コラム

    • 約束が違うぞ! 消費税増税

    • 2012年09月04日2012:09:04:00:04:22
      • 河合雅司
        • ジャーナリスト

 

 「なんだか、話が変だ」-。整備新幹線の起工式のニュースを見て、こんな違和感を抱いた人も少なくないことだろう。
 
 野田佳彦首相が政治生命をかけた社会保障と税の一体改革関連法が民主、自民、公明の3党の協力によって成立し、2014年4月に8%、15年10月に10%に税率が引き上げられることが決まったばかりである。このタイミングを狙いすましたように大型公共事業に着手したというのは、あまりに露骨なやり方だ。
 
 そもそも、「増税しなければ国の財政はやっていけない」ということだったはずだ。「そんな財政的ゆとりがどこにあるのか」との印象をぬぐえない。民主党政権は高速道路の拡幅も決めている。だが、整備新幹線も高速道路の拡幅も、本格的な人口減少社会を迎え、採算面に疑問があるとして歴代政権が二の足を踏んできた政策である。
 
 政府の消費税の説明を思い出してもらいたい。消費税率を5%分引き上げることで、13.5兆円の増収が見込まれる。野田政権は「社会保障の安定財源確保のためだ」と説明し、その全てを社会保障に使うと繰り返してきた。一方で、「日本財政は世界に類例がないほどの借金漬けとなっている。これ以上、借金を重ねれば、基礎的財政収支の黒字化は不可能となり、日本が国際的な信用を失う」とも強調してきた。
 
 こうした説明を聞く限り、「今後の社会保障費は消費税増税分で賄い、増税によって財政にゆとりが生じた分は赤字国債の発行を減らすために使う」と理解するのが自然だ。
 
 お金に色がついているわけではない。消費税増税を決めたら直ちに、大型公共事業の着手では、「増税で財政にゆとりが生じることを当て込んで、公共事業に回した」と受け止められても仕方がない。「だまし討ち」と怒りを覚える人だっていることだろう。
 
 「新幹線延伸や高速道路をつくる金があるのなら、消費税増税する必要はなかったのではないのか」、「増税を回避できないまでも、もっと増税幅を抑制できたはすだ」といった批判の声も出ているが、当然である。
 
 始末が悪いのは、大型公共事業への歳出圧力を強めているのは、民主党だけではないことだ。自民党は「国土強靱化基本法案」を国会提出し、10年間で200兆円の公共投資を掲げている。公明党も「防災・減災」を推進すべく10年間で100兆円を目指している。
 
 思惑が一致した民主、自民、公明の3党は、一体改革関連法の付則に「成長戦略並びに事前防災及び減災等に資する分野に資金を重点配分する」との一文を書き加えた。今後ますます大型公共事業への歳出圧力が強まることだろう。これでは、何のための消費税増税なのか分からない。
 
 なぜ、こんな話になってしまったのだろうか。背景には、次期衆院選をにらんだ与野党の公共事業のバラマキ競争への思惑がある。民主党の政調関係者は「消費税増税だけではとても選挙にならない。有権者へのアメが不可欠だ」と本音を漏らす。自民党からは「消費税を引き上げるには、景気刺激が必要だ。地域の実情を考えた施策を講じていく必要がある」との声も聞こえる。
 
 しかし、こう語る国会議員らも、大型公共事業の経済効果が一時的なものに過ぎず、景気刺激の名前を借りた安易な歳出拡大が赤字国債の膨張を招いてきたことを忘れたわけではないだろう。またしても、同じ過ちを繰り返すつもりなのだろうか。
 
 もちろん、公共事業がすべてバラマキで無駄遣いというつもりはない。東日本大震災以降、防災の必要性は多くの国民が感じている。しかし、「防災や減災という名目での公共事業ならば、世論の批判もかわしやすい」と安易に考えているなら大きな間違いだ。本当に必要な公共事業は、消費税増税による税収増分をあてにするのではなく、既存予算を切り詰めたり、民間を巻き込むことで財源捻出すべきであろう。
 
 過去の消費税増税時に比べて、今回は驚くほどに世論が静かである。多くの国民が「これから少子高齢化の本番を迎え、社会の支え手が減る一方で社会保障を使う高齢者が増え続ける。社会保障を維持するためだからといって、いつまでも赤字国債を乱発して将来世代に負担のツケを回し続けるわけにはいかない」と思っているからだ。
 
 だからといって、国民は、いたずらに歳出増加することまで容認しているわけではない。もし、このまま、税収増によって財政にゆとりが生じる分を、社会保障費以外の歳出に大盤振る舞いしたら、黙ってはいないだろう。
 
 そうでなくとも、社会保障の抜本改革を検討するための「社会保障制度改革国民会議」は選挙後に先送りされそうだ。与野党双方から「選挙前に国民に痛みを強いるような社会保障費抑制策を打ち出して、選挙戦の争点にでもなれば大変なことになる」と、ここでも衆院選を意識した駆け引きが見え隠れする。むしろ、財源のあてなき社会保障の充実を再び政権公約に掲げようという動きすらある。
 
 選挙戦を有利に運びたいとの思いから、大型公共事業や社会保障費への大盤振る舞いを競うことになれば、近い将来、消費税の再増税や負担増が避けられなくなる。結局、ツケは国民に回るだけだ。
 
 「近いうち」とされる衆院選。国民は税金の使途をしっかり見ている。安易な”人気取り策”を繰り返せば、消費税増税反対派だけでなく、これまで増税に理解を示してきた有権者からも鉄槌が下ることだろう。
 
 
 
---河合雅司(政治ジャーナリスト)

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