申し立てを棄却した。
 
本件は原告が平成21年7月に、中央労働委員会の判断の取り消しを求めて提起した事件である。
 
裁判所は、会社とBとの雇用契約について、給与の額が低額であり、勤務日数も週4日と合意されるなど、Bが助手であることを前提として締結されており、Bは大学の用務を優先してよいという、他の従業員にはない優遇措置を受けている。そうすると、会社としては、同人が助手であることを不可欠の考慮要素として雇用契約の諸条件を定めたものといえる、Bは本件雇用契約の締結に当たって助手の任期満了後は正社員になることを希望していたが、その際、将来の勤務条件の交渉等が行われた形跡はうかがわれない、という事実を認定し、このような事実によれば、本件雇用契約は期間をBの助手の任期満了までとする有期契約であるというべきであり、平成17年4月以降、Bを正社員とするという合意を認めることはできない、と判断し、会社がBの雇用契約を打ち切ったことは、不利益取り扱いおよび支配介入とはいえないとした。
 
また、団体交渉の打ち切りが不当労働行為を構成するか否かについては、団体交渉において、労使双方が当該議題についてそれぞれ自己の主張、提案、説明を出しつくし、これ以上交渉を重ねても進展する見込みがない段階に至った場合には、使用者は交渉を打ち切ることもやむをえないものというべきである(最高裁平成4年2月14日判決)との一般論が説示され、Bの雇用問題については、本件団体交渉において5回にわたり、合計約7時間をかけて議論が交わされたが、会社の代表者自ら毎回団体交渉に臨んでおり、団体交渉の場所や日時についても速やかに合意され、出席者や出席者数等を巡って労使が対立したこともない、会社の代表者はBが大学助手の期間中アルバイトをさせてほしいと申し入れてきたために期間を平成17年3月31日までと定めて雇用契約を締結したこと、12月28日の面談で雇用打ち切りを通告したことを繰り返し述べており、これに対して原告はBの勤務実態に照らせば期間の定めや経営不振を理由として本件雇用の打ち切りをすることはできない、平成17年4月以降引き続きBを正社員の待遇で雇用すべきであると主張して、話し合いは平行線をたどったことが認定された。
 
そして、裁判所は、このような団体交渉の経過によれば、原告と会社は互いに自らの主張を繰り返して譲らず、話し合いが平行線のまま膠着したものということができる、そうすると、一方当事者である会社の対応だけを直ちに不誠実と認めることはできない、とした。
 
また、裁判所は、第5回団体交渉の後は、会社が原告の団体交渉の申し入れに応じていないが、原告と会社との話し合いが平行線のまま膠着していたのであるから、そのような場合に、弁護士などの法律専門家に依頼して労働委員会などの第三者機関における紛争解決を求めようとすることも使用者の判断としては相応の合理性を有するものであるといえ、これを団体交渉不応諾とまでいうことはできない、と認定され、以上によれば、会社の本件団体交渉等における対応は、労働組合法7条2号の不当労働行為に該当すると認めることはできないと判断された。
 
 
6 団体交渉では、組合の要求事項に対して会社が拒絶せざるを得ないケースが多いが、膠着すれば直ちに不当労働行為と主張しがちな組合の主張を是としなかった裁判例は、使用者側にとっては朗報であろう。また、組合員の配転についても、それだけで不利益取り扱いとして団体交渉申し入れ、不当労働行為救済申立ての段階を踏むケースが多いが、これについても会社の合理的な人事権の発動が認められたことは、人事担当者には励みになる判決といえる。
 
団体交渉に臨む機会が多い者としては、立場の違いもあるためか、なかなか会社の説明を理解してもらえないケースもあり、紛糾することもあるところ、要求事項に対する0回答が、直ちに不誠実団交ととらえられることがあるのは誠に残念なことである。この不況の時代に、立場を超えて、団体交渉において労使双方が協同していくことができれば団体交渉は実りのあるものになろう。
 
 
 
--- 尾畑亜紀子(弁護士)

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