コラム

    • 貿易収支と日本への信認

    • 2012年02月14日2012:02:14:00:05:00
      • 長谷川公敏
        • エコノミスト

 先日、昨年1年間の日本の国際収支が発表された。国際収支は貿易収支や所得収支などを加えた経常収支、更に投資収支などを加えた資本収支などから算出されるが、市場関係者や政府で話題になったのは、貿易収支の赤字転落と経常収支の激減だった。

 

 国際収支は月毎の数値が毎月発表されるため、1年分の合計で貿易収支が赤字に転落することや、経常収支が激減することは、事前に十分予想されていたことだ。ただ、「貿易収支は昭和55年以来の赤字」、「経常収支は▲44%も減少」という数字を目の当たりにし、関係者は改めて日本経済の現実を実感した。

 

 

■赤字の要因

 

 貿易収支が赤字になったのは、昨年3月の大震災や夏に起きたタイの洪水の影響で日本企業の生産活動が低下、更に欧州や中国などの海外景気が停滞したことから輸出が減少し、一方で、原発問題から火力発電増強のための燃料輸入が大きく増加したためである。

 

 幸いなことに、海外景気や円高などの輸出抑制要因はあるものの、日本企業の生産活動は戻り歩調にあるため、今後の輸出は盛り返していくものと思われる。

 

 一方、原発問題の行方は全く予断を許さない。電力需給がタイトな中、ガスタービンによる火力発電設備は比較的短期間で完成することから、今後も日本の電力エネルギーは、ますます火力発電に頼らざるを得なくなるものと思われる。

 

 

■LNGの輸入価格

 

 火力発電が増えたため、昨年のLNG(液化天然ガス)の輸入は前年に比べて数量で+12%、金額で+38%も増加し、輸入金額は前年比+1.3兆円の4.8兆円に膨らんだ。今後もLNGの需要増加が見込まれるが、問題なのは日本のLNGの輸入価格だ。現状の輸入価格は天然ガスの市場価格に比べてかなり高く、米国の数倍、欧州の2倍以上だとされている。

 

 

■市場価格は暴落しているが・・・

 

 天然ガスの市場価格は、米国などでシェールガスの採掘技術が進んだことから大幅に低下し、熱量換算値で2009年ごろから原油価格とかなり乖離している。ただ、日本のLNG輸入価格の値決め方法は「日本の輸入原油価格連動方式」であるため、日本のLNG輸入価格は天然ガスの市場価格に比べてかなり高い。

 

 日本がこうした値決め方式を採用したのは、日本が欧米などのようにパイプラインで天然ガスを運ぶことが出来ないため、長期安定的に量を確保することを優先したこと、値決め方式を決めた時代は、熱量換算値で原油と天然ガスの価格はほぼ同じだったことなどによる。しかし最近は、熱量換算値の百万BTU(英国熱量単位)当り、天然ガスの市場価格が2.5ドル程度なのに、日本のLNG輸入価格は15ドル以上している。

 

 

■信認維持のため

 

 貿易収支の赤字転落に伴い経常収支が激減したことから、経常収支の赤字転落が視野に入ってきた。経常収支が赤字になるということは、日本は国として海外から借金することになるため、ますます日本の財政問題がクローズ・アップされることになる。

 

 もちろん、日本の財政健全化が重要であることは論を俟たないが、それよりも日本のエネルギー問題の先行きが不透明で日本経済の展望が開けなければ、日本への信認は得られないだろう。

 

 原発問題という日本のエネルギー事情を考えれば、これまでの経緯はあるものの、何としてもLNGの値決め方式を是正しなければならないのではないか。仮に、LNGの輸入価格が欧州並みだったら、昨年の貿易収支は赤字にならなかった計算になる。

 

 

 

--- 長谷川公敏(第一生命経済研究所)

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