コラム

    • 大震災と歯科医療

    • 2011年06月21日2011:06:21:00:05:00
      • 岡光序治
        • 会社経営、元厚生省勤務

 

 愛知県在住の友人の歯科医師を囲む集まりがあり、そこで見聞きしたことを材料に表記について見解を述べます。 
 
 
 この会合は4月中旬に開かれました。会のテーマは、3.11を受け当初の予定を変更し、「大震災と歯科医療」でした。 
 
 日本歯科医師会の代表の方は、早速全国から歯科医師を現地に派遣したこと、必要とする治療材料などを関係者の協力のもと運びこんだこと、歯科クリニックもその多くが流されたので公の力で拠点を作ってもらいそこから診療活動を開始したこと、引き続き死者の本人確認のため歯型の鑑定資格医を計画的に送り込むこと、等を述べられました。 
 
 
 興味を引いたのは、神戸市所属の歯科医で阪神・淡路大震災に遭遇し、日々の対応に追われた経験者のお話でした。
 
 内容は率直なもので、①東日本大震災での対応において歯科の影が薄いこと、②被災地では、破壊を免れた医療機関の建物などを拠点に医療活動が再開されているのに歯科の診療活動はその中に含まれていない、歯科にお呼びがかかっていない、医科と歯科の連携が図られていない状況が見られることは、見逃せない問題である、というものでした。 
 
 併せ、阪神・淡路大震災から東日本大震災へ伝えるべきこととして、避難所生活や仮設住宅での生活では、高齢者・災害弱者を中心として体調を崩す方が増え、肺炎が多く発生し死亡につながるケースが出てくることが予想されるので、その対策を優先し具体的な解決策に取り組む必要がある、とのことでした。 
 
 
 ちなみに、阪神・淡路大震災の死亡者は6,434人、うち圧死などの直接死は5,512人であり、それ以外の原因で震災後2か月以内に死亡した人たちは「震災関連死」といわれ、922人(総死亡者の14.3%)とのこと。この関連死の中での死因のトップが肺炎(24%)。その要因はインフルエンザの蔓延あるいは長く続く劣悪な避難所での生活環境、とくに極端な水不足によって口腔清掃の不良が引き金となり、誤嚥性肺炎をきたしたものと考えられるとのことでした。(これは免疫能力の低下した高齢者などが口腔内細菌を多く含んだ唾液を誤嚥することによって引き起こされるとみられています。) 
 
 この経験から、避難所などにおける誤嚥性肺炎の予防を優先すべきと指摘されていました。具体的には、ブラッシング・うがいによる口腔ケアの啓発、水場の確保と歯ブラシ・うがい薬の配布、をすべきとのことです。 
 
 
 また、そもそも論として、歯は食べる手段、食べなければたちまち死につながる可能性がある。避難所などでの寒く、劣悪な生活環境下、災害発生当初は特に冷たく硬い握り飯や固いパンしか食べるものがない中、どうやって食べてもらうか、どうすれば食べられ様な状態にすることができるのか、という発想が歯科医療の中には見当たらないという鋭い指摘もなされました。(こういう発想がなされないのは、今日の歯科教育の欠陥でもあると言及されもしました。) 
 
 これに対し、同席の歯科大学の教授からは、口腔からはじめて体全体の関連を教育しているとの反論のような弁解のようにも聞こえる回答(?)がなされてもいました。 
 
 
 以下、気がつく範囲で対応を整理します。 
 
  1. ブラッシング・うがいによる口腔ケアの啓発 。
  2. 水場の確保と歯ブラシ・うがい薬の配布。
  3. 歯周病疾患や入れ歯の不具合など口腔機能の基礎が整えられているか確認し、歯科治療につなぐ。 
  4. かむ力、飲み込む力、唾液の産生などの口腔機能の状況を把握。震災のストレスによる不具合、入れ歯の喪失、歯科医療の待機待ちなどで摂食機能が損なわれているかどうか。食べにくい状況にある場合の食べ方、食形態などを指導し、なにしろ食べられないことから生じる低栄養状態にならないような対応を総合的に準備する。 
  5. 具体的には、歯がなくとも、また、歯が数本残され入れ歯がない場合などにおいても、舌でつぶせるものは食べられる。固くないごはん、具材をよく煮て柔らかくした味噌汁。主食に偏ることを避けるため、サプリメントの摂取、肉や魚はレトルト食品や缶詰の利用。 
  6. 口はからだの一部。口腔から体全体を見る発想が不可欠。まずは、寄り添い、真の求めを探り出し、行動変容を促し、守備範囲を超えていれば、医科、看護、介護などにつなぐ。 
  7. 災害備蓄に当たり、火がない、冷たい環境においても、口腔機能が低下していても食べられる、“食べやすさ”を念頭に置いたレトルト食品、缶詰は必須(お燗ができるコップ酒がある今日、発熱装置を具備する缶詰はできるはず)。そうした食品の開発を歯科医も参加してメーカー、自治体とともに行うべき。 
  8. また、外国にみられる核シェルターの整備を本気で考える時代に来ている。自治体と協議し、政府の援助を得て、広域的に計画的に整備を検討すべき。まずは、原発周辺地域から試みることを提案する。
 
 
--- 岡光序治 (会社経営、元厚生省勤務)

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