コラム

    • 米国で感染が広がる新型インフルエンザH3N2vの脅威

    • 2012年09月18日2012:09:18:00:00:05
      • 外岡立人
        • 医学博士、前小樽市保健所長

 

■WHO・OIE・FAOの共同発表

 
 昨年12月、WHOは、以下の声明をOIE(国際獣疫事務局)、およびFAO(国連食糧農業機関)と共同発表した。
 
「2011年7月以来、変異型A(H3N2)ウイルスによる感染者が米国で12人発生している。その後、他の国からの報告はない。
 
このウイルスは近年流行している季節性インフルエンザウイルスとは異なり、新しい遺伝子で構成されている。
 
当ウイルスの保有する8つの遺伝子のうち7つの遺伝子は、北米の豚の間で流行っている、遺伝子が3重再集合した(triplereassortant)A(H3N2)ウイルス由来で、もう一つは先のパンデミックウイルスであるA(H1N1)pdm09ウイルスのM遺伝子である。
 
当該ウイルスに関するコミュニケーションを改善するために、FAO、OIE、およびWHOは用語の標準化を図るワーキンググループを立ち上げて検討した結果、当ウイルスをA(H3N2)vと命名した。“v”とは“variant”を意味する。」
 
 

■H3N2vについて

 
 遺伝子が3重再集合した豚インフルエンザウイルスのA(H3N2)感染者は、近年米国で時々報告されてきた。感染は全て豚との接触であるが、特に豚品評会が開催された際に参加者が感染することが多い。
 
 しかし、今回のH3N2vは、WHOの説明にもあるように、それらウイルスに先のパンデミックを起こした豚インフルエンザのM遺伝子が加わった変異型であり、特に豚から人への感染率が高くなっているようだ。
 
 ウイルスは2010年に豚で初めて見つかっているが、人での感染が確認されたのは2011年7月であった。2011年度は十数人程度の発生のようであったが、今年度は7月12日に初めての報告があったが、その後感染者数は増えだし9月上旬段階で296人に上っている。報告は国内10州で見られているが、その範囲は拡大しつつあるようだ。
 
 オハイオ州で三分の一と最も多く発生しているが、それは畜産農家が多い事と豚品評会が頻回に開催されているせいのようである。
 
 感染者の年齢は6ヶ月から51歳と幅広いが、その多くは子供達である。症状はクシャミや咳程度であり軽症とされるが、最近では慢性疾患を持つ高齢者が感染して死亡している。当局では5歳以下の小児、65歳以上の高齢者、そして免疫低下者には注意するように呼びかけている。
 
 

■今後の展望

 
 当H3N2vインフルエンザウイルスが変異を重ねて人の間で感染しやすくなると、従来の香港型H3N2インフルエンザと置き換わる可能性がある。その時点でH3N2vウイルスの病原性が現在のような軽症型であるか、さらに深刻化した病原性を呈するようになっているかは予知出来ない。
 
 現時点では多少の家族内感染を起こしているが、基本的に感染は豚との接触とされている。米国外での感染例は報告されていないが、本土から離れたハワイ州での報告例があることが気になる。筆者は分からないが、米国産の豚が米国外に輸出されてウイルスも同時に拡大するのか、または他の介在物によって拡大するのか詳細は不明である。
 
 今後、季節性インフルエンザが発生し出したとき、H3N2インフルエンザがこれまでの香港型であるのか、またはH3N2vであるのかは厳重な監視が必要となる。
 
 
 
---外岡立人(医学ジャーナリスト、医学博士)

コラムニスト一覧
月別アーカイブ