コラム

    • 震災瓦礫のメッセージ

    • 2011年03月29日2011:03:29:10:00:00
      • 楢原多計志
        • 福祉ジャーナリスト

 

 横浜・山下公園を眼下に見おろす横浜貿易センタービル8階でコラムを書いている。山下公園は横浜観光スポットだが、意外に知られていないことがある。死者・行方不明10万人以上を出した関東大震災(1923年)が契機となって整備された公園であることだ。 
 
 

■神戸へ 

 
 震源地(相模湾)に近かった横浜では、海沿いの主要な建築物がほぼ全壊した上、強風による大火が重なり、死者・行方不明者は約2万3千人に達した。衣食住を求めて疎開した被災者も少なくなかった。
 
 復旧・復興の妨げとなったのが、当時、日本経済を支えていた生糸などの貿易拠点としての地位を神戸に譲らざるを得なかったこと。欧米人の貿易商の多くが山手から神戸や海外へと去って行った。内外の政治情勢が緊迫する中で、港湾や商業施設、住宅の再建は並大抵ではなかったようだ。
 
 被災現場では、大量に出た瓦礫の処理が大きな課題となっていた。そこで、考えられたのが、瓦礫を海岸沿いの海に投棄し、そこを埋め立て地として利用することだった。約7年後、復興のシンボルとして山下公園がオープンした。“震災瓦礫の埋め立て”。それが山下公園のルーツだ。
 
 

■機能不全 

 
 前置きが長くなった。東日本大震災は、避難者への支援と福島原発の対応が急務になっている。卒業・入学の時期となり、手っ取り早い、明るい話題として児童生徒らを取り上げるニュースが多くなったような気がする。「いつまでも悲嘆に暮れている場合ではない」とでも言いたいのだろう。それはそれでよい。「被災者に元気や勇気を与えたい」などど上から目線で語るプロスポーツ人や芸能人よりましだからだ。
 
 問題は、官庁発表をノーチェックで垂れ流す報道姿勢だ。特に原発・放射能関連ニュースがひどい。頼りない政治や行政を批判する一方で、報道機関として放射能に対する知識や見識がなさすぎる。“専門家”“有識者”の知ったかぶりと意味不明な解説は笑止千万で済ませても、消費者不安をあおり、買い占めに走らせるような実害を伴う垂れ流しは論外だ。 
 
 東京・金町浄水場の放射能問題では、こぞって東京都の発表内容をさんざん垂れ流したあとで、ペットボトル水買占めが深刻化すると、アナウンサーが「落ち着いて、冷静に対応してください」と繰り返していた。落ち着き、冷静になってほしいのは報道機関の方だ。
 
 メディアが十分に育っていなかった時代の関東大震災では、公安機関の思惑や人々の流言飛語が朝鮮人襲撃や物資買占めなどにつながった。今は違う。機能不全を起こしたマスコミがより多くの国民を惑わし、国民生活そのものを脅かす。
 
 マスコミは、その威力が増せば増すほど、「どうすれば、正確で役立つ情報を提供できるか!?」にかかってくる。風評被害を誘導したり、消費者を惑わしたりするような情報の垂れ流しは絶対にやってはならない。
 
 
 いつもより少ないが、今日も、山下公園に親子3人連れの姿があった。公園の下に震災瓦礫が沈んでいることに、たぶん気づかないだろう。それでも震災瓦礫は親子に関東大震災で亡くなった先人からのメッセージを伝えようとしているように思える。「デマを流すな」、「デマに惑わされるな」。
 
 
--- 楢原多計志 (共同通信客員論説委員)

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